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終わらない鎮魂歌を歌おう


vol_2/4   白夜に近いこの場所で。



 はじめに“死神”を見たのはいつのこと、だっただろう。
 そうだ、あの夏の日だった。小学生、・・・いや、中学生にあがる前の頃だった。
 大人になる前に幽霊が見えなければ、その人は一生、幽霊をみられないといわれる。
 見られる方が幸せなのか、見られない方が幸せなのか。そんな質問、答えなど決まっている。
 “あんなもの”見られない方がいいに決まってる。


「幸助、幸助ったら!!」
 父、母、そして俺。家族3人。
 そして、・・・いまはなき祖母の家族構成だった。
 はず、なのだが。

「おきんしゃーい!!」
「・・・ばーちゃん、うっさいよ」
 幽霊に起こされる朝って、どうよ、これ?
「幸助、あんた社会人にもなって、一向におきられないってどういうわけや?」
「あー。・・・はいはい、こんどからはひとりで起きまーす。努力しまーす」
「そない、ばってん、毎回おこされとるがな。気をしっかりもちんしゃい!!」
 気をしっかりもっていたら、普通、幽霊など見えるものか。
「それと、朝食、つくっといたけん。しっかり食べや」
 実のばーちゃん(しかも幽霊)に飯をつくってもらう21才社会人、俺って・・・。
「普通の人がみたらポルターガイスト現象に見えるんだろうな」
「は? ぽる太がどうしたって?」
「いや、なんでもないっす。いただきます」

 田舎から都会へと移り住んでもう幾年。
 父さん、母さん、いままで養ってくれてありがとうございます。
 だけど、・・・だけど、だけど、だけど。

 田舎から、都会へと一人暮らししたのに、なぜ幽霊のばあちゃんまで一緒に憑いて来ているのか、それを誰か教えてください。
 ある意味で幽霊のばあちゃんから開放されたいがために都会へとわざわざ一人暮らしをしているはずが・・・。
「おかわりいるけ?」
「うん!! おかわり!!」
 誰か、教えてけろ。


   ※


「いらっしゃいませー」
 21才。当然、独身。(最低)
「・・・いらっしゃいませー」
 ただいま、都会の端っこで一人暮らし。だが、祖母の幽霊と一緒には生活はしている。
「・・・・・らっしゃいませー」
 職探しはしているが、いまだ、コンビニでのアルバイト店員生活。
「・・・・・・・っしゃいませー」
 長所、幽霊が見える。(死神も)
 悪癖、女癖悪し。


 ドン!!(カウンターを叩く音)
「なんやねん、おまえ、こら!! 商売の邪魔なんじゃ!!」

 怒ると関西弁になる。追記っと。
 ひとっこひとりいない深夜のコンビニ。

「・・・・・」
「・・・・・」

「・・・な、なんなの幸ちゃん!?」
「い、いえ。死神が、・・・いえ、なんでもないです」
 ・・・・幸ちゃん。・・・・プッ。
「あ、いま、おまえ、笑ろうたやろ!?」
「もーなんなの、幸ちゃん!?」
「いえ、あ、な、なんでもないっす」
「最近、疲れてるんじゃない? しっかり頼むわよ、うち、店員すくないんだから、風邪でもひかれて休まれちゃ、困るんだから」
「あ、はい。大丈夫、っす。俺、身体だけは丈夫っすから」
「まぁ、身体だけはって・・・ふふふ、若いっていいわね。そう、じゃぁ、頼むわよ。わたしちょっと、裏で在庫の確認してくるから」
 ああ、なんだろ、いま風邪でもないのに、悪寒が・・・。


 よたよたと、小太りな店長が裏へと消えるのを見守る俺。
「ねぇ、店員すくないって、九割九部あのオカマの店長が原因なんじゃ・・・」
「あー、はいはい。で、おまえのもっているものは?」
「かま。・・・ってなに言わすんだ!!」

 ドシン!!(カウンターを叩く音、その2)
「つーかさ、おまえは俺をからかいにきたのか? 死神、“ヤヨイ”さんよ」
「からかったのは、おまえの方だろ!! っていうか、その呼び方やめろ!!」
「仕方ないだろ、どうせ、独り言に見えるんだ。“死神”なんて危なっかしい呼び方よりも“ヤヨイ”のほうがいい!!」
 よくよく考えれば独り言を怒鳴っている時点でアウトだ。
 はーあ、俺はいったい、なにをしているのやら。
「で、なんだよ。仕事中に人のプロフィールささやくほどのことか?」
「あ、はい。ゴホン、ゴホン(咳払いの音)」
 うわぁーわざとらしい。
「香菜さんの旅立つ日がわかりました」
「・・・あっそ」


