合戦前夜 >>   月下の涙 第五章

 川が近くにあると、それだけで風は違っていた。
 何処か人を押し返そうとするかのごとく横に吹く風に鬱陶しく横髪が何度も顔にかかり、政宗は苛立ちながら耳にかけると城門前でため息をついた。目の前には城の中から次々と戦の用意が荷台に運ばれて丘を下る。
 観音堂山を本陣と構えるため、連合軍が来るまでにそちらの準備を完璧にしておかなければならない。同時に、周囲の離れた場所にある城や館にも彼に命ぜられた家臣達が散っていった。戦は近い。恐らく数日中には始まるだろう。
「…」
 政宗は一人で移動していく人々や積み荷を眺めていた。
 この戦、勝つ気でいても絶対に勝てない。今目の前にいる人々の一体どれくらいが死ぬだろう。そう思うと目眩がしてくる。彼が一人の流浪武士で一人ならば自分の命を賭けて単独で突っ込んでいけるが、残念ながら何千何万と家臣を抱える伊達家当主。彼が動けば自ずと国が動いてしまう。
「殿」
 呼ばれて政宗が後ろを振り返ると、いつの間にいたのか馬に乗った小十郎と鬼庭がいた。
 鬼庭は戦が始まるまで政宗達と行動を共にすると決めたらしい。
 二人を見て政宗は内心考える。
主である彼から見ても、伊達軍の中には本当にいい家臣が揃っている。周囲の国々と比べると優秀な者が多すぎるくらいだ。これは全て輝宗が家臣を伸ばす環境と広い発言権を与えていたからだろう。彼らは何処へでも重宝される。例えば政宗が討たれても、敵の側に殺されず引き抜かれる可能性だってないわけではない。
 本気で戦うが、できれば家臣達を生かして戦いたい。成実を前線に置かなかったのはその最たるものだった。ただ小十郎は迂闊に自分から話すとこの考えを悟られてしまう。こんな考えを政宗が持っていると知ったら、小十郎は本気で叱咤するだろう。
 だが成実を畠山対策に回らせた時に小十郎は何も言わなかった。ひょっとしたら、この考えすらも既に理解されているのかもしれない。
(…考えすぎだな)
 政宗はもう一度ため息をつき、手綱を持ち直した。
二人に本心を悟られないようにそれとなく戦い、もし負けるのであれば自分だけが早くに討たれることを願っていた。
「そろそろ我々も参りましょう」
「ああ…」
 やがて政宗も観音堂へ向かって馬の足を進めた。


「何で俺が畠山の方なんだあ!」
 いっそ清々しいまでの快晴の下、成実は両の拳を握って空に叫んだ。
 反動で身につけた重い鎧がガチャガチャと鳴る。
 連合軍は今もこちらへ向かっているらしい。戦が始まるまであと二、三日と言うところだろう。しかし緊張感は既に周囲を包んでいた。陣営もあらかたあちこちで固められている。
 政宗は小浜城から本宮城へ移ったし、既に戦場になるであろう瀬戸川傍にある観音堂周囲には既に多くの隊が配置されていて、政宗も近々そこへ出向くと言っていた。
二本松城を遠巻きに眺める渋川という場所に陣を構えていた。全貌はよく見えるものの、前線でもなければ本陣に近いというわけではない。恐らく戦の中心になるだろう瀬戸川にかかる一本橋はかなり遠かった。
切り込みが得意な成実としては不本意な配置だったが、彼が何度抗議をしたところで小十郎が意見を変えることはなかった。彼はいつものことなので政宗に直々に言ってみたが、「お前はそこ」の一言で会話は終わった。どうやらこの不動の配置には政宗も絡んでいたようだ。
 部下達は彼の叫びに便乗してはこなかったものの、皆一様に頷いている。成実同様、彼の部隊には血気盛んな者が多い。騎馬員は二百数十騎、鉄砲は五百。明朝の霧の中、部隊は灰色の影として馬上にいる彼の目の前で群れをなしていた。
