息子の交通事故・顛末記


2001/ 10月12日(金) 晴れ 夜になって一時 雨

救急車はまだ来ないのか。
背伸びして、来るはずの方向をキョロキョロしていると、
ご近所の方ではない、見慣れぬおっさんが話しかけてきた。
「お父さんですか。申し訳ありませんでした。」と頭を下げる。
おっさんに見えても、僕と大して変わらない歳かな?(^^ゞ
どうやら、軽のワゴンの運転手らしい。
「幼稚園のバスはわかっていたんですが、横にお母さん達が集まっていたから、
 子どもがいるとしてもその回りにいるはずと思って.....。
 いや、徐行はしていたんですが、急に飛び出してきたので気づくのが遅れて....。」

くどくどと言い訳されても、今の状態ではどう対応すればいいのかわからない。
人身事故の場合は、100%車の方に責任があるとされているはずだが、
状況からすれば、前方不注意の運転手だけでなく、飛び出したウチの息子の方にも非があるのは間違いない。
それに何より、今は息子の身体の方が気がかりなのだ。
あなたの相手をしていられる場合じゃないんだよね。
ということで、とりあえず本人の名前と連絡先だけを書き留めてもらって、ほっとくことにした。

その間に、やっと救急車が到着。(あとで聞いたのだが、少々道に迷ったらしい。おいおい。)
到着しても、すぐに搬送されるわけでもない。
周りの人に事故の状況を聞きながら、横たわる航の身体をあちこち触るだけ。
妻は、うろたえながら「早く病院へっ。」と叫んでいたが、
救急隊員に「こういう時、お母さんがしっかりしなくちゃダメなんですよ。」とたしなめられてしまった。

下腹の上に車が乗り上げたことを聞いた救急隊員、
腹のあちこちを押しながら痛いところを航に尋ねる。お腹は特に痛いとは訴えない彼。
一応心配だからと、腰回りと、そして首回りにコルセットをはめてから、担架に乗せて救急車に搬入。
ほとんど放心状態の妻では無理があると判断して、救急車には僕が乗って、付き添うことにした。

近くの総合病院に向かったが、発車してすぐ、驚いたことに航は、
あれほど痛がって泣き叫んでいたのに、「眠い」と言って眠りそうになってしまった。
泣き疲れてしまっただけなのか、それともいわゆる意識不明に陥ろうとしているのか。
こういう時って、眠いなら寝かしちゃって良いものなのだろうか。σ(ーー;
「眠らせてもいいですか?」救急隊員に聞いてみると、
「脳の反応も見たいから、検査が終わるまでは起きていた方がいいんですよねぇ。」とのこと。
そこで航に、眠れないようにひたすら話しかける。
ひとつには、話の返事におかしなところはないかを確かめたくて。

「ほら。眠くても寝ちゃダメだぞっ。寝ちゃうと、寝てる間にでっかい注射をされちゃうぞっ。」
そう僕が言うたびに、閉じかけた目をパッと開く息子。
やっぱ、注射はイヤなんだな。(^_^)

自宅から3kmほどの距離にある総合病院。
救急用の診察室に運び込まれるや、すぐに身体のあちこちを触りまくられ、ケガの具合を確認される。
発生編でも書いたように、実際にはちょっとひどい擦り傷、という程度だったので、
流れ出るほどの出血もなく、そして腫れるほどの内出血もなく。
目立つ傷口には応急にガーゼを押し当てた程度の処置で、そのまま検査室に運び込まれた。

交通事故で最も心配なのが、頭を強く打っている場合。
見た目に傷がなくても、頭蓋骨内で出血があったら、大変な事態になる。
場合によっては、頭蓋内部の緊急手術、ということもあり得るわけだ。
そこでまず、頭、そして下腹、をCTスキャンにかけられた。
身動きできないようにされて、数分とはいえじっと横たわったまま。
よく、この時眠らなかったものだ。終わった時、「寝てもいい?」と聞いてきたけど。(*^^*)

写真の現像が出ないと何とも言えないが、モニターを見た限りでは、異常は見つからないとのこと。
頭の内部も、内臓にも、出血は見られなかったそうだ。
あ〜、とりあえずホッと一息。( ̄。 ̄)

そのあと、身体の各所のレントゲン撮影。
レントゲン室には入れなかったので、廊下で待つことにした。
聞くと、20分くらいかかると言うので、その間を利用して、会社に電話をした。
本当は真っ先に妻に電話を入れるべきなんだろうが、
まだ検査も終わってないのだから確実なことは言えず、
想像であやふやなことを伝えても、逆に心配させるだけだからと考えて、会社のほうを先にした。

