保護者は最終兵器の如く >> | ||
春麻がどうにか泣き止んで、圭士の服も乾いた頃。 一向に戻る様子のない士郎は(喋らないから報告もできないだろうに)どこに何をしに行ったのだろう。どちらともなくそう言い出して顔を見合わせた2人はあることに気がついて、揃って震え上がった。 無口で不器用で、はっきり言えば得体の知れない人だが、1つ確かなのは彼が弟の孫を彼なりに大事にしていることで、傷付いた圭士を置いてどこに行くのかと言ったら、可能性はそれ程多くない。 早急に士郎を見つけないと、とんでもない事になる。この考えが決して大袈裟ではない事を、2人はよく知っていた。 この界隈で探し物、尋ね人と言ったら、三軒長屋の端にある『占い屋・ほたる』の管轄である。血相を変えて乗り込んできた幼馴染2人を、店主の環が無言で迎えた。 「兄さん、どこ行った?」 「さあ?」 やろうと思えば地球の裏側を『見て』実況中継することもできる環に、士郎の居場所がわからないわけがない。それどころか士郎に行くべき場所を教えた張本人なのは、絶対に間違いないはずだ。 「士郎さんの行先聞いて、どうするの?」 「止めるに決まってるだろ?」 「じゃあ、知らない」 「おーい、環?」 圭士が仮称Kの住所を知らないので環に頼るしかないのだが、相手は近来まれに見る不機嫌ぶりで、職務放棄も辞さない構えである。 「上田さんに言いつけるぞ? 阿久津さんにも直訴するぞ?」 「占いのことは、俺の好きにして良いって言われてるもん」 「『もん』とか言うな」 しばし、無言の睨み合いになった。 「所詮この世は、弱肉強食なんだってさ」 唐突に、環が言った。 「自由を勝ち取れるのは強い者だけなんだって。だから弱いヤツは利用されても仕方ないって、圭ちゃんのオトモダチが言ってた」 アイツ(仮称K)、遠く離れた魔法街から環が見てるのに気付かずそんなことを言ったのか・・・気がつける奴なんて存在しない気もするが、その辺は根性で気付いて欲しかった。 「無理じゃない? 根性なさそうだし、気付いたところで言動を慎むほど頭が良さそうにも見えないし」 いや、あいつは一応成績優秀で通っていて・・・半分以上俺の貸したノートのお陰って説もあるが・・・そう言えばレポートも手伝ってやったが・・・・・・いや、自分の専門と微妙に違う所の勉強にはなったんだ。そんな意味では俺の方が便利に使ってた気がしないでもない。しかもアイツ金は結構持ってたから、昼飯も奢ってもらったし。 「・・・本当に友達だったの?」 「・・・・・・今にしてみると、微妙?」 敢えて言うなら、利害の一致で持ちつ持たれつな、オトナの関係? 正直にそう言うと、環は嫌そうな顔をした。 元々、浮世離れした(・・・よく言われるのだが、本人はごく普通なつもりだ)圭士を今時の若者を地で行く仮称Kがわざわざ『オトモダチ』にしておくことを疑問に思ったことが無いわけではない。まさか捨て駒にする為とは思わなかったが。 正直に言えば、ざまあ見ろと思わなくもない・・・いや、思うのだが。 「それでも駄目だ!」 環が不満そうな顔をするが、こればかりは譲れない。 「俺も何が駄目なのか良くわからんけど、とにかく駄目なんだ!!」 根拠がなくても、譲れないものは譲れない。圭士は聞き分けの悪い馬鹿になることにした。 「環・・・なあ、頼むから教えてくれよ」 「嫌だよ。『弱肉強食』なんだから、士郎さんより弱いなら何されても仕方ないでしょ?」 あっさりと切り捨てられた・・・完全に、へそを曲げている。 よりにもよって、一番面倒な奴を刺激しやがった・・・・・・ 最早怒る気にもなれない。呆れつつ脱力していると、環がつまらなそうに溜息をついた。 「圭ちゃん。自分のされたこと、ちゃんと覚えてる?」 「心を読むな! 助平!!」 「助平って言われてもさあ。分かりやすいんだもん」 「だから『もん』は止せって」 「マキちゃん、マキちゃん」 別方向に脱線しそうになった言い争いは、春麻が口を挟んだのでようやく収まった。 「ね、お願いだから。圭ちゃんのしたいようにさせてあげて?」 「・・・・・・・・・」 環が不満そうに春麻を見るが。 「駄目だよ、マキちゃん」 春麻は首を横に振って見せる。 「その・・・友達? が怪我したり、死んじゃったりしたら・・・そりゃあ、マキちゃんや士郎さんはいいのかもしれないけど、圭ちゃんは、自分のせいで士郎さんが酷いことをしたって、ずっと後悔するのよ?」 「・・・分ってるけどさ」 「ううん。分ってない」 また、首が振られた。 「そういうのを、余計なお世話って言うの。圭ちゃんを無視して、部外者が勝手なことしちゃ駄目」 春麻がここまで強く主張することは珍しい。数秒ほど黙り込んだ環は、少し落ち着いたような表情で圭士のほうを向いた。 「・・・余計だったかな?」 「正直に言うと、かなり」 頷く。 「あ、感謝してないわけじゃないぞ? 有難いと思ってるぞ?」 放っておかれたら確実に死んでいたのだし。過激な真似を止めて欲しいだけだ。 環は心の底から納得した様子ではなかったが、一応士郎の行先を書いてくれた。 「じゃあ行ってくる」 「「待って!!」」 外に出ようとした途端、両脇から引き止められた。 「その場所、夜中でも結構人が居る所! そのまま出てったら捕まるってば」 「あ」 仮にも指名手配犯である。夜中とは言え、堂々と表通りを歩くのは問題だ。 助け舟を出したのは、やっぱり春麻だった。 「うちにある薬、使えると思うんだけど」 里山薬局が医療関係なら、魔術的な霊薬はウィッチズ・キッチンの十八番である。 春麻が引っ張り出してきた小瓶の中身を飲み干した途端、圭士の体色が変化した。 髪の毛はプラチナブロンド、目の色がピンク色の混じった紫で、肌は真っ黒・・・確かに元の里山圭士とは似ても似つかない姿だが、目立つ事この上ない。 「今ある中で、これが一番地味だったの・・・・・・」 「あ・・・有難う?」 語尾が微妙な疑問系になったが、春麻は怒らなかった。 |
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