NOVEL5 if... 1 |
「いい加減に、その顔を何とかしなさい」 ゆっくりと上昇し始めた豪奢な造りのエレベーターの中は、険悪な雰囲気に包まれていた。 閉ざされた空間を照らす僅かな光源ですら反射する見事な銀髪の髪を揺らす美女は、険呑とアイスブルーの双眸を隣に佇む青年に向けながら、呆れたように大きな溜息を吐き出す。 「お言葉ですが、母上。何度も申し上げている通り、私に婚約者などいりません」 「まだそんなことを言ってるのですか、イザーク」 キッパリと往生際も悪く不機嫌そうに顔を歪めながら、そんなことを言い放つ、自分に良く似た風貌を持つ息子に向かって、彼女は米神を押さえながらゆっくりと顔を横に振ってみせる。 2人が向かっているのは、ディセンベル市でも有名な会員制の高級フレンチレストランで、高層ビルの最上階にあり、これからイザークはそこで婚約者と会うことになっていた。 といっても、それを聞いたのはつい先刻のことで、騙まし討ちのように連れてこられたのだ。 「何度も言うように、今回のお話はこちらに拒否権は無いのです。それに、ジュール家にとって、これほど良いお話も無いのですよ」 「拒否権が無い・・ですか」 その母の言い様に、イザークは失笑する。 プラント有数の名士。マティウス市を代表するジュール家は、これまで多くの政治家・学者などの著名人を輩出してきた名門であり、現在の当主は女性でありながらも最高評議会議員を勤めるエザリア・ジュールである。 そのため1人息子であるイザークは、ジュール家安泰の為にも、当然名のある家の息女と結婚すべきであることは理解しているつもりだけれど、ジュール家が拒否出来ない相手など、プラント広しといえど、そうそう居るはずがない。だからこれは、自分をこの場へと引っ張り出そうとする、母の詭弁だとイザークは考えたのだった。 「ええ、そうよ。相手のお嬢さんは・・・」 「母上、着きましたよ」 説明をしようとするエザリアを、どちらにしろこの話は破談に(するつもり)なるのだから聞く気は無いとばかりに遮ったイザークは、それでもエレベーターの扉を開けて、エザリアを先に通路へと促す。 こうして完璧に女性をエスコートする辺りは、日頃のエザリアの教育の賜物であるし、何をやらせても優秀なイザークの能力の高さは、親として誇るべきものなのだが、どうしてこう潔癖ともいえる融通の利かない息子に育ってしまったのだろう。 子は親に似るというが、だとしたら自分も世間では息子と同じように思われているのだろうか?エザリアは軽い頭痛を覚えながらも、イザークのエスコートに従って、レストランへと入っていった。 * * * 父と共に訪れたフレンチレストランの個室に通されたアスランは、店員に促されるまま大人しく席に座り、出されるであろう料理が運ばれてくるのを上機嫌で待っていた。 オーダーを取りに来ないウエイターについては、個室に通された時点で店を予約していたことが分かったし、父が勝手に料理を指定するのはいつものことで、別段不思議に思わなかった。 いつものこと。とはいえ、アスランの父であるパトリックは、戦争が始まってから追われている激務により、家でさえ顔を会わせることも稀になっていた為、こうして一緒に食事に出かけるのは珍しいことだ。 そのパトリックから突然食事に誘われたことには驚かされたものの、常日頃多忙な父が、こうしてアスランを気に掛けてくれたことが嬉しくて、メイドに勧められるままドレスアップをし、足取りも軽く父のエスコートに従ってレストランへやって来たのだ。 此処はアスランも何度か訪れたことがある会員制のレストランで、料理の味もとても美味しかったと記憶していたし、さすが親子とも言うべき不器用な2人の間に、ろくな会話が成立しないことも何等変わりないことで、それについては特に不満もなかった。 ただ一つだけアスランが気になったのは、お互いの座っている座席の位置だ。 