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夢見草
vol_4.6 蜘蛛の糸
人はなぜ、変化しうるのか。
人はそれを成長と呼ぶ。人はそれを堕落と呼ぶ。
変わらないものなどありえない。変わるものは必然だ。
もしも、それを運命というのなら、あなたはどうするだろう。
運命により変わるか。自分から運命を変えるか。
変わらない人などいない。変わってしまうから人なのだ。
あたしと正登をつなげているのは、実は慎也、あなたなのだ。
そして、正登を変化させたのも、あたしではなく、慎也。
「ねぇ、正登。本当に高卒認定試験受けるの?」
冬、明ければ春。気付けばもうあたらしい年が来る。
今年の冬は寒かった。きっと、来年の春はほどよくあたたかくなるだろう。
あたしは、ピンクのアンダーシャツ、白のパーカー、白のボタズボン、そしていつもの茶髪というイケてないヤンキースタイルに身をつつみ、今日も今日とて探偵業にいそしむ日々である。・・・いそしむべき日々なのだが。慎也が全ての発端だったのかもしれない。そもそもの話、このながいようで、なにもなかった年月は。慎也、あなたが全ての発端だった。そしてあたしと正登が出会ったきっかけも、いま、ここに上京してきたという、この状況も。・・・あ、ごめん。つまんなかったか。とにかく、慎也。あたしと正登にとって、きっと、あなたが運命だったのだ。そして、残された選択肢は従うか、あがらうか。慎也、正登。あなたたちは、あがらった。己の意思で。そして、ここにいる。それも、己の意思で。変えることができるのはただ、ひとつ。選ぶことができるのは、ただ、ひとつ。自らの意思で運命という名の変化にあがらうか、あるいは、従うか。それだけの差だった。
どちらかが正しいなんてありえない。
どちらかが間違っているなんてのもありえない。
道は違えど、行き着く先は皆おなじ。
そんなこと、言えたらいいのにな。
「なにしてんだよ、美夏」
なぜか、こんな所でぐーたらしている。いつものことよ、いつものこと。
「正登こそ、なにしてんのよ?」
あたしは気長に答えた。
「なにしてるって、・・・ここ、俺のアパートだし」
「うん」
「俺の部屋だし」
「うん」
あたしは念のようなものをこめて視線を送った。
だから、なぁに?
「酔っ払ってんのか、美夏?」
正登は訝しげにあたしを覗き込む。
さながら糸の切れた操り人形を正登はみているようだった。
冬である。年が更新されようとなる真冬である。
このような凍て付く空の下に、か弱い年端もゆかぬ娘を、しかも飲酒済みをほうり出そうとするのだろうか。
「帰って、寝ろ。まだ正月じゃないぞ」
まったくもってひどい言い草である。
「あんたが散々、腐ってたときに、誰が助けてあげたと思ってるのよ」
完全なる行き詰まりだった。
閉塞感とでもいうような、そんなものだった。
飲まなきゃやってられないときだってある。大人は皆、そういうものだ。
「なんかもう、全てが嫌になっちゃった」
「たったひとつの仕事でミスしてからか?」
違うよ、これはあたしとあんたの個人的な話。
「なによぉ、あんたなんて、ひきこもっていたくせに」
「ああ、はいはい」
「散々言っときながら無職なくせに」
「ああ、はいはい」
「あたしのこと、好きなくせに」
「・・・・・・」
あたしは黙って手を差し伸べる。
部屋には慎也から借りた鍵をもって侵入したあたしと、就職活動で帰ってきた正登しかいない。
差し伸べた手に正登は黙って右手を合わせる。火照ったあたしの手の熱が正登のひんやりとした熱に吸い取られる。
あたしだけが正登の視線をのがさなかった。逸らそうとした。それは、正登だ。
だから、あたしは手を引いた。倒れこむ正登にあたしは問い詰めた。
「逃げないでよ」
なんで、あたしはこんな男を好きになってしまったのか。
酔った勢いとはいえ、なんであたしはこんな馬鹿なことをしているのか。
答えはすぐみつかった。重なる接吻の答え。