現代人の法話 
〜 職人立国の日本に 〜

 ここのところわが国はどっちを向いても八方塞がりの感があり、日本人は自信を失い意気消沈してなす術を知らないようです。かつては政府や企業体の下、一致団結して復興や経済成長に猪突猛進し、世界第二の経済大国になったのも束の間で、バブルやプライムローンの崩壊後、終身雇用や年金制度もあてにならず、組織への忠誠心や勤労の精神が消滅寸前にあり、国際的な地位や競争力も低下する一方です。
 こうした憂うべき現実にもかかわらず、官民揃って何ら将来へのビジョンを見いだせず、いずれどうにかなるだろうと高をくくっています。国民の多くは経済大国の幻想に酔いしれて怠惰な精神にどっぷり浸かり、消費、享楽のその日暮らしに終始しています。このまま推移しますと早晩、わが国は世界から孤立し、自然消滅することでしょう。そうかといって、かつてのような軍事や経済大国を今更望むべくもなく、技術大国も今や中国やインドなどに追い抜かれつつあり、風前の灯火です。
 われわれはかつてのような不便、不快きわまりない社会に後戻りすることは不可能であり、そこでこの現状を打開し、資源、人口、外交共に見劣りするわが国が今後、生き残る道といえば職人立国くらいしかなさそうです。ここで言う職人とは中世でのクラフト的なマイスターで、素材を体験と勘によって付加価値をつける熟練者を指します。
 いくら今日のような情報社会でパソコンが普及しても、そこで得られるものはただ「見て知ってトクする」ことだけで、自ら考えて創造し、モノを生み出す満足感や充実感は得られません。自ら働かず、投機的にいくらカネを獲得し、贅沢な生活が享受できても、それはほんとうのしあわせに結びつきません。そうしたことにうつつを抜かすよりも、身近かなところで人と楽しく交わり、心を許し合える仲間から認められ、誰もが真似のできないモノを生み出す知恵を育てたほうが、どれだけ人生を豊かにすることでしょう。




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