NOVEL4 ディセンベルカレッジ白書 2 |
「アスラン・ザラだ。よろしく」 そう言ってアスランが微笑んだ後の、皆の顔をキラは一生忘れられそうにない。 トールやサイは口をあんぐりと開けて呆然とし、ミリアリアとフレイに至っては顔が茹蛸状態になり言葉を忘れてしまったかのように黙りこくっていた。 キラが取り成して、お互いの名前を紹介し終わったところで、やはりトールが開口一番疑問を口にする。 「アスランって・・・男?」 「そうだけど?」 アスランは訝しげに片眉を上げた。 それもそうだろう。 目の前にいるアスランは、黒いシンプルなシャツの胸元を開けて軽く着崩し、ベージュのチノパンをあわせたラフな格好をしている。 艶やかな宵闇の髪と宝石のような翡翠の眸を持つアスランは、顔こそ中性的ではあるものの、細身の長身で肩幅も広く、その姿が女性に見えることは決してない。 むしろその逆で、かけていたサングラスを額の上にまであげている姿がすごく格好良くて、まるで雑誌のモデルみたいだ。 「妹がいるとか、お姉さんがいるとかは?」 「姉妹?・・・は、いないが、何故だ?」 「・・・」 ガラガラガラ・・・。 キラは、サイとトールの中で何かが崩れていく音が聞こえたような気がした。 「キラは背が伸びて大人っぽくなったな」 そんな彼等の動揺に全く気付いていないアスランは、肩にトリィを乗せて苦笑いするキラに感慨深気にこんなことを言う。 キラとてコーディネイターである。 背も伸びて、体格も幾分男らしくなったキラは自惚れではなく誰が見ても格好良い。 アスランにそう言われて悪い気はしなかったが、彼に言われても微妙だなぁ。と、キラは思う。 「アスラン、身長いくつ?」 「俺?・・・いま、174かな」 キラは170cmだった。 同じくらいだった身長は4cmも差ができ、しかもアスランの一人称が『僕』から『俺』に変わっていた。 「・・・ずるい」 「は?」 しかも、『いま』がついたってことは、まだ伸びている途中ってことだよね。 僕なんてここ1年伸びてないのに・・・。 それに3年前はアスランの一人称もキラと同じく『僕』だったはずだ。 いつの間にか『俺』に変わっていて、なんだかこれも差が出来てしまっているような気がして。 拗ねてしまったキラに、仕方ないなぁ。っと笑うアスランの口調は昔のままだったけれど、その笑顔は3年前よりずっと大人っぽくて・・・まるで別人のように見えた。 「信じられないわよ!下着まで脱がされたのよ!」 アスランを前にして、先ほどまで借りてきた猫のように大人しかったフレイが調子を取り戻し、綺麗な顔を歪ませ頬を紅潮させて怒っている。 キラ達は、ディセンベル市の高層ビル最上階にあるスカイレストランで昼食を取っていた。 言われるままについてきたら、高級レストランの個室に連れてこられてしまい気遅れするキラ達にも、慣れた様子でアスランは大丈夫だから。と、平然と料理の手配まで全て済ませてしまう。 戸惑いを見せるキラ達の中で、こういう店を利用することの多いフレイが一番早く順応した。 フレイが怒っているのは、数刻前に行われた入国審査についてだった。 シャトルが到着し、すぐにプラントに入れるとばかり思っていたキラ達を待っていたのは、執拗とも言えるボディチェックと、あらゆる個人データの再確認、おまけに細部に至るまでの健康診断。 しかし、キラはみんなより審査が軽かった気がする。ただ、それでも精神的に酷く疲れたけれど。 フレイの怒りを、アスランはやんわりと微笑んで黙って聞いている。 だが実際は、軽く聞き流していた。 「まぁ、でも。早めに出てきてよかったな」 サイの宥める声に、トールも全くだ。と同意する。 入国するのに2時間近くかかってしまったからだ。 少し街を見学できるように。と、だいぶ早い時間にオーブを出発したにもかかわらず、審査が終わって入国できたときにはお昼になっていた。 流石にここまで遅くなると、アスランとて帰ってしまったのではないかと、キラが本気で焦ったくらいだ。 「だけど、オーブだってこんなに厳しくないよね。プラントっていつもこうなの?」 「いや、今日は・・・日が悪かったかな」 ミリアリアが溜息混じりの質問に、アスランが応える。 「どういうこと?」 「キラ達のシャトルが到着する10分くらい前に、隣のドックでブルーコスモスによる無差別爆弾テロがあったんだ。