2人で食事に来たのだから、普通なら向かい合って座るものではないだろうか? しかし、パトリックが座っているのはアスランの真横で。ついでに言うなら、正面には空席が2席あった。 チラリと隣に座る父を盗み見ると、父はいつもと同じように眉間に皺を寄せた難しい顔をしながら両腕を組んで、何かを考えているのか目を閉じていた。 だから改めて問いかけるのも憚られ、1人首を傾げてみて、そういえば、一ヶ月ほど前にも同じことがあったと思いつく。 同じシチュエーション、同じ場所で、同じ事だなんて・・・いくら父でも、まさかそんなことは無いよな? うん。と勝手に納得したアスランは、テーブルの上に整然と並べられたシンプルだけど品位の感じられる食器の数々を裏返しにしたら、きっと高級メーカーの名前が記されているのだろうな。などと、ノンビリ考え始めた。 しかし、アスランは忘れていたのだ。 父が自分と同じように、優秀なくせに何度も同じことを繰り返す、どこか抜けた人物であることを。 そしてそれは、個室の扉を開けて入室してきた人物達によって、嫌というほど再認識させられたのである。 * * * 扉を開けた先でイザークを待っていたのは、仏頂面の上司だった。 いや、これは冗談で無く、店員に案内された個室でイザークとエザリアを迎えたのは、プラント国民であれば誰もが恐れる?国防委員長パトリック・ザラ氏だった。 彼はプラント義勇軍ZAFTの事実上トップであり、直属ではないものの、軍人であるイザークの上司に当たる。 プラントの政治を担う最高評議会は、地球連合軍とZAFT軍との戦争に対し、対話による解決を求めるシーゲル・クラインを筆頭とする穏健派と、コーディネイターの元に武力を行使することも辞さない決意を固めたパトリック・ザラを筆頭とする強硬派の二つに大きく分かれている。 そして議員であるエザリアは強硬派、すなわちザラ派を支持しており、パトリックとも交友が深く、彼と仕事を共有にすることが多いのはイザークとて良く知っていたし、メディアを通じて彼の顔を拝む機会も多いのだが、こうして直に本人と会うのは初めてのことだった。 眉間に皺の寄せられた威厳あるその風貌と威圧感に圧倒されながらも、エザリアと共に彼の前に進み出ると、パトリックが立ち上がり、そして彼は隣に座る人物に何かを囁いた。 表情にこそ出していないものの、イザークは初めて間近でみるZAFT軍トップの上官に少なからず緊張していた為、そのときになってようやく彼の隣に1人の少女が居る事に気がついた。 重々しい雰囲気に包まれている部屋で、彼女の回りにだけは、別世界のように柔らかい空気が流れている。どこかボンヤリとした風情のその少女はイザークを眺めていたようだが、囁きにふいと視線を逸らし、パトリックを見上げた後、見逃しそうになるほどの一瞬だったが、困ったような表情を見せた。 そして静かに立ち上がりパトリックの隣まで来ると、口元に微かに微笑を浮かべながら優雅に一礼する。 柔らかそうな宵闇の髪はパステルブルーのリボンで結い上げられ、宝石のようにキラキラと輝く翡翠の瞳の彼女の肌は透明感があって、白磁器の様な白さだ。 髪の色に合わせたのであろうリボンと同じ色の上品なカクテルドレスは彼女によく似合っており、コーディネイターといえど稀に見るその壮絶な美少女に一瞬見惚れてしまったものの、毎日のようにエザリアのような美女に見慣れているイザークは、直ぐに我を取り戻し一礼を返した。 「今日は、お招きありがとうございます。」 社交的な笑みを浮かべるエザリアに対し、パトリックは無愛想な表情を崩そうとはしない。 その態度は、メディアを通して知る彼と何等変わりない。 おそらくこれがパトリック・ザラという人間なのだろう。 だが、それがかえってイザークには好ましく思えた。 ヘラヘラと媚び諂う政治家よりも、よほど潔いではないか。 うむ。と短い返答にも慣れているエザリアは、一歩後ろで事の成り行きを見守っていたイザークを振り返ると、自らの隣へと並ばせる。 