霊的能力を持つ生物の外見的特性について>>   

 質問 どうして九尾の狐は美女になるのですか
 答え 尻尾の数と化粧の濃さは比例するからです

 ・・・と、言うのは真っ赤な嘘だが。
 霊力の強さが人間に変化した際の容姿に反映されるのは本当である。
 つまり、霊格が高ければ自動的に人目を引く姿になるのだ。・・・例え、本性がミミズやオケラであっても。
 これは変化の場合だが、そうでなくとも霊力を持った動物は変わった外見を持つことが多い。例えば本性の漁火は異様に鮮やかな赤い鱗を持っているし、自然界にはありえないほど巨大でもある。九尾の狐や猫又、八岐大蛇にケルベロスなど、尻尾や頭の数が多かったり普通有得ないオプションがついていたりするタイプも有名だ。
 誤解され易いのは、霊力があるから外見が変わるのであって、外見が異常だから霊力を持つとは限らないということだ。これは当事者にも誤解されていることが多く、話によると仔狐の一族もそのくちらしい。

 彼は、遡れば稲荷大明神の直系に行き着くという白狐一族の生まれだという。
「ふーん。そう言えば聞いたことあるなあ。今時珍しいくらい閉鎖的で、神社にも関ろうとしない狐一族の話」
 霊格を高めるには信仰心を集めるのが手っ取り早いので、有力な狐一族は大抵縁のある稲荷神社と提携を結んでいる。ところがこの一族の場合は大明神の直系だというプライド(嘘か本当かはさておき)が邪魔をして、今更眷属になるなんてとんでもない、と独立を保っているらしい。
「ハブにされてる、とも言うけど」
「委員長、んな実も蓋もない・・・」
 そんな独立だか孤立だかを継続するために必要なのは、自分たちが特別だという選良思想。そして不適格なものを切り捨てる排他思想だ。
 決められた型から少しでも外れた者は、容赦なく捨てられる。
 例えば、この場合・・・
「茶色だよな」
「ってか、狐色だよね?」
 思わず指摘した紫に、環が頷く。無遠慮に眺められた仔狐はふるふると体を揺すり、人間の姿になった(ちなみに、服はちゃんと着ている)。
 柔かそうな髪の毛は毛皮と同じ色で、普通の狐に比べればやや淡いかもしれないが立派な狐色だ。白くはない。
 狐が狐色で何が悪いと言いたい所だが、『白狐一族』でそれは通らない。
 今年の春に生まれてから散々爪弾きにされて、とうとう追い出されたのが2、3日前のことだった。
「だから、仕返ししてやろうと思って・・・霊力の強い人間を食べれば力になるっていうから・・・」
「ばっかだねえ」
「何がだよお!」
 仔狐が猛反発する。
 当たり前だ。ここまで思いつめて起こした行動を「馬鹿」の一言で片付けられては、怒鳴りたくもなるだろう。
「ん―? 今日明日にいきなり九尾になれると思ってるとこ?」
 環は狐色の尻尾に視線を向ける。年齢を考えれば立派過ぎるほど立派で、小さな体とはバランスが悪かった。
「相当修行したんでしょう? 生まれてから1年も経たないうちに尻尾が2本なら十分ハイペースだし、焦ることもないと思うけど?」
 仔狐は、それでも首を振る。
「それじゃ駄目だから・・・!」
 どんなに頑張っても、毛の色が違うというだけで認めてもらえない。ならば、一族の誰も敵わないくらい、力ずくで叩きのめせるくらいの力がほしい。
「それは、止めといた方がいい」
 漁火が珍しく真剣な顔で、口を挟んだ。
「力は持つものじゃなくて、身に付くものだから。身の丈に合わない力を無理に得ようとすると、絶対にどこかでしっぺ返しがくる・・・怖いぞ?」
 何やら『腹を出して寝ると風邪をひきますよ』と言っているような調子だが、実際に力をつけた大蛇が言うだけに説得力があった。
「じゃあ、俺・・・一生、仕返しできない?」
仔狐は今にも泣き出しそうに目を潤ませる。
 あまりに心細げな様子に、環が珍しく仏心を出した。
「仕返しはともかく、追い出した連中より強くなりたいって意味だったら努力と運次第じゃないかな? 素質は十分みたいだし・・・先代、どうですか?」
「そうね・・・」
 占い師2人が、じろじろと・・・それこそ頭の天辺から足の先まで眺め回す。居心地が悪そうにますます小さくなる仔狐を、今はそれ程大きくない犬が膝に抱き上げた。
「霊力の許容量だけは体質がものを言うけど・・・それは問題なさそうね?」
「体が小さいのは栄養不足だろうから、これから何とかなりそうだし。やっぱり修行次第ですか?」
「結局それかしらねえ」
「ほんと!? ほんとに俺、強くなれる!?」
「元から霊力を持ってる生き物なんだから、見込みはあるんじゃない? 少なくとも、俺やユカちゃんよりは」

「がんばれ」
 犬が、元気付けるように仔狐を舐めてやったのだが。
 双方共に人間の格好をしていたせいで、高校生(男子)が小学生(男子)の顔を嘗め回す、奇妙な構図になっているのが難点だった。