それで審査が厳しくなったんだと思う」 ナチュラルは特にね。 苦笑するアスランに、トール達は黙り込んでしまった。 キラ以外の4人はナチュラルだったから。 「アスランは大丈夫だったの?」 隣のドックって・・そんな近いところで爆発があったなんて。 「うん。見てのとおり」 キラの心配そうな顔に、怪我もないよ。っと、アスランは笑う。 「俺達、ブルーコスモスじゃないっつーの!」 「ほんと、失礼しちゃうわ」 憤然とするトールとミリアリア。 こういうところも息はピッタリだ。 「仕方ないさ」 「え?」 しかし、突然発せられた抑揚の無い冷たい声に、キラは驚いてアスランを見た。 「お前はブルーコスモスか?と聞かれて、はいそうです。と認める馬鹿はいないだろう?」 彼は無表情だった。 アスランの脳裏には先ほどの惨状が浮かんでいたため、淡々と述べる。 「だからナチュラルである以上、警戒はされる。プラントには、ナチュラルに対する負の感情を持っている者も多いんだ」 常に疑われるのは当然のこと。 過去に、そして今でもそれだけのことをナチュラルはコーディネイターに行ってきたのだから。 「先の大戦の名残もあるし、不用意にそれを匂わす発言はやめた方がいい」 血のバレンタインから始まったザフトと連合軍との戦争が終わって、まだ日は浅い。 戦死した者の遺族や、負傷した兵士の悲しみ。そしてその心の傷も癒えていない今は、微妙な時期でもあるのだ。 「これが単なる小旅行なら俺もこんなことは言わないけど、君達はこれから3年間をプラントで過ごすんだろ?だから、それだけは常に頭に置いて行動して欲しい」 キラの友達だから、あえてアスランは忠告してくれたのかもしれない。 だけど表情の無い彼の態度から、サイは、どうもそれだけでは無いような気がした。 「アスラン。君は・・ナチュラルが嫌いなのかい?」 「・・・」 妙な沈黙が流れる。 キラとアスランは二人ともコーディネイターだったから、お互いそんな話をしたことがなかった。 キラにとっては、例えナチュラルであったとしても、トール達は大切な友人である。 けれどアスランにとってはどうなのだろう? 「・・・俺もコーディネイターだからね」 しばらくしてそう肯定したアスランに、キラは驚愕した。 キラの両親はナチュラルで、そんな彼等ともアスランは親しく接していたのに。 嫌いだなんてそんなこと・・・。 ただ、サイ達はそんなアスランを神妙に見ていた。 「ナチュラル全てが嫌いなわけじゃない。君達のことはまだよく知らないし、君達だって俺のことは知らないだろう?」 沈んでしまった場の雰囲気を和ませるかのように、アスランは穏やかに続ける。 「好きか嫌いかは、今決めるべきものじゃないように思う・・・けれど、キラと友達だからというだけで、無条件に君達を好きにはなれない」 友人になれるかなれないかは、君達次第だと。 キラだったら、発言するまでにかなり勇気のいりそうな内容を、アスランは平然と言い切った。 アスランってこんな人だったっけ・・・。 昔のアスランであったら、もう少し丁寧な言い回しで、相手が傷付くような発言はしなかったと思う。 何かひっかかる。 「でも、サイや、トール達だって、みんないい奴なんだよ!」 友人を擁護するキラに、アスランは分かってる。と微笑んで見せる。 「キラの友達だから、信用はするけど。ただ、一般的にそうなのは否定できない。キラだってオーブでは、それなりに嫌な思いをしたこともあっただろう?それと同じさ」 「そうだけど・・」 諭すように綴られるアスランの言葉は、的を得ていた。 サイ達もそれには思い当たるふしがある。 コーディネイターというだけで、オーブでキラが露骨に嫌悪を示されることが度々あったのは事実だからだ。 「特に、ここはオーブのような国ではないからね。用心して欲しいんだ」 ナチュラルだから。ただそれだけで危険に晒されることが無いとは言えない。 「外出するとき、一人は避けた方がいい。出来れば誰かコーディネイターを連れて行った方がいいよ」 もし、IDを提出するような場面に遭遇した時に、それがコーディネイターであるか、そうでないかによって対応も大きく変わるからだ。 「でも私達、キラ以外にコーディネイターの知り合いなんていないし」 「俺を呼んでも構わないから。携帯のナンバーはキラから聞いておいて。それから、俺の知り合いでよければそのうち何人か紹介する。