「大体何なんだよこの配置は。守護隊が前にいるとしても、どうぞ本陣襲って下さいって構えだろ、どう見ても。何考えてんだ梵天の奴は。まさか大殿追って死ぬとか考えてないだろうなあ!」
 苛立ちながらも手綱を操り馬の鼻先を二本松城へ向けた。
「来るならとっとと来い、来ないなら絶対来るな〜。俺は梵天達の方へ行きたい。と言うか行く。本陣は観音堂だったな。その前に行こう、前に。連軍は北上して来てるんだろ?だったら俺らが行くのは橋のあたりだ。この辺にはあれ一本しかないからな。あれ渡ってこなきゃこっちには来られないはず。目指せ観音堂の南!」
「殿、それでしたら瀬戸川館という場所がよろしいかと思います」
 近くにいた部下の一人が挙手する。
「よし、んじゃそこだ。バレないようにな。怒られるから、俺が。青木、内馬場。ここは任せるわ。畠山くらい三十騎もいりゃ足りるだろ」
「落ち着いて下さい、成実様」
 成実の部下である青木が彼の様子を見て困ったように笑った。
 瞼を伏せ、胸の前に手を添えて諭す。
「政宗様から任せられた任務ですよ。そこが何処であろうと、我らは力を尽くすのみです。それに今回の戦、不利は承知の上と言えど危険な戦とるでしょう。ひょっとしてこの配置、政宗様が成実様を前線から外すことによりそのお命を守ろうと広いそのお心で…」
「青木殿青木殿」
 とんとんと、無造作に肩を後ろから叩かれる。
 振り返ると、内馬場という男が半眼で彼を見ていた。
 何ですか?と聞こうとしたが、その必要は哀しいことに全くなかった。ついさっきまで目の前にいた成実が馬を走らせて彼らから離れ始めていたからだ。しかも隊のほとんどが成実について行ってしまう。
真っ青になって青木が悲鳴を上げた。
「し、成実様―!」
 しかし呼び声は砂塵と馬の蹄の音によってかき消される。
 青木の横で内馬場は頭を下げて成実を見送っていた。やがて彼らが見えなくなると、青木はがくりと肩を落としてほろほろと涙を流す。
「成実様…。あぁもう、どうしてそう周囲を顧みないのか…」
 などと嘆いてはいるものの、肩を叩かれて目を開けるまで馬の駆ける音一つにも気付かない彼も相当周囲を顧みていないと言えるだろう。
「五十歩百歩ではなかろうか」
 横からさらりと内馬場が言い、そして彼らを含めた三十騎が畠山対策としてその場に残された。
しかし彼らは、数は減ったが与えられた任務を怠るつもりは全くない。
「殿のため伊達のため!畠山が出ればここで止めてみせようぞ!」
 内馬場は片腕を振るって声を張った。意気の強い声が三十、それに同意する。
 成実の隊は分割され、思わぬ戦力が本陣の前方へ向かう。


 観音堂へと進んでいる一団から、鬼庭はいつの間にか抜けていた。
 本陣である観音堂のすぐ前。観音堂守備隊の一つが落ち着きなく戦準備を整えている傍の木の枝に腰掛けて、足元にいる老人に空を見ながら声を掛けた。
「止めた方がいいと思いますがねぇ」
「喧しい。若造は黙っとれ」
 老人は兜ではなく綿の帽子を被っていた。
鎧や兜では、もう重くて動けないのだろう。深い皺が刻み込まれたが雄々しい体付きと鋭い双眸には今だ戦士の誇りが消えていない。老人は鬼庭が空を眺めているのと同じく、周囲で動いている自らの隊を眺めながら彼の会話に付き合った。
「爺が出たところで邪魔なだけですよ。いいから奥に引っ込んでりゃいいのに」
「病や老いで死ぬんじゃったら、拙者は戦場がいい。それだけじゃ。自己満足よ」
「はー…やれやれ。殿が随分気になさっていましたよ。無理はするなとの伝言です」
