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終わらない鎮魂歌を歌おう


vol_3/4   白夜に近いこの場所で。



「あーぁ。死んじゃった」
 香菜の放ったその言葉に、俺はドキリとした。
 きっと、青ざめていたのだろう。香菜はそんな俺の表情を読んでか、心配げに言った。
「どうしたのよ、ゲームよ。げぇむ」
 馬鹿なんだから、もう。

 香菜の表情はいつだって変わらなかった。
 ただ、俺の表情はあのとき、ヤヨイが放った死期、あの日までだった。
「今度さ、学校でも見に行こうか?」
「あ? あぁ、学校? なんで?」
「・・・もう、私の話、聞いてなかったでしょう」
「悪い」

「・・・なんか、・・・なんか、幸助、最近調子変だよ」
「そ、そんなこと、ないぞ!!」

「・・・・・」
「・・・・・メーン!!」

「痛ッテェー!!」
 なにを血迷ったか、香菜は携帯ゲーム機で剣道の面をならってしくさった。
「な、なにすんじゃー!!」
「そうそう、その調子」
 まったく、冗談じゃない。

「あはははは・・・」
「笑うな、コラ」
 こんな元気な香菜が死ぬなんて。
 冗談じゃない。


   ※


「へ? あ、うん。・・・え!? 今、なんて!?」
「・・・だ・か・ら。どうしたら香菜を助けられるかって聞いてんだよ」
「あ、あんた・・・」
「な、なんだよ?」
「ようやく、人間としての心を取り戻せたのね!?」
「ちゃうわい、ボケェ!!」

 そんなこんなで、俺はヤヨイとまたも病院の屋上へと来ていた。
「どうしたら、・・・うーん、ムツカシイねぇ」
「・・・わざとだろ、オイ、こら!!」
「そもそも、死神のリストに載っている死者が覆ったって事例はそうめったにないしなぁ」
 俺はその死神のリストとやらに載っている死者を幾度も土壇場で生者に変えてきた者である。
「どうしようかなー」
「オイ、こら!! わざとらしいんだよ。さっさと教えろ!!」
「・・・なに、その態度?」
「あ、ぁその、その、なんでもないです。すみません。おしえてけろ!!」
 俺の迷演技に幾人の女性が毒牙にかかったことか。ヤヨイはまだ知らない。
「よ、よーし。態度の悪い、生きている価値もないあんたがそこまでいうんだ。ひとついい策を貴様に授けようではないか」
「は、ははー!!」
 死神に土下座する俺。・・・そんな、俺っていったい・・・。


「要は、病気を治せばいいんだ!!」
「・・・へ?」
 俺の土下座はいったい・・・。
「“へ?”じゃないよ。病気、治す、生き返る。これでばっちぐー!!」
「あ、あの、ひとつ御質問、よろしいでしょうか?」
 俺は土下座したまま訊ねた。
「なおせてたら、死神のリストになんか載らない」

「・・・・」
「・・・・」

「・・・もう少し、土下座してろ。額が地べたにつくまでな。答えはそのあとだ!!」
「あ、ああ。わかったよ」
 俺は素直に額を地べたに擦りつけた。
 香菜を生き返らせたい(まだ、死んじゃいないけど)、
 香菜を生き返らせたい(まだ、死んじゃいないけど)、
 香菜を生き返らせたい(まだ、死んじゃいないけど)、
 それだけで、俺の頭はいっぱいで張り裂けそうだった。
 しばらくして、・・・ゆっくりと地べたから額を離し、
「もう、いいだろ? ヤヨイ、香菜はどうしたら死なない!?」
 そう、全てを視界に捉えた。・・・そのときだった。
「・・・だ、誰もいねー」

 死神にまんまと逃げおお去れた俺って、いったい・・・。


   ※


「死者を生き返らせる方法だって? ・・・人体練成とか?」
「それ、違う。 なお、違う。そもそもまだ、死んじゃいねーし」
 ばあちゃんに訊いたところで無駄だったか・・・。

 俺はその日、一日中、香菜を生き続けてやれる方法を考えていた。
 バイトをしているときでも、オカマの店長が人知れず男子便所の鏡にむかって化粧をほどこしているときでも、ばあちゃんが死神だというのに、俺のためにポルターガイスト現象で夕飯を作ってくれているときでさえも。


「・・・お、俺はなんて無力なんだ!! “生と死の仲介人”のくせして、娘っ子ひとり助けられないのか!!」
 やはり、答えは変えられない。
 そういうものなのだろうか。

「一番、厄介だからねぇ、病気っつーのは。他のことならいざ知れず、こればっかりはね。お医者様の技量にすべてがかかってるからねぇ」
 ・・・医者、医者の技量!?
「な、なぁ。ばあちゃん。ひとつ質問あんだけど、いいかな?」
「ん? なんだい?」
「医者を、・・・優秀な医者に変えてみたらどうかな?」
「・・・さあね。あたしゃ、死神。所詮、できることといえば、誰が死ぬか知ることと、そして死んだあとのこと、だけだからね」
「可能性は、まだゼロじゃない、ってことだよな」
 祖母はすっかりあきれているようだった。
 “仲介人”としての能力はいざ知れず、現実としての俺は21才コンビニ店員。
 祖母はそんな俺のやる気を少しでも将来のために生かしてほしいと考えているようだ。


「あんたが、もう少しそのやる気を就職活動にまわせればね。・・・やるだけのことはやんな。後悔の残らないうちにね」
 そんなことは言われるまでもない。
「やってやるよ。香菜は死なせたりなんかしない。ばっちゃんの名にかけて!!」
「・・・言っちゃったよ、この子」




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