現代人の法話 
〜 「終戦の日に想うこと」 〜

今年もお盆と共に終戦記念日が廻(めぐ)ってきた。数年前、お檀家の古谷野空美(ひろみ)さまから、先の大戦で中国にて亡くなられたお父様の慰霊旅行に参加された際に記された「慰霊の旅に想うこと」という以下の文章を戴いた。

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「二年前の初夏のあたりでしたでしょうか。夢を見ました。写真でしか会ったことのない父の夢でした。初めての夢でした。顔は良く見えませんでしたが父でした。「さぁ、日本に帰るぞ」と云って起きあがったのでした。私ははっとして目が醒めたのを昨日の様に覚えています。
 今回慰霊する機会を得て、父に会えるような気持ちでおります。
 この世に生を与えて下さった父に、感謝すると共に、六十余年間、平安に、大過なく暮せてこられたのは、父が導いて見守って下さっていると感じながら、毎日を過ごしております。
 私が栃木に疎開して居るとき、自家中毒を起し、今日か明日かの日が続いたそうです。その事で父から手紙が届き、とても心配している旨が記してありました。
 終戦を迎えたと同時位に、愛育病院に入院し一命を取り止めた次第だったそうです。
 父の行方不明が、終戦の日の次日になっていると云うことは、父の命と引替えに、私に生命を与えて下さったのではないかと考えております。
 父の終焉の地に立ち、寒い大地で、未(いま)だにさまよっている父の魂が、眺めたであろう風景を目に焼き付け、父が感じたであろう空気、風、香りを千分の一、万分の一を体の中に取り入れ、父と共に日本に帰ろうと思ってまいりました。
 慰霊の機会を与えて下さった、日本遺族会の方々、政府関係の方、旅行会社の方々にお礼申し上げます。七月七日 牡丹江にて」


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先の戦争について様々な意見があるのは承知している。しかし古谷野様をはじめ他の多くの父親たちが日本を、いや何よりも大切な家族を守るために戦地に赴かれ、その魂はお浄土に往かれた後も家族を見守って来た。そして目に見えない導きがあったからこそ今の日本の平和と繁栄があると思う。 終戦の日を迎え、あらためて不戦の誓いと英霊への感謝の気持ちをもって当山の戦没者慰霊碑にお参りをする。南無阿弥陀佛




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