第二話
きつねの里
昔、 ある村に 与作と言う 頭の良い若者がいた。村中で ’次の村長は
与作だろう’と 評判だったので、与作もその気になり、 ある日 村長の
所へ 早く自分を 村長にしてくれ、と 頼みに行った。 しかし、村長は 「お
まえはまだ若い。もう少し 待て。」と、首を縦に振らなかった。 それでも
与作は 「やい!村長。おめーは 俺に村長の座を取られるのが いやな
んだろう。えっ?」と、くいさがった。 困った奴だと思いながらも村長は
「わかった。では与作よ、試験を受けてもらう。東の山を4つばかり越え
ると’きつね里’と呼ばれる所がある。そこでは悪賢いきつねが 旅の者
をだましては 喜んどるそうじゃ。そいつに 馬鹿されずに戻れたら 合格
じゃ。」 と、言った。「いいだろう。楽勝じゃねーか、村長の座はいただき
やで〜。」 与作は そう言うと さっそく旅立った。二日目の昼過ぎに よう
やく 四つ目の山を越えた与作は、里の入り口で少し休むことにした。き
つね里の入り口は 峠の中ほどにあったが、人の往来はあまりなかった。
与作が にぎりめしをパクついていると、目の前を一人の男が 里の方へ
歩いて行った。 「薬の行商人か。」与作がつぶやいていると 男が急に
走り出した。 何かと思い 見てみると、女が道端でうずくまっていた。
男は女に近寄り、「どうしなすった?」と たずねると女は 「急にお腹が・・
・ううっ」と、苦しそうに答えた。女はとても美しかった。男は 自分が薬屋
である事を告げ 女に薬を飲ませてやった。 すると女は 気分が良くなっ
たらしく 立ち上がると「ありがとうございました。ぜひお礼をさせて下さ
い。私の家はすぐそこですから。」 男は女の あまりの美しさに女の後を
ふらふらと歩き出した。 一部始終を見ていた与作は 女の影に’尻尾’
があるのを 見逃さなかった。「あの男 馬鹿されよった。しかしうまく化け
たものじゃ。だが俺様は騙されねーぜ。」与作は二人の後を追った。
やがて 小さな小屋に二人は入って行った。与作は 中を覗こうと、指を
なめ 戸のふすまに穴をあけた。与作が覗き込んで見ると、なんと そこ
は家の中ではなく、荒れた草むらだった。 女が お茶や菓子をもてなし
ているが、それは,泥水や葉っぱだった。それを 男が おいしそうに飲み
食いしているので 与作は おかしくて吹き出しそうになった。 その時
与作は誰かに 肩をたたかれた。
「もし、あんたどうしたね。」 木こりらしき じい様が与作に言った。
「し〜〜っ、静かに!今 いいとこなんだ。」 与作は 再び覗こうとしたが
さっき開けた穴が なくなっている。与作は あれっ、と思ったが 急いで
指をなめ また ふすまに穴をあけた。「おい!」じい様が声をかけると、
「うるせーな、あっち行け。」与作は じい様をにらみつけた。「あれ〜?
おかしいな。」覗こうとしたら また 穴がなくなっていた。与作は 指をべろ
べろなめると ふすまに穴を開けたが、穴がだんだん小さくなっていくで
はないか。「こんにゃろ〜」 与作は穴が閉じないように指をなめては 小
さくなっていく穴に差し込んで行った。与作を見ていた さっきのじい様が
ぽつり とつぶやいた。
「あの男、馬のケツに指突っ込んでなにやってんだ?」
おしまい.