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夢見草
vol_4.4 戻れない日々
「あぁ、ちくしょう。どうなってんだよ、まったくさぁ…。なんで就職内定しないんだよ」
行き詰まりは生き詰まりの形相をみせていた。
本格的な就職活動をはじめてすでに三ヶ月は経過していた。
行く企業、ともに書く量の少ない俺の履歴書は大量に生まれ、皆、役割を真っ当することなく何処かへ消えていった。
例えばそれは、リクルートスーツが昔と違って寸法が小さくなったとか、革靴が靴擦れしてどうしようもないことと同じことのように誰かに謀られているようだった。「おまえには、スーツは似合わない」「革靴を履くのに、おまえの足は向いてない」進歩のないことのように、スーツと革靴がそういっているように、俺には思えてしまう。現状を変えることができないでいた。変わりたい。変えられない。
変わりたい。変えられない。
なぜ?
失った時間を取り戻すため。
止まっていたと感じていただけの時間はどうやっても戻ることはない。
俺たちはなにかに騙されていたような気がする。
俺たちはなにかに囚われていたような気がする。
俺たちはただ、なにかから逃げていただけのような気がする。
俺はいったい何処へ行こうとしているのか?
何処へ行き付くのだろうか?
ただ、ひとつだけわかったことがあった。
どうやっても、現実というものからは逃げられない。
つまりは、時間は止まることはないという、たった、それだけ。
池袋西口公園で俺は冬の空に手を組み、今ではリクルートスーツ姿で自分を企業に売り込む始末だ。
パイプ状の椅子に座り込み、噴水を見つめながら、俺は俺を今日も証明しようとしている。
証明しようとする感情、それだけは、生きている限り、途切れることはない。
※
生きるためにはなにが必要か?
そう、問われたとき、俺は自己の証明とこたえた。
生きるために必要なのは、自分という存在自身だと。
生きることに戸惑い、苦しみ、果てることのない問答を繰り返す。
もしも、人間がこのうっとうしいに尽きる感情を全て捨てさることができるのならば、
間違いなく、そのとき、俺という存在は消えてしまう。
だが、今の俺はこう言う。
「こんな証、いらねぇよ」
現実を否定することも、生きる証と知っておきながら。
目覚めた朝、寝床からはなにがみえる?
数年前、俺には寝床から見上げる窓の空が世界の全てだった。
だけど、現在は違っていた。美夏からもらった携帯電話。
黄色をした携帯電話。こんな、たったひとつのもので世界は違ってみえてしまう。
就職活動のアポイントをとって、それで、筆記試験や面接を受けに行く。
そして時には二次試験の通知や、最後に不採用通知のメールなんかもしらせてくる。
理屈ではないこと。「止まった時間にも意味があるはずだ」
なぜか、よこで寝ながら美香からもらった黄色の携帯電話をみていると、ふと考えることがある。
意味なんてない、・・・そんなこと、ある理由がない。
全ての人間がとる、全ての行動は理屈じゃなく、理由もなく、
きっと、それは、必然だったこと。
※
真由美さんの表情をジッと見据える。
「嘘じゃないでしょうね」
再度問う、真由美さん。
「受けますよ、受けりゃあいいんでしょ? 受けてたってやりますよ」
面とむかって言うのは俺であって、同席する慎也は“受ける”とは言わない。
されど、“受けない”とも言ってない。
「慎也も、俺が“受けさせます”」
慎也がなにも言わないことをいいことに勝手に代弁してやった。
「ちょ、ちょっと西崎さん」
夏の終わり頃、いつだったかおぼえていないが、いつかのあの喫茶店に俺は真由美さんを改めて呼び出した。
就職活動帰りのスーツ姿の俺は、そして退屈そうな顔の真由美さんは、戸惑いを隠せない慎也は、
「絶対、受かってみせます!!」
いわゆる、燃えているのは俺ひとりだけだった。
それでもいい、俺はなにかに動かされていた。
いままでの不甲斐ない己への復讐、怒り、過去が変わらないと知っていての暴挙。
「やれることは、この際、全てやってみたいんです」
ポツネンとした表情の真由美さんをよそに、おろおろする慎也をよそに、
あのときの俺はどこかおかしかった。数日後、俺自身が池袋の西口公園で頭を抱えていようとは想像すらせず。