現代人の法話 
〜 「利他のすゝめ」 〜

 仏教は慈悲と智慧を重要視する宗教です。平安時代に天台宗を開かれた最澄上人は「忘己利他(もうこりた)〜己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」とその中でも利他≠フ大切さを諭されました。利他≠キなわち自己を犠牲にして他人のために尽くす事の反対語は利己(りこ)≠ナあり己の利益ばかりを優先する生き方です。
 ここで角度を変えて考えてみてみると英国の生物学者R・ドーキンスは「あらゆる生物の遺伝子は、己の生存に不利益になるような事は決してしない」と述べ、遺伝子的には徹底して利己的である事を主張しました。しかし一方で生物は個で生きているだけでなく群れ・団体≠ニなって生きるため、その中で利己的な個体が多くなり過ぎれば、群れ・団体は分裂したり、周囲の相互協力のある、より利他的な群れ・団体との生存競争に敗れる事になるため、自己の生存のためにもお互いに協力的な、ある意味、利他的な遺伝子も発達してきたという説が立てられました。
 思うに人はその利他的な遺伝子を積極的に拡大し発展成長してきた種でありましょう。そこには自分は苦労しても他人の喜ぶ姿や将来の情景を想像して己の喜び、生きる糧とする人を人たらしむ¢クい精神があります。さらにはことわざに「情けは人の為ならず」、また先師が「他人の為に火を灯せば、自分の前も明るくなる」との言うのは、人への情け、利他は人の為だけでなく、巡ぐり巡って自分の為にもなる事を教えてくれています。
 新しい年の始まりに、利他の心で日々を歩み、利他を自分の喜びとすることを誓いたいと思います。



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