「息子のイザークですわ」 紹介されても尚、うむ。しか言わないパトリックが何を考えているのかイザークには正直図りかねるが、まるで品定めでもするかのように向けられた視線は厳しく、油断のならないものだった。 「イザーク、こちらパトリック・ザラ氏ですよ」 「存じております。国防委員長閣下のお顔を知らぬ者はプラントには居りませんから」 一応今日はプライベートであるはずだから敬礼するのもどうかと思い、とりあえず、初めまして。と挨拶するイザークにも、パトリックは表情を崩さない。 「よく来てくれた。今はクルーゼの隊に居るのだったな?アカデミーでも優秀な成績を残したと聞いている」 「クルーゼ隊長には色々と学ばせて頂いており、隊へ配属して下さったこと、感謝しております」 パトリックが直接配属に関わったとは思えないが、書類にくらい目を通しているかもしれない。そうでないとしても、このくらいのことは社交辞令だろう。 「うむ。あの隊は作戦成功率が我が軍で尤も高い部隊だ。君にも期待している」 「はい。ありがとうございます」 自分より二回り以上年配の、しかも高位な相手に対して臆することもなく、明瞭な返答を返すイザークに満足したのか、一度パトリックはエザリアに無言で頷いて見せてから、先程のイザークと同じように自分の一歩下がった場所に立っていた少女の背を押すようにイザークの前に立たせる。 「これは娘のアスランだ。アスラン、ご挨拶なさい」 「初めまして、アスラン・ザラと申します」 父に促されるまま、口元に微かな笑みを浮かべたアスランが真っ直ぐ向けてくる翡翠の吸い込まれそうな輝きに、イザークは言葉を忘却しかけたものの、高すぎる己のプライドと理性のおかげか、あと一歩というところで何とか踏みとどまることに成功した。 「イザーク・ジュールです」 それでも出てきた言葉は必要最小限の短いものでしかなく、それが自らの動揺を少なからず物語ってしまったように思い、別の意味できまりが悪かった。 横でそれを見ていたエザリアも、そんな我が息子の不甲斐なさを心の中で嘆いていた。 アスラン嬢といえば、今も優雅に微笑みを浮かべてイザークを見ているというのに、歯の浮くようなセリフを並べたてろとは言わないが、服を褒めるとか・・せめて握手を交わすくらいの甲斐性すら持ち合わせていないのが何とも情けない。 しかし、軽い眩暈すら覚えているエザリアの正面に立つパトリックにとっては、そんなことはどうでも良く、全くにしていなかった。 それよりも、念のため事前に調査機関を使って調べ上げたイザークの経歴書を脳裏に思い描きながら、目の前の青年とそれを比較し、虚偽の無い報告内容に満足感を覚えていた。 そのまま席につき、食事が行われている間も、話しているのはほとんどエザリアで、パトリックは相槌しか打たず、イザークに至っては聞かれたことに対しては真摯に返答を返すものの、それ以上のことを話そうとはしなかった。 そんな3人の様子を、食事を取りながら終始穏やかに微笑んで聞いているアスランを、流石ザラ家の息女として教育されているだけあって、出すぎた発言などしない良く出来た女性なのだとイザークはただただ感心していた。 * * * またしても父に騙された。 元々コミュニケーション能力が著しく低い親子なので、騙された。という表現は正確ではないのかもしれない。騙されたというよりはそう、むしろ言われなかった。というのが妥当だろう。 店員に案内されて入ってきたのは、父の仕事仲間でありアスランも何度か会ったことのあるエザリア議員と、彼女に良く似た若い青年だった。 コーディネイターでも珍しい見事な銀髪に、アイスブルーの双眸。名のある人形師が丹精込めて作り上げた傑作とも言えそうな美しい容姿は、どちらかと言えば硬質の・・・例えば目の前の高価な食器類と同じように洗練されたもののように見える。 