「うむ。それだけで光栄至極」
 老人は満足そうに頷いた。
 鬼庭は言伝が終わってもしばらくその場に留まっていたが、やがて立ち上がる。
「んじゃ。拙者はここより先の原で敵を迎え撃ちます。全てを潰す覚悟ですが、恐らく無理でしょう。いくらかはこちらに雪崩れ込むと思います。殿の御辺、頼みます」
「綱元」
 老人が初めて彼の方へ顔を上げた。そこには笑みが浮かんでいる。
「何としても伊達家を守り抜くぞ」
「御意。…親父殿もせいぜい踏ん張れよ」
 鬼庭は老人の顔もまともに見ず、去っていった。


「では。手筈通りに」
 闇の中で月宮が呟く。
「万事ぬかりなく。全ては伊達の御名の為に」
頭の命に、彼の周囲に集まっていた十数人の影が無言で消えた。


 戦の準備は整い、政宗は観音堂本陣で座っていた。
 伊達家家紋「竹雀紋」が刺繍された布が彼のいる周囲一帯を四角く覆っている。数人がその中でばらばらと作業をしていた。次々と戦闘準備完了の便りが届けられ、ここ本陣でそれらの情報がまとめられていく。
 刀の鞘先を地面に立てれば、ちょうど柄の部分は政宗の顔の前に位置する。柄の上に両手を合わせて置き、彼はそこに頭を預けていた。まだ鎧は着ていない。硬い漆の靴だけはいつも通り足を通しているが、それ以外はいつ戻りの格好だった。
 だが、閉ざされた 隻眼の奥は既に戦の時のそれに変わりかけている。
「殿。失礼致します」
 後ろに控えていた小十郎が囁くような声を発する。
 政宗は目を閉じたまま尋ねた。
「何だ」
「連合軍の詳細、掴みましてございます。佐竹、蘆名を主流として相馬、白河、岩城、二階堂などが加わっているようです。三方に別れ、こちらに向かっているとのこと」
「数は」
「およそ三万」
「…そうか」
 八千対三万。
四倍近い数を静かに受け取れるのは政宗だけだろう。そのうち広めなくてはならないが、この圧倒的な差を聞いて怯えぬ者は少数だ。おそらく一様にその数に震え上がる。
だが政宗かからすれば、ちょうどいいくらいだった。これは輝宗の仇討ち。畠山一人では価値が不釣り合いのためにもっと膨大な犠牲を求めていた彼にとって、三万は輝宗とやっと釣り合うくらいの人数だった。
こちらに向かってくる連合軍を自分の手で全て斬り殺せたらどれだけいいだろうと思いはするが、理想と現実の境界線を曖昧にすることを彼の聡明さは許してくれなかった。絶望感はないが、僅かな諦めが胸に染みてくるのは仕方がない。
「今晩は御休下さい」
 黙る政宗に小十郎が言う。
 政宗はゆっくり左目を開くと、無言のまま席を立って陣の後方へ用意された寝床へと歩き始めた。
 ざわつく陣営を背に、二人はその場を後にした。


 北上を進める連合軍のリーダーは、軍団の後方に位置していた。
 前方に見えるのは無敵に近い膨大な数の自軍の兵達。しかもこれは一つではなく、この他にあと二つ同等の数が別方向から観音堂へと向かっている。三万と八千という数はもうそれだけで勝利を示していた。
「うむ」
 馬上で上機嫌で微笑む男が一人いた。
 三十代後半の体格のいい男だが表情は穏やかで、通常戦場で見せるようなものではない。まるで季節の花でも愛でているようなそんな顔だった。朱色の鎧でその肌を守るが、最後尾近くにいる彼は戦前で暴れる必要はないと思っているのか、非常に簡単な装備だった。
 またはいざという時のために体力を使うことを良としていないのかもしれない。とにかく、にこにこと声を上げて進軍する兵達を見ている。
「鬼様、ご報告申し上げます」
 後ろから駆けてきた部下が男の傍で片足を立てて跪く。
