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act.9: 【space】



 病気になってわかったこと。夕方の街。早くも家路へと向かうサラリーマンが私の横を通り抜けていく。そしてまるでそこに私はいないといわんばかりに通り過ぎていく。漠然とした気持ちでながめながら私は考えてみた。まず、なぜ私はここにいるのか。こことは、改札口をぬけてバス停へとつづく駅なかの端っこだ。答え、なんとなく暇をもてあまして気分転換に散歩をしていて。・・散歩をしていてどうしてここにいるのか。さぁ。わたしにもわからない。もともと田舎生まれの田舎育ちのわたしにとって人混みの中にいることさえ耐えられないと思っていたのに実際には毎日のように満員電車に乗って通勤していたし、休日には渋谷や原宿にも買い物へ出かけたこともあった。上京するまえから感じていた。都会とは排他的な場所なんだろうって。実際は違っていた。排他的以前に他人に無関心な場所だった。それもいまでは慣れてしまい中途半端に関係を保たなければいけない田舎より居心地が良く感じるほどになっていった。成績優秀、良き対人関係が築ける人間だけが集まる場所。そう思っていたのはもう何年前だろう。田舎独特の都会に対するあこがれがあった。よくテレビで旅番組を見かけるが、都会人の俳優が田舎の宿をほめたたえるシーンなどとうの田舎にいた私にとってはなにがたのしくてわざわざこんな辺鄙な土地に来るのか理解できなかった。上京してから半年もしないうちに私はテレビの旅番組が好きになれた。理由はたぶんあの俳優とおなじ。あの俳優が田舎生まれの田舎育ちだからということもある。気持ちはわかる。でも、言葉にはできない。それはなぜか。上京してはじめて理解した。自分が弱いということを。そしてはじめて理解できた。他人の才能、能力との差を。地球にはいったいどれくらい必要とされる人間がいるだろう。誰かがいっていた。3割の人間が必要不可欠であり、残り7割がその他。その他ってなんだよっていう話ではあるが、実際そういうものだ。


 人波をみる行為で自然と気持ちが落ち着くようになったのはそんな昔の誰かがいった言葉をなんとなくわかりあえたからかもしれない。新宿、恵比寿、秋葉原。いろいろな場所に出向に行った。必死になって働いた。病気になった。会社を辞めた。だから、ここにいるのか。自然と納得できた。改札口を見渡せる駅なかの端っこにいるのはそういったことが積み重なった延長線上の私なのだ。誰も知らない、私だけが知る私。私は私が思っている以上に頑張り屋さんだった。そして、私は私が思っている以上に寂しがり屋さんで打たれ弱かった。ただそれだけのことだった。


 グッときた。グググッときた。突然お腹が痛み出し駅前にあるデパートへ駆け込んだ。デパートからでてきたあたりでほっとした。最近、薬の副作用なのかお腹がゆるくなることがある。病気になってわかったこと、たぶんそんなこと。これからどうしよう。どうしようもないという言葉はなしにして図書館へいくことにした。なぜならそれが一番、お金を節約できる時間つぶしになるからだ。私はいったんアパートにプログラミングの教本を取りに行ってあらためて図書館へ向かった。


 求職活動。応募している。内定はまだない。これからどうしようか。どうしようもない。無音の図書館はそんな私の自問自答を空白で塗りつぶしてくれる。考えたってどうしようもない。時間の無駄だ。私はその言葉を聞き入れ教本を開く。ノートに教本の重要な個所をまとめていく。淡々とした作業が私を落ち着かせてくれる。職場でもこういう雰囲気ならば耐えられたのかもねと思う。30分、1時間。頭の中にあふれる不安を上書きする。不安を考えないために教本に書いてあることを考える。2月が終わる。3月になれば晴れて私の求職活動期間は半年を迎えることになる。だが、それがどうしたというのだろう。たかがそれだけの話だ。病気になり辞めて仕事を探している。見つからないからここにいる。それだけの話だ。いままで不安に思っていたこと、これから先、私を苦しめるであろう悩みの種にいちいち感化するほど私も敏感じゃなくなった。どうだっていい、そんなこと。私を苦しめるのは私自身であり、私を解放するのも私自身だということを知ってしまったからだ。病気になってわかったこと。たぶん、そんなこと。

act.10: 【true or false】


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