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夢見草


vol_3.6   宛てのない旅路



   ※


 いつかきっと、この惰性のような日々が終わると信じていた。
 たとえ、終わりがないとわかっていても。

『ねぇ、慎也』
 閉ざされたドアの向こうに私は願った。
 人はいつか変わることができる。
 人はいつか過去を忘れることができる。
 いつか、きっと。変われると信じていた。

『姉弟ってなんなんだろうね、慎也。・・・単に血がつながっていること?』
 私と慎也は何処で道を間違えてしまったのだろうか。
 そして、そのことにいつ気付いたのだろうか。
 後悔して、それでも希望をみつけだそうとする。
 過去を忘れることなんて、できやしないから。受け止めて、生きるしかないのだから。
 漠然としながらもわかっていたはずなのに、変えられなかった。
 もしも、慎也が心を閉ざすことを本人の自由と呼ぶのなら、それはあまりにも皮肉っている。
 自由だから、間違いを招く。自由だからこそ、道に迷う。
 自由に縛られて、自由に奪われる。私は慎也に気付かされた。
 この世界に自由なんてない。


 あるのは、規律。
 あるいは、なにもない。

 どちらでもいい。
 どちらも、存在する。
 そしてそのことを慎也が証明していた。
 私たちは、自由という足掻いようもない規律のなかに取り込まれている。


   ※


 就寝前のベッドに寝そべり、私は濡れた髪に指を絡ませる。
 布団の上に寝転がると白い光が灯ってみえる。
 いつもみる光だ。いつもみえる光。
「慎也、元気にしてるよ。仕事もちゃんとやってる」
 携帯から聞こえてくる美夏の声に私は頷いた。
「そう。元気にしてる? ・・・西崎くんは?」
「あいつは、・・・なんていうか、・・・がんばってるよ」
 がんばってる、か。

「美夏はどうなの?」
「あたし? うーん、がんばってる、っかな?」
「なに、それぇ?」
「がんばってる!!」
「・・・遅いよお」

 私も、美夏も笑う。
 慎也の顔を思い出す。慎也は変わることができたのだろうか。
 惰性であり、なにもなかった日々から変われたのだろうか。


「玲奈は?」
「私? 私は、元気だよ。・・・元気になった」
「そう」
「美夏のおかげで」
「あたしはなにもしてないよ」
 私は美夏を、慎也を、西崎正登を光の先に懐かしく想った。
「美夏」
「・・・ん?」
 灯る蛍光灯の白い光に瞼を閉じて言う。
「ありがとう」


 すべてはきっと、なにも変わってはいない。
 すべてはきっと、なにも変わらない。
 私は私を信じ、慎也は慎也を信じる。
 私は私で、慎也は慎也で、それだけのことに過ぎないのだ。
 きっと、この先もずっと。そして、いつか、立ち止まっていた時間にも意味があるんだ、と思えるようになるまで、私たちは変わらないだろう。そう思える日がいつになるのか今はわからない。もしかしたら、わからないままなのかもしれない。でも、・・・私たちは過去じゃなく、現在を生きている。これだけは、確かなはずだ。




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