悪魔の招待状

FC、ケムコ ジャンル・アドベンチャー(1989年)

「きみはだあれ?ぼくはレトロゲーマーだよ!!」

さて、けったGPに参加する際にこのゲームを発表しようかなと考えておりました。
うっかりミスで参加し損ねたので代理企画として紹介します。
今回は以前紹介したシャドウゲイトに続くケムコADV、悪魔の招待状について紹介しましょう。
前回紹介したシャドウゲイトに関してはこちらをどうぞ。

さて、前時代のレトロゲームと言うのは時として恐ろしいギャグを生み出してしまうものです。
紹介したシャドウゲイトを見た人には説明不要です。
シャドゲイト同様、このアドベンチャーゲームは自由度が恐ろしく高く、
普通ではできるはずも無い無駄な行動ができてしまい、その結果も用意されているのがスゴい所です。
しかしシャドウゲイトで既に公開してしまったため、それだけを語るのであればただの二番煎じ。
そしてシャドウゲイトと見比べれば明らかに見劣りします。
しかし、このゲームは別の意味でのスゴさを持っていたため、それを紹介してみたいと思います。


さて、この悪魔の招待状、どの様なゲームかと申しますと、前回の古臭いクラシックな西洋RPGと異なり、
恐怖の館に迷い込んでしまった少年の物語です。

ある日、少年はお姉ちゃんと森の中をドライブをしていた所、薄暗い森の中で突然の事故に見舞われてしまう。
眼を覚ました時には、隣にいた姉の姿は消えており、不気味な館が聳え立っていた。
悪魔の棲む館に、少年は勇気を振り絞り姉を救い出そうとする。
簡単に言えばこんなストーリーです。
ある意味ではホラーゲームですね。むしろ雰囲気だけを見れば明らかにホラーです。

さて車の中から眼を覚ます所からスタートです。
さっさとドアを開けて車の中から出ましょう。のんびりとしていると…。

「うわあっ!!ガソリンタンクに ひが ついた!!
 ああっ!!ぼくが グズグズしていたから おねえちゃんを
 たすけることが できなかったよお!!

いきなりのゲームオーバーです。
館に入る前から終わってしまう辺り、シャドウゲイトの主人公を思わせるダメっぷりですね。


さて館に入る前にポストをのぞき見る事になります。
そこに置いてあった手紙を見てみると…。

館の執事の書き置きでした。この手紙でこの館を実態を知る事となります。
この館は白魔術師の館だったが、弟子が黒魔術に手を出してしまい悪魔を呼び寄せてしまった。
師匠も悪魔の手で封じられてしまい、自分自身も怪物の仲間入りをさせられてしまったとの事。
ここを訪れてくれる何者かに希望を託して手紙と魔除けのペンダントをポストに置いたのだとか。
えらく運任せな救援願いですが、部隊設定も製作時代も考えればまあ普通でしょう。

少年は恐怖を感じながらも、姉を探すために館へと踏み込み、当然の如く閉じ込められます。
最初のゲームオーバーは置いておいて、これだけ見るとホラーゲームですね。
主人公が少年と言うのも、恐らくプレイヤーとマッチするせいか無駄に現実味があって恐いです。
(主人公が運転席に座っていた事から、免許が取れる年齢説もありますがとてもそうは思えません。言動がガキ過ぎて)

雰囲気だけでなくBGMも怖く、怪物を前にすれば恐ろしいBGMと無機質なサウンドがプレイヤーをビビらせます。
怪物を前にしてゲームオーバー直前に流れる取り返しのつかない事になってしまった様なBGM。
当時のFC画像でも心臓に悪いカット。小さな子供にはトラウマです。
子供は何だかんだで怖い話が好きですが、嫌いな人はとことん駄目なもの。
殺され方も凄惨なもので、体の肉や皮膚を引きちぎられて血まみれになって死んだり、
無数のゾンビに生きたまま食い殺されたり、底なしの穴に落とされて精神崩壊したりなどの、
とても自分の身に起きたと思えばゾッとする死に方ばかりです。
それに加えてこのゲームは難易度が高いため、死ぬ事なんてごく当たり前に遭遇するんですね。
何度ものゲームオーバー画面を迎える事になります。
しかしそんなホラー要素を台無しにする様なものが…。

ゲームオーバー

なーんちゃって…。
 こんなことで へこたれる ぼくじゃないヨ!!

