現代人の法話
〜 「怨みを捨ててこそ…」 〜
平安末〜鎌倉時代に浄土宗を開かれた法然上人のご出家のきっかけを皆様はご存知でしょうか?
法然上人は長承2年(1133)、美作国(今の岡山県)に武士・漆間時国公の一人息子としてお生まれになられました。しかし9歳の時、敵対していた武士団に夜討ちをされ、父と死別する事になります。その際、父・時国公は臨終に際し「敵を怨んで敵討ちをしてはならぬ。お前が敵を討てば、敵の子がお前を怨み、敵討ちに来る、その怨み、敵打ちは何世代にも続くであろう。お前は出家して私の菩提を弔い、自分の悟りを求めるのだ(意訳)」とご遺言をされました。当時の常識では敵討ちは武士の美徳、通例であれば子も武士となり敵討ちを志すはずですが、かねてから信心深い時国公は全く逆の言葉を遺されたのです。
この言葉を胸に法然上人はご出家され、その才を認められて当時の仏教の最高学府である比叡山に進み、更なるご修行を積まれて、850年前、敵・味方を超えてすべての人が平等に救われる道阿弥陀仏の本願念仏≠明らかにされ、浄土宗を開かれたのです。
この父の遺言は「実にこの世においては、怨みに報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みのやむ事がない。怨みを捨ててこそやむ。これは永遠の真理である」というお釈迦様の言葉に由来します。
昨今の世界各地で起こる紛争、戦争は歴史を振り返れば、すべて怨みの連鎖から起こっています。そして戦死者や難民など悲惨な状況はやむ気配すらありません。怨み、仕返しなど負の連鎖は相手を打ちのめす事では止まらず、さらにエスカレートをしてとどまる事がないのです。身近な人間関係も同様に感じます。それを止め、安らかな心で平和に生きていく為には、私たち自身、民族、国家の皆が相手に対する怨みを捨てる事でしか止まらないのです。しかし理屈では理解できても実際となると難しいのは事実です。しかしそれを実現された方が私たちの身近にはいらっしゃいます。お釈迦様、そして法然上人の教え、生き方に学び、日々進んでいきたいものです。