現代人の法話 
〜 「世界は美しく、人生は甘美だ」 〜

 表題の言葉はお釈迦様が亡くなる前後の様子が記された大般涅槃経サンスクリット本にある言葉で、滞在した街を振り返り「この世界は美しい、そして人生は甘美である」とおっしゃったとある。
 お釈迦様は35歳でお悟りを開かれた際に「一切皆苦〜人生は苦℃vい通りにならないものである」と語り、これを仏教の基本的な立場として「恥を知り、常に清きを求め、執着を離れ、慎み深く、真理を見て清く暮らす者は、生活し難い」とも語られたのだが、なぜか最後の最後で真逆の言葉を遺されたのである。これを世界的な仏教学者・中村元博士は「人が死ぬ時、この世の名残を惜しみ、死に際して今更ながらこの世の美しさと人間の恩愛にうたれる。それがまた人間としての釈尊のありのままの心境であった、と昔のインドの仏教徒も考えていたのであろう」と解説された。
 お釈迦様は開悟以来約45年間、仏教の教えを弘めるため、清貧な生活を貫き、インド各地を巡りつつ、。大勢の人々とご縁を結ばれ、同時に多くの心の込もった善意や布施に支えられ生涯を送られたのである。それらの日々を改めてインドの雄大な自然の中で振り返った時、すべては苦≠ナはあるが、一方で人々の尊い心遣いを想い「世界は美しく、人生は甘美だ」と心から実感されたのであろう。
 年頭にあたり、私自身もいつか旅立つときには、お釈迦様に倣い、いつか旅立つ時には「世界は美しく、人生は甘美であった」と感謝と充足の心で逝けるよう、今この時一瞬一瞬を大切に過ごして行きたいと願う。



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