ちょっと個性的な奴等ばかりだけど、みんな腕は確かだから」 不安気なミリアリアに、アスランはそう言って苦笑する。 腕は確かってなんだろう?っと不思議に思ったが、それでも大分勇気付けられて、ミリアリアはありがとう。と微笑んだ。 厳しい内容の話だったけれど、浮ついていたトール達には考えを改める良い機会になったように思える。 そんな話をしているうちに、テーブルの上には最後のデザートが並べられた。 上品な器の上にクリーム・ド・ブリュレが置かれており、その横には生クリームでデコレーションされた杏とストロベリーのシャーベットが添えられている。 このデザートがとにかく美味しくて、甘いものが大好きなキラが、幸せを噛み締めながらシャーベットを頬張っていると、隣のアスランがデザートには全く手をつけずにコーヒーを飲んでいるのに気付いた。 「アスラン、食べないの?美味しいよ?」 「・・・甘い物は苦手なんだ」 首を傾げて問いかけるキラに、見てるだけで一杯一杯というようにゲンナリしながら、アスランは皿をキラへと押しやった。 あげる。ということだろう。 「昔は一緒にケーキだって食べたじゃないか」 「その後に、駄目になったんだよ・・」 よく見れば、アスランはコーヒーにも砂糖とミルクを入れていなかった。 ちなみにキラにはどちらも大量に注がれている。もはやカフェオレ状態だ。これも昔は同じだったのに。 味覚も変わっちゃったのかな? しかし、キラは嬉しそうに二皿目にとりかかった。 「もしかしてアスラン、こういう話題になると思って個室にしたの?」 その様子を呆れたように眺めていたアスランに、キラはふと思いあたって聞いてみた。 すると彼は、やっぱりキラは優秀なんだな。っと笑った。 キラ達は、ディセンベルカレッジの近くにあるオーブカレッジ専用の寮に入ることになっている。 しかし、午後3時までに寮に入ればいいことになっていたため、少しだけアスランにショッピングモールを案内してもらうことになった。 明るい日差しが差し込んだガラス張りの通路には、様々なショップが並んでいて、ミリアリアやフレイを楽しませている。 通路のところどころ設置された大きなモニターでは、少女が綺麗な声で歌っていた。 ショッピングモールに到着してエレカを降りたときに、アスランは再びサングラスをかけてしまった。 そういえば、レストランへと移動する間も、サングラスをしていたような気がする。 「アスラン、どうしてサングラスかけてるの?」 あまりキラはブランドに詳しくは無いが、確かものすごく高かったと記憶しているブランドのロゴが付いているお洒落なサングラスは、とてもよくアスランに似合ってはいたのだけれど、綺麗な翡翠の眸が隠されてしまうのはとても残念に思えた。 ミリアリアとフレイもそう思っていたらしく、うんうんと頷いていた。 「ああ・・ちょっとコレが無いと、目立つんだよね。私服だし」 「はぁ?」 アスランはサラリとそんなことを言うが、キラには訳が分からなかった。 サングラスなんてあってもなくても、どっちにしろ目立っているとキラは思う。 現に周囲の人々は、通り過ぎてもチラチラとこちらを振りかえってまで見ている。 キラとて普段こういった視線が全く無いわけでもないが、これほどあらかさまに受けたことはない。 だからこの視線は自分ではなく、大部分がアスランに向けられたものなのだろう。 親友の贔屓目ではなく、十人に聞けば十人とも同じ答えが返ってくるであろう程に、アスランは本当に格好良いのだ。 「アスランって、芸能人なの?」 フレイの直球に、まさか自分の性格から一番縁の無さそうな存在を言われるとは思わなかったアスランは絶句する。 「いや・・そうじゃない」 俺じゃなくて・・とか、理由はいろいろあるんだが・・などと、歯切れの悪いアスランに、キラ達はますます不思議そうな顔をした。 「一番の原因は、やっぱりアレかな?」 そう言って諦めたようにアスランが指差した先にいるのは、ショッピングモール内に設置されたモニター。 そこに映っているのは、綺麗な声で歌う、コーディネイターでも珍しいピンクの髪を持つとても可愛い少女だった。 「プラントで一番人気のあるアイドルなんだけど」 知ってるかな? そう聞かれても、少女に見覚えは無い。 プラントのニュースなどはキラもハッキングをして見ることはあったけれど、歌番組などは全く興味が無かったから。 