アスランは母であるレノアと良く似ていると言われることが多い。 しかし目の前の2人も、性別こそ違えど、とても酷似した容姿をしていて、親子なのか?とボンヤリ眺めていたのだが、青年の年齢がアスランと同じくらいだろうか?とまで思考を巡らせたところで、やっと父の思惑に気付いたのだ。 表面上は優雅に、しかし内心は焦りながらパトリックを見上げてみても、父はご挨拶しなさい。と促すばかりで、アスランの意思を聞くつもりは毛頭無いらしい。 仕方なくアスランは立ち上がり、ザラ家の息女として相応しい応対を続けることになった。 正式に公表はされなかったものの、アスランは一ヶ月程前に一度お見合いをしている。 2年前に住み慣れた月を離れ、プラントに住んでいた父の元へと戻ってきたアスランは、最初こそ戸惑いはしたものの、今ではザラ家の息女としての責任を十分自覚しており、自分が将来父の決めた相手と結婚することを漠然と受け止めていた。 幸いなことにアスランは、物事に深く興味を持たず執着心も特に無い、本人にあまり自覚は無いが、少しばかり情緒に欠けた人間であった為、多少父に強いられる強引で理不尽な事柄に対しても、比較的受け入れやすかったのだ。 人付き合いが不器用なアスランは、そのせいもあって人見知りをするのだが、元々温厚な性格で、自らの我を押し通そうとはせず、大抵の人とは上手くやっていける。 けれど、前回の相手だけはどうしても駄目で、結局破談になっていた。 「今日は、お招きありがとうございます。」 そんなエザリアの無難な言葉から始まったお見合いは、言葉少なに、しかし政治家らしい両親の元、淡々と進められた。 以前の相手は、ペラペラとよく話す煩い男だったが、彼女の息子だと紹介されたイザークはどうやら物静かな人のようで、積極的に会話に参加しようとしない。 元々喜怒哀楽の乏しい人なのだろうか?彼の表情は部屋に入って来たときから一切の変化が見られず、無表情なままだ。 実際は、その容姿と家柄のせいもあって社交界でも、ZAFT軍においても名の知られた青年であるイザークの気性が、非常に激しやすいものであることは有名なのだが、生憎アスランはそういった世俗の噂に疎い女性だった。 現に目の前に座る青年は、必要最小限の的確な返答以外の言葉を発しようとはしないし、振る舞いも紳士的だ。疑う要素は何一つ無かった。 本心を言えば、アスランはお見合いなどしたくない。 しかし、父が決めたことなら無碍することなど出来るはずもない。 だから、結局ずるずると2人で庭園を散歩する羽目になってしまっているのだが、初対面の相手と会話するのはやっぱり苦手で、場を持て余してしまう。 どちらかと言えば静かに時を過ごすことを好むアスランは、両親を挟んでの見合いの後、こうして2人っきりにされてからも、イザークが先程と態度を変えることなく、必要以上にコミュニケーションを取ろうとしない姿勢が有難かった。 婚約者として、これで良いのかは疑問だけれど、隣を歩くイザークにチラリと視線を向けてみても、彼には相変わらず鉄仮面のごとき無表情が張り付いていて、感情を読み取ることが出来ない。 ・・・まぁ、いいか。 特に話しかけてくる気配もないし、彼が隣にいることにも、会話の無いことにも特に苦痛を感じなかったアスランは、そのまま一緒に庭園を歩き、彼に促されるままベンチに座った後、何気なく見渡した庭園に咲く花々の種類が意外と多いことに気付いて、勝手にそれらの観察をして過ごすことにした。 * * * それに対し、困っていたのはイザークである。 アスラン・ザラ嬢といえば、社交界及びZAFT軍でも有名な女性で、イザークも当然名前だけは知っていた。 それは、次期プラント最高評議会議長と名高い国防委員長であり、軍の上司であるパトリック・ザラ氏が目に入れても痛くない程溺愛している愛娘であることと、それに恥じない文武両道、カレッジ創立以来の才女とまで謳われている才色兼備の女性だと噂されているためだった。 