遥か東北の山々を拝する所まで登ったのだが、ヒメはおろ
かアカアシの姿すら見ることが出来ず、早々にこの山を退
散することにした。

福島・新潟においては、すでに採集済みのコブヤハズカミキ
リであるが、地元に至っては未だ採集出来ずにいる。なんと
かこの地で採集したいものだと願っているのだが、なかなか
そう簡単には姿を現してくれない。 そもそもが珍品とされて
いたカミキリだけに、採集法が確立して普通種になったとは
言え、その姿は苦労なくして拝する事はできないのであろう。
もっとも、居る所に行けば沢山居ることから、改めて普通種であることも実感させてくれるのだが・・。(^^;;
それは何もカミキリに限ったことではなく、クワガタに置いても言えることなのだ。そう言う意味合いに置い
ては、ヒメオオもコブヤハズも同じライン上に位置している昆虫かも知れない。

言うまでもなく芋な私は、さほどの珍品でもないこの地のコブすら空振りに終わっているのだが・・。
結局、この山では何も手にすることなく下山となったが、山
の幸は豊富で、サルナシやヤマブドウがたわわに実を実ら
せている光景は、なんとも幸せな気持ちにさせてくれる。
とりわけヤマブドウは豊富で、ブドウトラカミキリが居ないかと
凝視したのだが、その姿を見付けることは出来なかった。
来シーズンはもう少し早くこの地を訪れて、ハセガワトラの姿も
追ってみたいものだ。
黒紫に色付いたブドウを一つ採って口にしてみたが、とても
酸味が強く、とても沢山頬張るものではなかった。
私の中でのヤマブドウの位置付けは、子供の頃に見たアニメの影響か”猿酒”の原料なのである。(^^;;
猿酒とは、猿がヤマブドウなどの果物を口に含んで、それを木の洞に溜め、唾液で発酵させて作る発酵
酒のことで、実際に存在するかは知らないが、子供心に大変インパクトを受けたものであった。
南米などの密林に暮らす人々の紹介番組で、村の女性たちが同じ様な事をして酒を作っているのを見た
ことがる。村の長はソレを客人に振舞って、客人がソレを飲み干すと仲間として受け入れてもらえる・・そん
な感じだったと記憶している。

話は反れるが、実はこれによく似た風習が日本にも存在するのだ。それは”現場”と呼ばれるある意味特
殊とも言える環境でのことである。

私も経験したのだが、初めて仲間入りして現場小屋に入ると、普段の生活では口にするなど有得ない状態
の湯呑みが出てくる。それは新人だけが受ける仕打ちではなく、見渡せば誰もがそう言った湯呑みでお茶
を啜っているのである。勇気を振り絞ってそれを何食わぬ顔で飲み干さなくては、仲間として認めてもらえ
ないのであった。もし、『コレ・・、ちょっと汚れてますね・・』なんて言おうものなら、『なにシャレたこと言って
やがる!』くらいなもんで、そのあとの職場的展開は悲惨なものとなるのであった。(^^;;

くれぐれも現場を甘く見てはいけない。(^^;;;;

話の流れをちょっとだけ戻し、再び猿酒。
これまた現場での経験なのだが、お茶の時間に誰となくブドウを持ってくることがある。”頂き物”と言うこと
でお茶の席で振舞われるのだが、明らかにモトの部分がねじ切られている。(^^;; 確かに”イタダキモノ”か
も知れない。(^^;;;; 

それを現場の皆さんは”皮ごと”口に放り込むのだ。中身だけ器用に取り出して、唾液まみれの皮を灰皿に
無造作に捨てるのである。やがて休憩時間は過ぎ、皆さんは現場へと出て行く。
ブドウが持ち込まれるのは、ちょうど盆開けがピークで、またこの時期は大変な猛暑となるのだ。そのため、
締め切られた現場小屋は大変な温度へと上昇するのであった。この温度の上昇がマズイ。(^^;; 先程灰皿
に無造作に捨てられた”唾液まみれの皮”は、この温度の上昇に助けられて、発酵を始めるのだ。
それに発酵を始めるのは何も現場小屋だけではないのだ。信じ難いかも知れないが、意外なところでも発
酵は起こるのであった。それは、”おじさんの口の中”なのである。(^^;; 先程ブドウを食べたおじさん達が現
場へ出ると、体温の上昇とともに口内発酵が起こるのである。その匂いはなんと、樹液のソレとなんら変わら
ないのであった。(^^;;; そのときのおじさんは正に”歩く樹液トラップ”と化すのであった。
一方、現場小屋の方ものっぴきならない状態となっている。ドアを開けた瞬間に”真夏のクワガタケース”の匂
いがモワっといった感じで押し寄せてくるのである。
慣れているとは言え、これはかなり強烈なダメージを受ける。(^^;; これによってハエを含む沢山の昆虫が
現場小屋とおじさんの口を目指すことは言うまでもない。 

そして、そんな”トラップ”に吸い寄せられてしまったムシたちを摘んでいる自分がいるのであった。(^^;;

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