「うむ。申せ」
 彼はのんびりと振り返った。
 佐竹義重。若い頃の戦であまりのその凄まじい勇士に、周囲の者たちは彼を「鬼佐竹」と呼んだ。それが気に入り、義重は家内では鬼様の呼び名で通っていた。そこにあるのは嘲りではなく、誰もがその武勇に尊敬と恐れをもってこの名を口にしていた。
「伊達軍、瀬戸川にかかる一本橋の向こうにあります観音堂にて待ちかまえている様子。逃げる気配はありません」
「おうおう、この大軍を前にしても退かんか。青いのぅ、輝宗殿の倅は」
 義重は僅かに口元を緩ませた。
 まるで子供の悪戯を微笑むようなその笑みには余裕以外何もない。
 彼の知っている前の当主、伊達輝宗が治めていた領地は魅力的な場所にある。周囲を様々な国に囲まれていながら、輝宗はその穏やかな言動とは不釣り合いなほどに知略を巡らせ、義重だけではなく前々から佐竹家を苦しめていた。
 佐竹家だけではない。周囲の芦名家や畠山家も同等に手が出せなかった。決して際立って強いというわけではないはずなのに、何故か落ちない。伊達の持つ領地を落とさなければ、そこから北の様々な国々吸収もできはしない。
 知将と呼ばれた輝宗が隠居し、やがて出てきたのは政宗というまだ十八の若者。しかも家督を継いで早々の大量虐殺。血も涙もない、父親とは懸け離れた好戦的な主に見えた。義重は若さに任せて戦をしかける政宗になった途端に、伊達家の領地を得る絶好の機会と周囲の国々に呼びかけて今回の連合軍をまとめ上げた。
 もっとも、日頃牽制し合っている周囲の国々と手を結ぶのは難しいが、彼の父親が周囲に名の通った重役であるがために顔を利かせ、何とかまとめているという状態ではあるが、それでも八百の伊達軍を潰すには一時的なまとまりだけで十分だ。どうせ領地を奪ったら奪ったで、再びそこをどう分け合うかによって連合軍内で一騒動あるに決まっている。
「確か、政宗殿だったかな。我らの大軍を凌げぬことなど分かっているだろうに、時には退くことも必要であることを父親から教わらなかったらしいな」
「しかし、橋にかかる前に伊達軍の城が二つ三つございます。油断せぬ方が」
「分かっておるわ。しかし、実際はこの数の差だ。簡単だろう?」
「は…。それは…」
 慢心を嗜めようとした部下ではあるが、そう言われては何も返せない。
 確かに、勝利は確実だった。赤子の手を捻るようなものだ。恐らく早くに勝負はついてしまうだろう。
「はっはっは。十八で命を終えるとはなぁ、哀れ哀れ。おぉ、そうだ。義広の軍の方はどうだ。順調に進んでいるのだろう?」
 義重は豪快に笑った後、別ルートから進んでいる蘆名軍の進軍を尋ねた。
「は。鬼様の軍と同じく何も問題なく一橋へと向かっております」
「うむ。我らの家臣よりではないが、あやつの蘆名軍も強者揃いだ。役に立ってもらおうか。この儂に任せておけと伝えておけ」
 満足そうに頷くと、義重は馬の鼻先を再び大軍が広がっている正面へと向けた。
「畠山義継も潰れたし、伊達を喰らった後はそのまま畠山の領地を飲むとしようかのぉ」
 目を細くして髭を撫でながらのんびりと言う。
 本陣から撤退の傾向を見せない伊達軍が、本当に勝てると思って陣を構えているわけがない。誰がどう見てもあちらの負け戦だ。それでも退かないのは、先に畠山に奪われた父親の敵討ちであることは、彼にも分かっていた。
 畠山に輝宗の首を条件付けた男は今大軍を手に、その息子も、そしてその先に今連合軍に加盟している畠山の領地すら潰そうと目論む。
「伊達の若頭は片目の独眼鬼と聞くが…。果たして、我とどちらが誠の鬼かな?」
