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act.8: 【null】



 日々はおそろしいほど無機質に消えていく。2回目の失業認定を済ませたあと、私はそうそうに切り上げて部屋につくなりしきっぱなしにされている布団に横になった。あと何日こうしていられるだろう。あと何日、こんな生活をしなければいけないのか。失業保険が支給される期間は90日。私の場合、社会不安障害が原因で退職したので3ヶ月の待機期間を待つことなく手続きしてすぐに給付が受けられた。計算してみる。あと、2ヶ月。職業訓練なども考えてみたが、給付をうけながら受講できるものはさがしてもなかった。選択肢はそう多くはない。生きるためには働かなければならない。生活を維持することだけを考えればそれはあきらかなことだった。そもそも私の場合、仕事だけをしてすべてが満たされることはない。仕事だけでは満たされないからこうなった。特別な才能、経験がない私にとって仕事は生きるためであり、生きるために仕事をする。だから、最低限の生活レベルを維持できる仕事なら選択肢は無限にある。問題は、そんな日々のサイクルが順調にまわるわけがないことだ。


 これ以上、病気が悪化したらどうする?
 誰が責任をもつ?
 誰が苦しむ?


 私だ。だからこそ、私は仕事を選択する権利がある。他人にとやかく言われる筋合いはない。だからこそ悩むのだ。私だけではない。この不況に倒産にあった人たち、私情で辞めた人たち。誰だってわかっている。ここ最近、テレビもラジオもつけることはなくなった。入ってくる視覚聴覚からの情報がなくなれば多少は不安もやすらぐ。そうしているなかで考えてもわからない。これから、どうすればいいのかが。忘れてしまった。いままでどんな気持ちで仕事をしてきたのかを。少なくとも希望や向上心はあった。それがいまでは微塵もみあたらなくなった。それは、この先、どうなるか。なんとなくわかってしまったからだろう。いままでは、わからないからこそがんばってこれた。それが、わかってしまった。底がみえたとでも言ってもいい。私は私にあきらめがついた。所詮、私はこの程度しかできない人間であることを理解し受け入れることが自然とできていた。それは無意識であり、なによりも現実だった。身に染みてわかった。私は所詮、この程度のこともできない落ちこぼれだということを。自己憐憫。私ってかわいそう。そう、かわいそうなの。だから、なに? どうしろっていうの? そもそも、関係ないでしょ? 心の底ではあなたも私のことを軽視してるんでしょ? くやしいの? 少しでも、くやしいならあなたはまだあきらめてはいないはずよ。


 わかっている。わからない。
 私はまだ、わからない。

act.9: 【space】


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