 コンテニューで もう1ど チャレンジしよう!!」

人生にコンテニューは効きません。
あれだけ凄惨な死に方をしたのにその余裕は何だとかメタ発言に色々と突っ込むべき所があるんですが
とにかくもホラーの雰囲気台無しです。
ある意味では、このセリフが陰惨なホラーを相殺している感が無くもありません。
ちびっ子のトラウマを払拭してこれはゲームだと言い聞かせて再プレイに取り組ませる…
これをどう評価したものか…。

ちなみに、この館の主は白魔道師で、自然の力を操ると言う呪文の一例として記されていた呪文ですが、
これらの呪文を見て、とてもまともな呪文には思えなくなりました。
他には「オーオーカルメン」だとか「ヒラケゴマゴマ」という呪文があります。
ある意味、シャドウゲイトの呪文よりひどい。
メチャクチャ騙されている気がします。

言うタイミングを外しましたがこのゲームはファミコンのアドベンチャーゲームとしてはすこぶる難しいです。
入手できるアイテムが膨大にも関わらず大半が使い道の無いダミーアイテムだったり、
ストーリー上の重要アイテムもそれらのダミーアイテムとほとんど見分けがつかない様な必要には思えないアイテムだったり、
普通なら見過ごしてしまうような一文にヒントが隠されていたり、
特定のアイテムを装備していない、あるいは持ってはいけないアイテムを持っている等の因果関係がわからないまま
ゲームオーバーを迎えるという事も多数あります。
クリアに必要なアイテムを入手せずに進んでしまい、後戻りできなくなって詰む事だってあります。
謎解きの仕組みが元素記号だったりと正直低学年層には厳しすぎるものもあります。
実際、子供の頃あきらめたというプレイヤーも多かったそうで、自分も攻略サイトを見なければクリアできなかったかも。
必然的にゲームオーバー画面が多くなる訳で、ある意味ではこれで良かったのかもしれません。


さて、少年(本名不明。「ぼく」としか言わないので)に自己紹介してもらうとしましょう。
伝統的なコマンドがある事ですし。

しらべる>セルフ

「ぼくだ。こんなところに ひとりぼっちでいる ぼくは
 せかいいち ふこうな しょうねんだ。」


この主人公の自意識過剰っぷり、さすがケムコゲームですね。
シャドウゲイトの時もそうだったんですが、テキストセンス、主人公のセリフが素晴らしすぎる。
悪魔の招待状の最大の面白さはこの「ぼく」の恐ろしいまでのキャラ性だと思うんですね。
何かにつけてお姉ちゃんの事を口にするおぞましいまでのシスコンっぷりもそうなんですが、
この小憎たらしいうざさがこのゲームの特色ですね。
先程紹介したゲームオーバー時の「なーんちゃって」なんて最たる例です。
それらも含めていくらかをピックアップしてみましょう。


1.これは一体何のために存在する呪文なのか

さて、先程紹介したとても白魔術とは思えない呪文を使ってみましょう。
「百聞は一見に如かず。使ってみれば一目瞭然。」
この説明文から嫌な予感がしますね。

つかう>じゅもん>オフロデブクブク

「ぼくは できるだけ おおきなこえで さけんだ。
 オフロデブクブク!!」

「なっ なんだ?
 おしりの あたりが モゾモゾしてきたぞ!!」

 プーッ

「わっ!!
 はずかしい!!
 おならしちゃった!!

「エーン!!くさいよぉ!!
 この くささ た・え・ら・れ・な・い!!」

「はなが まがってしまったので
 いっかい やすむよ!!
 このあいだにトイレでも いったら?