現在、僕の担当している仕事がたて込んでいるので、
翌日土曜日は、お休みにも関わらず休日出勤するつもりでいたのだが、これじゃ無理だ。
設計部の同僚に状況を説明して、明日だけでも仕事の一部を肩代わりしてもらうことにした。

検査室前に戻ろうとしたら、途中で2人連れに呼びとめられた。
「この度はとんだことをいたしまして.....。」
先ほどの軽ワゴンの運転手。勤め先の社長さんとふたりで連れだってきた。
赤帽のような運送会社で、その配送帰りだった、ということだった。

「私どもは、自賠の他にもちゃんと保険に入ってますから。問題なく保障させていただきます。
 子供の飛び出しには気をつけるよう、いつも口を酸っぱくして言っているんですが。」
その社長さん、ひたすらペコペコと頭を下げてくれたが、やはりこちとら対応に困る。
こういう時、どうすりゃ良いんでしょうね?
飛び出したこちらも悪いんだから、怒鳴りつけて非難する気もないし。
だからと言って、こちらから謝るのもなんか変だし。

そのうち社長さん、途中からドライバーの方に向いて、
「だからな、お前。幼稚園バスのそばを通る時なんか、特に気をつけなくちゃ.....。」
いやあの。説教なら会社に戻ってからじっくりやって下さい。
こんな、病院の待合室でそんなもん始められたら、他の患者さん達に迷惑ですってば。
困っていたら、看護婦さんがスタスタと近づいてきて、僕に声をかけてきた。
「あの、先生がお話があるそうなので、来ていただけますか?」
助かった。堂々とこの場を去れる。

診察室に入り、レントゲンや断層写真がいっぱい貼られてある前で、お医者さんの話を聞く。
とにかく、頭蓋内や内臓や、骨には、何の異常も見つからないと言うこと。
下腹に乗ったというのも、腰骨がうまく衝撃を吸収してくれたようで、
そして、さすが子供の骨は柔らかい。腰骨自体にも、ヒビその他の異常は見られなかった。
もちろん、すぐには見つからない程度に、ゆっくりジワジワと
頭の中で出血している可能性もないわけではないから、100%安心とは言い切れないが、
現在のところは、心配する必要はない。
数日入院してもらって、様子を見ましょう。ということであった。
「で、これから外傷の治療をいたしますので、もうしばらくお待ち下さい。」

廊下に出るとすぐ「ぎゃぁ〜、痛いよぉ〜。」という航の鳴き声が聞こえてきた。
ま、痛がりの幼稚園児だ。消毒するだけでも大騒ぎだろう。
泣く元気があるなら、心配はいらないな。ここでやっと、妻に電話する気になった。

一応書いておくが、ここは病院。もちろん、院内での携帯電話は禁止である。
これは、電車内のように声が迷惑だから、という理由ではなく、
発信電波が病院内の機器に悪影響を与える可能性があるから、であり、
つまり、携帯の使用が人の生命を奪う可能性があるから、禁止なのだ。
にもかかわらず、航の入院の付き添いの最中、2度ほど、
どなたかの見舞い客が、院内の廊下で携帯を使用しているのを見かけた。
哀しい常識知らずだ。
ということで、もちろん僕の電話は、備え付けの公衆電話。
(つっても僕は、もともとケータイ電話は所持してないが(爆)。<(  ̄^ ̄ )>  )

自宅に電話を入れたら、すぐに妻が出た。電話の前で待機していたかな?
「今、治療中。さっき検査の結果が出たけど、心配するほどのことはないようだから。
 頭の中も異常はなかったし、内臓も問題ないそうだし。
 輸血が必要なほど出血もしてないし、骨は折れてないし。どこも腫れ上がってないし。」
「でも、足が痛くないって言ってたよ?お腹に乗ったんだよ?」
「あ、それは真っ先に確認してもらった。ちゃんと足、反応してるから。
 担架からベッドに移されるときも、自分で足を動かしていたんだよ。」
「ホント?ホントに大丈夫?」
「大丈夫だって。今だって、治療が痛いって大騒ぎしてるよ。
 右腕の肘が、伸ばそうとするとなんか痛がってるんだけど。骨は折れてないから打撲だろ。
 とにかく、心配ないから、もう落ち着いて。な? これからやることいっぱいあるんだから。
 また電話するから、それまでに落ち着いておいてよ。」
僕自身、まだ落ち着いたとは言えないが、
とりあえず急死するほどのことはないようだからと、自らに言い聞かせて気を鎮める。