揃って首を振るキラ達に、アスランはそうだよな。っと苦笑する。 「あの子がなに?」 「彼女はラクス・クラインといって、俺の婚約者なんだ」 ・・・婚約、者? 「「「「「ええ〜!!」」」」」 大声を上げるキラ達は、一気に注目を浴びてしまい、それぞれ慌てて口を押さえた。 「こ・・婚約者って、あの婚約?」 男と女が結婚の約束をする・・あの婚約のこと? キラは混乱しながらもアスランに詰め寄る。 「他にどの婚約があるんだ?」 呆れたように言うアスランに、キラはそうじゃなくて!っと、彼の両腕を掴み更に詰め寄った。 「だって、アスラン。まだ17でしょう?早すぎない?!」 トール達も呆然としている。 しかし、当の本人、つまりアスランといえば、そうかな?などと首を捻っている。 「それともアスラン、彼女と愛し合ってたりするの?」 本当にお互いが好きあっていて、お互いが望んでのであれば、確かに不思議なことではないような気もするが。 「う〜ん。どうだろう。大切にしようとは思ってるけど。父上が決めたことだし」 なにそれー。 掴んだ腕はそのままに、がっくりとキラは頭を落とした。 「でもキラ、これは婚姻統制に沿った正式なものなんだよ」 「婚姻統制って?」 ゆっくり顔を上げたキラに、アスランが説明する。 コーディネイターは元々ナチュラルから生まれるが、最初に遺伝子操作されて生まれたコーディネイターを第一世代と呼び、その子供は第二世代となる。 キラの両親はナチュラルであるがゆえに第一世代だが、アスランの両親は共に第一世代のコーディネイターであるため、アスラン自身は第二世代となるのだ。 第三世代の出生率が落ち込んでいるプラントでは、二世代目のコーディネイターに婚姻統制をひいている。 それは子供が生まれる可能性が高い男女。すまり対の遺伝子を持つ者同士を結婚させ、出生率を向上させるというものである。 「キラは第一世代だから関係ないよ」 「うん。良かった・・・じゃなくって!!それって強制な訳?」 「いや、強制では無いな」 「じゃあ、どうして婚約なんてしたのさ!」 キラは結婚するなら、自分の好きな人と結婚したいという、ある種の理想を常に持っているタイプの人間だった。 だからどうしてアスランがそんな愛の無い婚約をしてしまったのかが理解できない。 しかし、アスランは物事に深く興味を持たず執着心も特に無い情緒に欠けた人間なので、結婚に対して夢も希望も持っていない。 なぜキラがたかが婚約に、ここまで騒ぐのかアスランにもさっぱり理解できなかった。 「キラ、俺の父上の職業は?」 「えー?国防委員長でしょ!知ってるよ、そのくらい」 「彼女の父親は元最高評議会議長シーゲル・クライン氏なんだ」 「・・・だから何?」 「まぁ、政治上の利害関係の一致というかね」 穏健派と、強硬派が結び付くことによっての、未来への希望となるように。 調べてみたら、たまたま都合良く対の遺伝子だったために、早々と決められてしまったもの。 「政略結婚ってこと?」 「そういうこと」 「えー!?」 納得できなーい!と言い続けるキラ。 「そもそも、いつしたのさ?そんなの聞いてないよ、僕」 ぷーっと膨れて文句を言うキラに、言ってないし。っと、心の中でアスランは思う。 そして言ったらまた怒るんだろうなーとは思いつつも、言わなければそれはそれでまた拗ねるだろうから仕方なくアスランは白状する。 「14の時だよ」 「14!?」 もう3年も経つじゃないか・・。 「なんで3年間も黙ってたのさ!」 「いや、いろいろ忙しくて」 「忙しいくて3年間?」 ありえないよね。 じとーっと睨んで見ても、アスランには全く効いていないようで。 「あー、うん。それでタイミングを逃したら言う機会がなかなか無くて」 誤魔化すでもなく、素でそんなことを言い何でもないことのように笑うアスランに、キラは脱力する。 そうだった。アスランって、こういう人なんだよね。 几帳面で真面目なくせに、自分のことには無頓着で深く考えることがない。 それにしても、なんでこんな話になったんだろう、っとキラは考える。 ああ、そうだ。サングラスだ。 「でも・・その彼女の婚約者だとどうして目立つの?」 「ラクスが、パーティが好きでね。俺はそういうの苦手なんだけど・・・婚約者として同伴しなければならないことが多くて。そうなると必然的にメディアにも映ってしまうんだ」 彼女と付き合う上で、それだけが実際勘弁して欲しいところなんだけどね。 