確かに実際こうして会ってみても、アスランは非の打ち所無く思える。 優秀だからといって性格に棘も無く、至って温厚。振る舞いは優雅だし、存在は華やかで、それでいて従順な彼女は、理想的な妻になること間違いなしだろう。 この婚約に、ジュール家の拒否権は無いとエザリアは言っていた。 ということは、この話はザラ家から申込まれた政略結婚だ。 確かにZAFT軍及び政界に強い影響力を持つザラ家からの話となれば断れるはずも無い。 いやそれどころか、もし親族となれば、ジュール家にとってこれ以上無い後ろ盾と言えるし、それは同時にイザークの将来を確約するものになるだろう。 しかし、世の中奇麗事だけで渡っていけるとは思っていないが、他力本願などイザークの性に合わない。それが女性の力であるなら尚更だ。自らの未来は、己の能力で正々堂々勝ち取ってみせるつもりでいる。 それに、おそらくエザリアがパトリック・ザラと懇意にしていること、それからイザークが紅の軍服を着るZAFT軍のエリートであることからこの話が出たのだろうが、果たしてこの婚約はアスラン自身も望んでいることなのだろうか? 噂に名高い彼女には、求婚者も多いと聞く。 面識も無い自分との婚約を彼女が心から望んでいるとは思えない。 何故かは分からないが、その事実がイザークにはやけに空しかった。 やはりこの話は無かったことにすべきなのだろう。 イザークは隣を歩くアスランをチラリと一瞥する。 食事の後、定番のごとく『あとはお若い2人で』などと言われ、この庭園に放り出されたものの、とにかく会話が無い。 元々自分のことを進んで話す社交的な性格では無いイザークは、彼の決して高くない沸点に達してさえいなければ基本的に無口で静かな人間の部類に入る。 しかし、アスランもどうやら同じタイプの人間らしく、穏やかに微笑みを浮かべてはいるものの、自ら口を開こうとはしなかった。 母に無理矢理連れて行かれる社交界に出没するこ煩い女共よりは無論断然良いのだが、普段行動を共にしている幼馴染のディアッカは、元来おしゃべりで楽天的な性格をしており常に聞き役に回ることが多い為、こうした苦労をしたことなど一度もなかった。 ずっと歩いていては流石に疲れるだろうから、手近なベンチに座ってみても・・・やはり会話はない。 こうして何も話さず静かな時間を過ごすのは自分としては落ち着くし、心地よいのだが、果たしてアスランもそうであるかは、今のイザークには分からなかった。 やはりこのまま無言でいるのは、エスコートしている立場にある以上、非常に不味い事のように思う。 何か女性が好む話題を提供するべきだろうとは思いはしても、軍にも同じ年頃の女性は結構いるのだが、生憎イザークは彼女達と話をすることなど無いし、彼女達がどんな話題で喜ぶのかも知るわけが無かった。 無類の女好きであるディアッカなら気の利いた話題を提供してくれるのだろうが、まさかこの場で奴に通信が出来るはずもない。 「あの、アスラン嬢」 「はい?」 何か話さなければ。 女性が好きな物といえば、やはり甘い物? しかし、イザークは甘い物が苦手で、そんなもので会話が続くとは思えない。 駄目だな。 なら、チェスとか乗馬・・・いや、アスランがそれらに興味があるとは限らないし、分からない話題などを振られても、返って困らせるだけだろう。 くそぅ・・・。 「イザーク様?」 あーでもない、こーでもないと優秀な頭脳をフル回転させても浮かばない話題作りに全神経を集中させている時に、翡翠の眸をキョトンとさせて、不思議そうにこちらを見上げてくる彼女の表情を視界に納めてしまい、あ、可愛い。などと思ってしまった自分に動揺したイザークは、 「ご・・・ご趣味は何ですか?」 「・・・」 咄嗟に口から出てしまった言葉を、激しく後悔した。 イザーク・ジュール16歳。 つまらない男の烙印を、見事に押された瞬間だった。 2005.09.08 |