これのどこが白魔術だ。
使ったらただ屁が出ただけという完全に意味不明の呪文でした。
自分で自分の屁の臭さに苦しんだと思ったらまさかのプレイヤーへのメタ発言。
何の用途があって、こんな呪文が作り出されたのでしょうか?


2.呪いのアイテムとの格闘

さて、このゲームが難しい理由に挙げた中にダミーアイテムを挙げました。
ダミーアイテムとは、攻略には何も関係も無い、使い道の無いただの入手できるだけのアイテムです。
このゲームではあらゆる物が拾えたりします。一見すると役に立ちそうの無いアイテム。
しかしそれがクリアに必須だったりするから困ります。
そう、プレイヤーはダミーアイテムの山から何が必要なアイテムかを見極めなくてはならないんですね。
「だったら手当たり次第拾って試せばいいんじゃないか?」
そう思うプレイヤーへの罠が、ダミーアイテムの中に存在します。
宝石なんて、ゲーム的に考えてどう見ても重要そうなアイテムでしょう?
しかし、その先入観こそが罠。言うなればトラップアイテムというものが存在します。

突然の頭痛や胸の苦しみを訴える主人公。
館の呪いが自分を蝕んでいるのか?
その原因が自分が手にしているものにあるとは、この時は思いもよらないでしょうね。
そう、この真っ赤なドクロは手にしたルビーの化身。そう、呪いのアイテムなのです。
これに気付き、精神が侵食される前に手放さなくてはいけないのです。

そして時が過ぎると、何者かの囁きが頭を貫くのでした。

『ねえさんは きっと しんでるさ!!
 だから さがすのなんか やめて
 われわれの なかまに ならないか?

それはまさに悪魔の囁き。姉の事など諦めろ、
それより自分達の仲間になれ、と頭の中に直接語りかける闇の誘惑。
しかし、そこで我らがシスコン野郎は違いました。

うるさい!! うるさい!! うるさい!!
 ぼくは ぜったいに おねえちゃんを みつけるんだい!!」

さすがは超絶シスコン。姉の事を諦めろなどと言う言葉は意に介さず、
なんとツンデレ式のごまかし方で拒否しました。

今となっては駄々っ子と言うよりもツンデレセリフになってしまうから困ります。
しかし悲しきかな人間の意志力。JOJOのチープトリックで実証されている様に、
どこまでも執拗に囁かれ続けるだけで人間の心と言うのは磨耗し精神は壊れていってしまうのです。
さらに時間を重ねるごとに精神の侵食はどんどんと進行していきます。
まさしく、いともたやすく行われるえげつない行為。

お姉ちゃんを救いたいと言う思い、もといシスコン魂もついに限界が来てしまいました。
残念ながらここでゲームオーバー。

「よかったのかホイホイついてきて。俺はシスコン弟だってかまわないで仲間にしちまう怪物なんだぜ。」

「ならないか?」の発言といい、こんなセリフが浮かんでしまう私の精神は、
ヤマジュンに侵食され尽くされているのかもしれません。
あれ、何でホラーなのにツンデレとかヤマジュンとかそんな方面に発想が行ったんだろう。


3.プレイヤーに悪態をつくどこまでもうざい主人公

さて、ケムコゲームはプレイヤーの命令にどこまでも忠実なのが特徴です。
それがたとえ自殺行為だったとしても。それはシャドウゲイトのしんのゆうしゃが既に実証済みです。
しかし…?

いどう>隠し穴

「ぼくは あなを おりようとした…
 だが やっぱり きがかわったので やめた!!」

へっ へっ へっ!!
 ぼくは いま はんこうきの まっただなかなんだ。

 わるいケド キミの いうことにばかり つきあっても
 いられないんだよ。」

意外ッ!それは命令無視ッ!
今までのケムコゲームでは考えられない様な命令無視。
しかも、「反抗期の真っ只中」と言うとんでもない理由の悪態。
年いくつなんでしょうね?
当然こんな態度を取られたらプレイヤーがする行動はただ1つ。
再度の命令です。

「キミも なかなか しつこいね。
 でも イヤだと いったら イヤなんだ!!
 たのむから あきらめてくれよ。」

向こうも抵抗してきました。
しかしここまで来ておさまりがつく訳もありません。

イヤだ!! イヤだ!! イヤだ!! イヤだ!! イヤだ!!
 キミが なんていっても ボクは ぜーったい
 おりないからね。」

大事な事なので5回言いました。
先程の「うるさい!!うるさい!!」的ですね。
しかし最初がアレだけ悪態をついていたのにどんどんと悲痛な拒否になって行きます。
まさかこれは…?次は逆らえないと言う暗示?

