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三行書評 第18回

2001.10.2

 五つ星が満点。

松下竜一
『ルイズ 父に貰いし名は』
(講談社文庫ISBN4-06-183444-4)
お薦め度 ★★★★
あらまし 1923年9月16日、無政府主義者大杉栄と伊藤野枝と甥にあたる橘宗一が関東大震災後の混乱の中で麹町憲兵分隊に拉致され、陸軍憲兵大尉甘粕正彦によって殺害された。そのときまだ1歳3ヵ月だった四女ルイズ(後に留意子さらにルイ)の半生記。第4回講談社ノンフィクション賞受賞作。
コメント 親(大杉栄と伊藤野枝)と違って劇的なことがあるわけではないので多少退屈といえば退屈であるが、たまたま親が有名人――それも“非国民”と呼ばれた人物――だった女性の半生記として読んでみればなかなかに興味深いものである。
松下竜一
『豆腐屋の四季』
(河出書房新社ISBN4-309-62051-5/松下竜一その仕事1)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 題名どおり、著者が豆腐屋だった頃の短歌を中心にした随筆集。最初は自費出版された。老父を詠み、姉弟を詠み、妻を詠んでいる。結婚式の引き出物だった『相聞』も収録。
コメント 朝日歌壇の常連だとは知らなかった。こういうのを読むと「普通の人生」なんて無いのかも知れないと思う。しんみり泣いてみたい方に強力にお薦め。
山口瞳・笹沢佐保・長部日出雄・田中小実昌・佐藤愛子
『誰にも青春があった』
(文藝春秋ISBN4-16-342980-8)
お薦め度 ★★
あらまし 『オール讀物』にリレー連載された随筆をまとめたもの。
コメント 山口さんを除く4人の文章を読んだことがなかったので、見本といったノリで読んでみた。田中小実昌さんの文章が面白かったので、後日本欄に登場するかもしれない。
小泉武夫
『小泉武夫の世にも不思議な食の世界』
(日本経済新聞社ISBN4-532-16392-7)
あらまし 味覚人飛行物体を自認する著者(東京農大教授)が292点の写真を使って紹介する食の世界。沖縄・かにえび・羊・豚・干物・アラまぐろすっぽん・塩・鮟鱇あんこう河豚ふぐかつおなどなど。
コメント マグロの船上処理というのが面白かったので写真説明文を引いておく(11枚分)。「掛かったマグロを船上に引き揚げる/尾を切り落とす/脳刺殺/ピアノ線を/脊髄に挿入/胸鰭むなびれに包丁を入れ/血管を切断/甲板は血の海/体に海水を注入/口や/尾から海水が出てくる」。こうしないと身が血生臭くなってしまうそうな。

 僕の父は正肉しか食べない。たまにレバーを食べることがあるが、養生のためであって嗜好ではない。酒を飲まないせいで、カシラとかカワとかモツとかホルモンとかナンコツとかを口にしたことがないのだろう。あのおいしさを考えると不幸なことである。