「・・・・それだけ?」
「それだけだけど?」
「サイテー!! あんた、本当に、サイテーだわ!! いっそこのオカマで首を裂いてやりたい!! いな、カマ!!」
「うるせーなー。つうか、だいたい、“死神”は死んでから本人の前に出るものだろ?
 ・・・それに、なんで、俺に香菜の死期を伝えてんだよ。俺も、・・・その、死神の規律とか、よくわからねーけど、教えちゃいけないもの、なんだろ?」
「う!? それは、そうだけど・・・」
「シラネェゾ。上司にばれて痛い目にあってもさ」
「・・・なんで?」
「へ?」
「なんで、あんた、そんなことまで知ってんのよ?」
 ヤベ、マズッタ。
「その、俺はだな・・・」
「・・・俺は?」
「死神を見るのは2度目なんだよ」
「えー!!」
「馬鹿、声でかい」


 その刹那だった。ウィ〜ン(自動ドアが開く音)
「い、いらっしゃいませー」
 仕方がない、今日は無理やりにでもヤヨイに帰ってもらしか他ない。
 客は幸いにも雑誌を立ち読みしだした。その隙に俺はヤヨイにささやく。
「帰れ、今はマズイ。商売の妨げになるから」
「えー、でも・・・」
「いいから、帰れっつーの」
「・・・わかったわよ。でも、香菜さんの死期は再来月の今日だからね。それだけは肝に銘じとけ!!」
 勝手に叫び、開くことがない自動ドアをすり抜け、ヤヨイは外の夜へと吸い込まれるように消えていった。
 久方ぶりの静寂を取り戻し、俺は消えていったヤヨイの方へと溜息まじりにつぶやいた。
「なんだったんだ、あいつ」


   ※


 人はなぜ、生きなければいけないのか。
 そんなことを思うことが、例えば、空を見上げた瞬間に答えがわかるかもしれない。
 生きること。生きつづける事でわかるのは、答えなど、ほんの数行程度の部分でしかなく、
 その他全部は疑問符で埋め尽くされている、ということだ。なぜ、生きるのか。なぜ、俺はここにいるのか。
 なぜ、俺は、いまさらになって香菜が気になりだしているのか。

「いいんかい? 本当に?」
「・・・ばあちゃん」
 布団に寝転がる俺にばあちゃんが声をかけてきた。
「あの娘、言うとることは本当じゃが?」
「・・・ああ、そうらしいな」

 本当だ。本当ということは、変えることができない。
「このままじゃ、あんた、またひとつ大切な存在を見失うことになるよ?」


 どうしようもない。
 答えは変えることはできない。
 そして、それは、俺の答え。


   ※


 昔、大好きだった祖母は死んで、死神になった。
 幼かった俺は身近にいた祖母が、幽霊だった頃から見えていた。
 それは、死神になった今でも、同じことだった。
 祖母はそんな俺を“生と死の仲介人”と呼んだ。
 幽霊が見える存在、そして死神でさえも、俺には見えていた。
 そして、それはこの世に魂をつなぎとめる役も、同時に与えられるハメになった。


 一時の心の迷いで自殺する人。
 たまたまの運だけで犯罪者の餌食になる人。
 災害に遭う人。事故に遭う人。
 俺は“仲介人”としての努力をしてきた。
 自殺は止める。事故は種から未然に払う。災害は逃げるに越した事はない。
 救えるだけの人は救った。幽霊を見えるようになったあの日から、祖母が死神になったあの日から。
 俺にできることは、“生と死の仲介人”とバレない程度にやってきた。
 死神は現生する人になにもできない。ただ、“見える人”、そして“死んだ人”にしか。
 俺は、そしてだからこそ仲介人を買って出た。“見える人”と、して。


 そんな俺だが、ただひとつ。
 たった一つだけ無力なことがある。
 魂をつなぎ止めていられない事がある。
 それは、病気での死、だ。




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