またまた、診察室の前の廊下に戻る。
待っている間に、幼稚園の保母さんが数名、送迎バスの運転手さん、そしてお巡りさん、
と、次々に「どうですか?」と話しかけられた。
その度に、まだ治療の痛さで泣き叫ぶ声が聞こえている診察室の方を指さして、
「お聞きの通り、元気ですよ♪」と、先ほどの診察内容を説明すると、
皆さん、一様にホッとした顔で喜んでくれた。

運転手さんやお巡りさんからの話を聞いて、事故の詳細がつかめてきた。
バスの陰から飛び出したところに、横からはねられて、顔をすりながら道路に転がる。
この時、顔や頭を直接、道路にぶつけていたら危なかったが、
とっさに挙げたのか右腕が頭をかばい、そのあと顔を擦ったらしい。
だから、右肘だけはかなり痛めているようなのだ。
子供の本能というのは大したものだ。偶然あがっただけかもしれないけど。(^^;

そしてすぐには止まれなかった軽ワゴンが、航の身体に乗り上げて、
短い間だが身体を道路に引きずったあと、下腹の上にタイヤを乗せた状態でやっと止まる。
この引きずった際に、お尻の左側をかなり傷つけた。
ズボンもパンツも破れ、実は、顔よりも深い傷が、左の尻のほっぺたにできてしまっていた。

下腹に乗った状態で、さらに車を動かすのは危険と判断してくれた人がいて、
数人で車を持ち上げて、航は助け出されたらしい。
幼稚園バスのお迎えなら、近くにいる大人といえば、お母さん達だけだったはずだが、
いつものバスの運転手さんは、翌日にお休みをとることになっていて、
臨時の運転手さんが、コースの下見のために一緒に同乗していたそうで、
つまり、バスの中にその日に限ってたまたま、男手がふたりも存在していたのだ。
で、軽ワゴンのドライバーと共に、3人の男手があったわけで、
車の片輪くらい軽く持ち上げられたのであった。

詳細を聞くと、たまたま飛び出したらはねられてしまった、という不運は別にすると、
かなりの幸運が重なったおかげで、軽傷ですんだことがわかってきた。

まず、はねた車が軽のワゴンであったこと。
これが普通乗用車とかトラックとかだったら、即死だったであろうし、
また、軽であってもワゴンタイプじゃなかったら、
ボンネットの上に乗り上がって、高くはねあげられたかもしれない。
前面が平らなワゴンタイプだったからこそ、横方向に突かれて転がっただけで済んだのだ。

また、転がりながら(たぶん偶然に)右腕が先に道路に当たったこと。
おかげで、頭は無事だったようなのだ。
右肘は少々痛めたようだが、頭が激突することに比べれば、肘の打撲くらいどうってことはない。

そして、車が乗っかったのも、まさに一番丈夫な腰骨部分であったのも、かなりの幸運だった。
それが頭や胸だったら、軽い車とは言っても無事では済まなかったろう。
骨のない胃のあたりだったら内臓破裂だったかもしれないし、
下の方にずれて膝とか足首だったら、関節が折れていたかもしれないのだ。
もちろん、下腹であっても、重要な内臓はいっぱいあるが、なぜかすべて無事であったようだ。

さらに事故の目撃者が多く、救急車の手配や救助の世話等が迅速にできてくれたこと。
でもって、上記で書いたように、車を持ち上げるだけの男手が、その場に存在していたこと。
ついでに言えば、加害者のドライバーが逃げずに、救助に参加してくれたことも、
幸運の1つに挙げておかねばなるまい。

あ、もうひとつ。僕にすぐに連絡が付いたことも、ある程度の幸運♪
だって、ウチの会社って、しょっちゅうどこかと電話をしていて、話し中が多く、
1回でつながることは、まさに幸運の1つに数えられても良いくらいなのだ。(*^^*)
回線を増やした方が良いと、以前から進言しているんだけどなぁ。

ということで、我が息子の強運を、天に感謝した父であった。
あ〜、ほんと。宝くじなんかで運を使い果たしてなくて、良かった良かった。(おいおい)

以下、次号『入院編その1』に続く。(*^^*)