恋は水モノ コイハミズモノ >> | ||
生々しい話になるが、恋愛が生殖本能から発展したものである以上、対象は自分と同種の存在になる。世間で『変態』と呼ばれる中には人形や動物を愛する人もいるけど、それだって相手の中に自分と通じる何か・・・つまり、同質のものを認めるからこそ、相手を求める感情が生まれるんじゃないだろうか。 従って、人間以外の何かにはなれないが、今更人間の自覚も持てない俺は、恋をしたことがないし、今後することもないだろうと思っていたのだが。 父さんと母さんは、半分不老不死みたいなもんだし、親しい人の中でも俺の寿命が尽きるのは相当早いだろうから、1人ぼっちにされることもないし、恋人くらいいなくてもいいか、とか思っていたのだが。 己の認識の甘さを呪いつつ、再び頭を抱えて布団の中を転がりまわってみた。 ・・・気持ちが悪くなった。 「うぅ・・・」 綾緒さんに無理やり押し込まれた布団の中で、頭を抱える。有難いことに、他の3人は外だ。 恋をしてしまった・・・らしい。 初対面からわずか1日の相手に、恋をしているらしい。 「よりにもよって・・・」 呟くと、思ったより心細い声になった。 我ながら、何を考えているのか。危ないところを助けられて、醜態をさらして、優しくされてころっと落ちるような、そんなに単純な人間だったのだろうか。 よりにもよって、漁火だ。 男で、蛇で、精霊で、異世界の神様だ。 何年生きているか知らないが、100や200どころじゃないだろう。そんな人外に、俺は恋をしているらしい。 「冗談キツイ・・・」 俺の人生、始まりからして冗談尽くしだったような気もするが、流石にこれはなしだろう。 どこから突っ込めばいいんだ・・・? いや多分、アレだ。かの有名な、つり橋効果だ。 危険な状態の興奮を恋愛のトキメキと取り違えるという、あれに違いない。 二日酔いと回転の相乗効果でよけいにぐらぐらする頭で、俺はこう結論付けた。 極限状態で芽生えた恋愛感情は、平常に戻るとなくなる可能性が高い。 つまりこれだって、家に帰ればなくなるのだ。そうに決まってる。 そうじゃないと、困る。 俺の気持ちが多少ぐらついたから、何が変わるってわけじゃない。俺は7日後に家に帰るのだし、漁火は俺が帰った後も、年を取って死んだ後も、ここで綾緒さんや穣雲と面白おかしく暮すのだ。 俺には、家族と魔法街があればいい。恋愛なんて必要ない。恋人も要らない。 なかったことにしよう。そうしよう。 ・・・この時、俺は重要なことを忘れていた。 つまり、恋愛は必要に応じてするものじゃないし、恋人は入用だから作るものじゃない。 まして、要らないと言って軽々しく捨てられるものじゃないって事も、俺は知らなかったのだ。 |
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