現代人の法話 
〜 「バカの壁とお釈迦様」 〜

「話せば分かる」…人間関係の悩みの解決法の一つとして良く言われるが、先日ご講演くださった養老孟司先生はその著書『バカの壁』の中でこれを否定されている。つまり「話せば…」は万能な方法では無く、ある分野ではお互いに全く話が通じないバカの壁≠ェ存在し、それを乗り越えるのでなく、受け入れる事で気が楽になり、世界の見方が変わってくると説かれた。非常に似た例え話としてお釈迦さまの説かれた「群盲(ぐんもう) 象を評(ひょう)す」がある。

昔、ある国の王さまが数人の盲目(もうもく)、目の見えない方を集めて、大きな象に触ってもらい、その後で象とはどんな動物かを質問をされた。目が見えない彼らは一人一人象の近くに行って象に触れ、ある方は長い鼻に触って象とは太いなわのようだと答え、ある方は大きな耳に触って大きなうちわのようだと、またある方は足に触って立派な柱のようだと、さらにお腹に触った方は大きな壁のようだと、それぞれが触れた象の姿を心に思い浮かべ答えた。こうして十人十色の色々な答えが出ると、それぞれ自分の答えこそが正しいと思い込んでいる彼らは、お互いに何でそんなに間違った事を言っているんだ、私こそが正しいと皆で言い争い、ケンカを始めてしまった。

そこでお釈迦さまは、お弟子に向って諭(さと)された「盲目の人たちは、象の一部分を触りその姿を知ったが、その全体が分からなかったために、言い争いをすることになってしまった。これと同じで、世の中には少しの知識だけで、すべてを知ったと思い込んだ者が大勢おり、そういう者たちが争いを起すのだ。あなた方もお気をつけなさい」と。

「バカの壁」も同じ話である。私たちは意見が衝突したら他人の意見を頭から否定するのではなく、そういうモノの見方もあると尊重しその背景を考えてみる必要がある。そこに人間関係の悩みを解決するヒントが隠されている。


(本文は仏教耕心講演会での挨拶の一部を再構成したものです)



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