アスランは溜息を付いた。 確かに、あの少女とアスランが並んだらさぞかし絵になり、その光景はしばらく忘れることは出来無そうにキラには思える。 しかもアスランの宵闇の髪は、ラクス同様コーディネイターでも珍しい彩であるために、必要以上に目立つのだ。 サングラスの理由は分かった。でも、私服がどうとかも言ってたような? 「もー、トールったら行くわよ!」 ムッとした声に振り向くと、ラクスの映っている映像を見つめていたトールの腕を、ミリアリアが引っ張っていた。 フレイも呆れたような、サイは気持ちは分からないでも無いと哀れむような視線をトールに向けている。 キラにはトールの眸の中にいくつものハートが見えるような気がした。 そして隣のアスランといえば、特に何も思っていないようで。 君の婚約。やっぱり間違ってるよ・・・。 そう思い、キラも大きな溜息をついた。 そしてそのまま私服の件はすっかり記憶から消えてしまった。 時間はあっという間に過ぎて、キラ達は寮へエレカを走らせた。 エレカに乗ってサングラスを外したアスランの眸はやっぱり綺麗だ。隠すなんて勿体無い。 じっと見つめていると、それに気付いたアスランがこちらを向いた。 「キラ、今日は夕方出かけるのか?」 「え?どうして?」 「いや、今日は5時から2時間くらい雨の日だから、出かけるなら傘を持って行った方がいい」 「雨の・・・日?」 雨の日って何だろう。しかも時間指定? 不思議そうに首を傾げるキラに、アスランが説明する。 プラントでは地球と同じように四季があり、全ての気候、そして天気を気象管理局が管理・運営している。 だからプラントでは天気予報ではなく、天気予定なのだという。 クリスマスイブやクリスマスには必ず雪が降るんだ。と教えてもらったフレイとミリアリアは、素敵!と喜んでいたが、キラやサイ、そしてトールは軽いカルチャーショックを受けていたようだ。 寮の前まで到着した時、トルルル・・・と小さな電子音が鳴った。 「ちょっとゴメン」 一言キラ達に断って、アスランが携帯に出る。 彼らしくない事務的な口調で始まったその会話をしばらく黙って聞いていたけれど、途中で長くなりそうだからっと、手振りで別れの挨拶を済ませたアスランのエレカが、見えなくなるまで見送ってから、キラ達はさっそく中へと入る。 オーブカレッジの寮とはいっても、エントランスは一つで、中に入るとホテルのように個室に別れていた。 キラ達の部屋は8階だった。 しかも一人部屋で完璧なプライベートルームであり、それぞれに簡易のキッチン・バス・トイレなども完備されている。 食事は自炊しても構わないが、時間内であれば食堂で自由に取ることが出来るらしい。 すでに運び込まれている荷物を解いて整理しているうちに、いつの間にか5時を回ったらしく、外では雨が降っていた。 手を止めて窓を開けると、ディセンベル市の町並みが広がっている。 プラントの中枢だとアスランが言っていただけあって、ここは都会的な雰囲気の街だ。 夜になれば明かりが灯り、夜景がさぞかし綺麗なことだろう。 降りしきるホンモノのような雨を見つめながら、キラは本当にプラントに来たのだと思った。 4年ぶりに会ったアスランは、13歳の頃とまるで別人のようで。 でも恐ろしく鈍感なところとか、もしかしたら根本的なものは変わっていないのかもしれない。 ナチュラルに対する意識や、味覚が変わっていたりとか・・・おまけに婚約者がいるなんて。 今日は一日アスランに驚かされることばかりだったような気がする。 なんだか昔のままのアスランを探すことの方が難しいという事実が、まるでアスランが遠くにでも行ってしまったかのようで、キラは寂しかった。 ずっと会いたいと思っていたのは、キラだけなのだろうか? 友人を紹介すると言っていたアスラン。 この4年の間に、キラにもアスランの知らない友人が沢山できたけれど、それはアスランも同じで、それを寂しいと思うのは自分だけなのか。 なんとなくこれはキラの勘のようなものだけれど、アスランはまだ何か隠してるような気がするのだ。 隠してるというより・・・聞いていない。話してもらっていないようなことがあるような気がする。 アスラン。君と僕の距離は、どれくらい離れてしまったのかな? キラはもう一度街並を見て、それから静かに窓を閉めた。 |