「ギャーッ!! クッ クモだ!!
 あなのなかには きょだいな クモが ぼくを
 まちかまえていた。」

「だから おりるなって いったじゃないか!!
 キミのせいで ぼくは しぬんだ。
 まあ せいぜい もう1かい やりなおしてくれよ。

確かに自分の好奇心が「ぼく」を死に追いやりました。
頑なに降りるのを拒否していたのも正しい行為でした。
しかし、悪いと言う気持ちは最後の一行で完全に吹っ飛びました。
正しいが、お前の言い方が気に入らない。
まさしくこの状態ですね。
しかしこいつ、何でこの状況だってのにこんなに余裕なんでしょうか
そして例のごとくゲームオーバー画面でコンテニューしてもう1度チャレンジしよう、と抜かします。


さてそんなこんなあって、ようやく物語は終結を迎えます。
悪の魔道師ドラカンを底なし穴に落とすというよくわからない方法で撃退し、
彼の呼び寄せたデーモンが最後の敵として少年の前へと立ちはだかります。
正気を取り戻した姉は無言で一目散に逃げ出し、これで心置きなく戦えるとデーモンとの一騎打ち。
悪魔にとって大の苦手の十字架で撃退します。

窓の外には微笑む最愛のお姉ちゃんが。
一人ぼっちで勇気を振り絞り、恐怖の怪物達を切り抜け、お姉ちゃんを助ける事ができたのです。
まさに大団円。

思えばなぜ少年、お姉ちゃんだったのでしょうか。
少年にしたのはファミコン層であるプレイヤーと重ねるためでしょうね。子供は何だかんだで怖いものに惹かれます。
プレイヤーになったつもりで恐怖の館の臨場感を感じて欲しかったのでしょう。
なーんちゃって(ryは置いておいて。
そうなると、子供がお姫様だの恋人だのは少しイメージがわきにくいのでしょうね。
大切な家族を守りたい、そんな意味もあってお姉ちゃんになったのでしょうか。
その結果おぞましいまでのシスコンになってしまいましたが

すがすがしい かぜと おうごんのひざしが いま
ぼくたち ふたりを あたたかく つつんでくれる。
ぼくは いま へいわと しょうりの きもちで
いっぱいだ!!
そして すこしだけ おとなに なったような きも する…。
たとえ このさき どんな しれんが ゆくてを
さえぎっても きっと ぼくは まけないだろう。

なんてったって ぼくには さいこうの おねえちゃんが
ついているんだから…!!

ところで決戦前の姉の行動を見てくれ。↓こいつをどう思う?

     ヽ       j   .す
  最.   ゙,      l.    ご
  低    !      ',     く
  の    ',        ',    :
  姉    ト-、,,_    l
  で    !   `ヽ、 ヽ、    _
  す    /      ヽ、`゙γ'´
   :   /         \
   :   !   ト,       ヽ
ヽ__  ___ノ ,!   | | ト,       ゙、
  レ'゙ ,イ ./|!  .リ | リ ! .|! | ト|ト}
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´彡'゙,∠-‐一彡〃 ト.、,,,,,,,,,,,レ゙
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\     ` ̄   ,/
  ` .、       /
   :ミ:ー.、._  /``'''ー-、
    `゙三厂´

これから戦いの邪魔になるからとかそういう発想をしても
無言で先に逃走はどう考えてもフォローできません…

ちなみに一応言うとセコい手を使ったので製作時間は約4時間半程です。

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