 心底愉快そうに、義重はくつくつと笑った。


 時を同じくして、別ルートから瀬戸川にかかる一本橋に向かっている大軍がもう一つ。
 川沿いに軍を進めていく。こちらの指揮者もまた義重と同じく、前線でも中心でもなく最後尾に位置していた。この陣の構えは背後から敵襲を受ければあっというまに襲われてしまうという頭の守備が手薄になっている陣だ。つまり、逆に既に自らが襲われるという心配すらなく、徹底的に攻めを意識した陣だった。
「何とも恐ろしい光景ですね」
 馬上に乗るのは、何と十歳の幼子だった。
 蘆名義広。まだあどけなさが抜けるどころか、このような場所に出る年頃ではない。彼は哀しげな表情で目の前の大軍勢を他人事のように眺めていた。
 彼はもう一方の佐竹軍を取りまとめている義重の息子だが、養子のため今は蘆名の頭に祭り上げられていた。不運のため後継者のいない蘆名家の跡取りにと、政宗の弟と同時に彼の名が上がっており、現在はまだ混乱しているもののほぼ義広がで内側が固められつつある。
 事実上、今の蘆名は佐竹の名の下にある。が、だからといって蘆名家の家臣達が佐竹に忠誠を誓っているかというと、それは違った。
父親への協力を惜しむまいとここまで兵を動かしたが、蘆名家の家臣たちはあまり乗り気ではなかった。しかし伊達の領地が得られればと、ようやく重い腰を上げて幼い彼の命を聞き受けてくれた。
「義広様、城へお戻り下さい。その身に何かあれば一大事でございます」
 傍に寄り添っていた家臣が慌てて義広へ声を掛ける。
 いくら勝率の高い圧倒的な戦であっても、今やっと手に入れた当主を失う可能性がある限り、蘆名家を代々守ってきた家臣達は彼を戦に出すのを嫌がった。例え佐竹の血が身体に流れていても、今は蘆名の名を継ぐ身だ。
 そのため、彼は戦場ではなく戦場を家臣達に任せ、付近の城へ閉じ籠もっているように言われていた。しかしその言いつけを破り、最後尾からひっそりと進軍具合を眺めているのだ。
「…分かっている」
 自分が無力であることは、彼は自覚していた。
 重要視されているのは彼ではなく、彼という「蘆名家当主」という地位の人物であることも自覚していた。命令をできることはあっても、彼自身は動けない。家臣達に無理を言って動いてもらったのだ。
 刀は役に立たなくとも、せめて戦地だけ見ていたい。それが軍を動かす者の務めだと思っていても、家臣達はそれすら許してはくれなかった。戦は自分たちに任せて城へいろと言う。
 確かにこの軍勢ならば伊達軍はひとたまりもないだろう。だがその敗れていく様や大量の死人を眺める義務が、義広は自分にあると感じていた。できればここで哀しい光景を見続けていたい。しかし…。
「義広様」
「分かっている!」
 苛立った声で、義広は振り返った。
「戻ればいいのだろう、戻れば。ここにいても何の役にも立たない。私はまだ子供だ、分かっているさ。お前達がこの戦に乗り気じゃないこともな」
「…」
「…戦場はお前らに任せよう。父上…いや。佐竹殿の言うことをよく聞き、全力を尽くすよう皆に言え」
「は…」
 男が去る。
 義広の手に負えない蘆名の大軍は、次々と観音堂を目指すため進軍していく。
 こんな飾り物と比べ、死を目前としても雄々しくこちらへ矛先を向ける伊達軍の長とは一体どんな人物なのか。大量虐殺を義広も耳にしているが、そのような鬼畜生ならば家臣達はああして命をなげうってまで本陣を守ろうとするだろうか。
「何と無意味な当主だろう…」
 誰にも聞こえぬほど小さく呟き、彼はまるで監視役のような数人の部下を連れて戦場を後にした。