思った通りと言うべきか。
体育館も大きかった。しばし呆然としていると、
「まぁ、体育の時間ネットで区切って数種類の授業が出来るくらいだからね」
などという叔父の言葉が聞こえた。
……とりあえず、普通の学校とは違うんだなと位置づけておくことにした。ある意味現実逃避な気がしないでもない。
「あ、あそこで整理券配ってるよー!」
体育館の入り口と思われる場所で、長机が置かれなにやら券を配っている姿を発見する。
「もらいにいかないと!」
乗り気の初良がいそいそと走り出しそうな勢いで受け付けめがけて歩いていく。……叔父が引き摺られているよ。
「ほら、斎希さんもっ」
「はい」
「こちらが整理券になります。表示時刻をオーバーされますと多少入場時刻が遅くなりますのでご注意下さい。三分くらい前にいらっしゃるとよろしいと思います」
「わかりました」
もらった整理券を見るとあと一時間くらいの余裕がある。
「次、どこ行くの?」
「そうだね、早めにお昼にしておくかい?」
「お昼かぁ。何があるかなー」
いそいそと正門でもらったパンフレットを初良が引っ張り出そうとする。と。
わぁっ、と。拍手と鐘が鳴り響いた。
「え、なになに〜?」
「――何?」
「おや」
音はおそらく、体育館の反対側だと思うのだけれど、と見えない向こうに気を向ける。
するとなにやらしたり顔の叔父がふむふむと、
「へぇ、強者がいたね」
とかなんとか呟く。
「強者?」
「うん、今のはミラーハウスを5分以内でクリアしたってことだよ、きっと」
「5分? なになに、制限時間なんてあるの?」
うわぁ、自信ないよ、とかなんとか横で初良がおたおたする。
「一応ね。5分以内だと景品がもらえることになっているから。――かなり難度高いし、スペースも広いからなかなかクリアできる人はいないって話」
「へぇー」
じゃあとりあえず頑張ろう、あわよくば景品を、となにやら初良が前向きに。
「……寛さんは?」
「え? 何、斎希君」
「クリアしたことあるの?」
聞けば、どこか複雑な表情になって、
「10分を切ったことなら何度かあるんだけどね……」
曖昧に答えた。
クリアは出来なかったらしい。
「じゃあ、今度こそ頑張らないとね」
「は、ははははは……」
どこか叔父は虚ろな顔になった。
何度挑戦したことがあるのか聞いてみたい気持ちになる反応である。
パンフレットを見て、食事処のある場所へ行こうと歩き出した時。
「すごいねー、幸哉」
すごいすごいと何度も同じ言葉を連呼する声が聞こえてきた。
見やれば、濃紺のブレザー姿の少年二人が歩いてくる。
片方は大きなぬいぐるみを持ってどこか困ったような顔になっている。どうやら彼の方がクリアしたようだ。
「そんなことないよ。ただ思った通りの方向に歩いたら、ゴールに行けただけ。マグレだよ。去年なんか酷かったもの。知ってるでしょ?」
「知ってるけどさー。5分以内、それもミス一回も無しって凄すぎだってば。制作者側の先輩たちすっごくびっくりしてたじゃん」
「うー、だから、マグレなんだよー。もうやめてよ、本当に」
優しそうな顔をへにょっとさせて彼が言う。
「やだね。学校始まったらどうせこのネタしばらく続くぞ」
「……」
そんな会話を盗み聞いている内に足が遅くなっていたらしい。
「斎希さん〜、どうしたの? はやく行こうよ」
すっかり距離が開いていたことに驚きながら、僕は二人の元へと急いだ。