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三行書評 第28回

2001.12.10

 五つ星が満点。

辺見庸
『赤い橋の下のぬるい水』
(文藝春秋ISBN4-16-313330-5)
お薦め度 ★★★
あらまし 表題作他二編の短編集。今村昌平監督の同名映画の原作である。
コメント この映画を見たいのだが、県内では上映予定がない。映画館に電話してみようかな。辺見さんであるから純文学である。娯楽小説ではないので★★★は満点と言ってもいいかもしれない(まる三は読書好きだが文学好きではないのだ)。
幸田露伴
『五重塔』
(ワイド版岩波文庫ISBN4-00-007199-8)
お薦め度 ★★★★
あらまし 腕は確かだが小才が効かないがゆえにのっそりと渾名されている大工の十兵衛。谷中感応寺五重塔建立を聞いて矢も盾もたまらなくなる。「きさま作れ今すぐつくれと怖ろしい人に吩咐いいつけられ」たというのだ。
コメント ちょっとした刃傷沙汰が起こるには起こるが、根っからの悪人は出てこない点で読後爽快。非常に短い小品ではあるが、旧仮名遣いなのでちょっと難渋した。妙に感心したのが振り仮名。「軽躁行為」に「おっちょこちょい」、「莞爾」に「にっこり」または「にこにこ」など、漢語に大和言葉の振り仮名が振ってある。明治時代の新聞には、右側に大和言葉で意味、左側に読みが書いてあったという故事を思い出した(左右逆だったかもしれない)。
梅原淳
『鉄道・車両の謎と不思議』
(東京堂出版ISBN4-490-20444-2)
お薦め度 ★★★★★(テッチャンには^_^;)
あらまし 電車・鉄道会社・線路・駅・車両・時刻表などを網羅した“テッチャン”には嬉しい本。
コメント 青函トンネル53.85kmのうち52.57kmが一本のロングレールだとは知らなかった。
ウェンディー=ノースカット
『ダーウィン賞!』
(橋本恵/講談社ISBN4-06-210678-7)
お薦め度 ★★★★★
あらまし ダーウィン賞とは、「子供でも無茶だと分る破滅的な計画を立てて、しかもばかげているとはみじんも思わずに、堂々と自信を持って実行し、あげくに死んでしまった人たち」に贈られる賞だ。なんとなれば、「人類から自分という大ばか者を一人減らし、人間という種の存続に貢献した立役者」であるからだ。
コメント 裏が取れない事件は「都市伝説」という分類で載せている点や、出典が明示されている点はいかにも外国のものらしい。日本でこういうことをやると面白さだけを追求するあまり、玉石混交はまだしも虚実ごちゃまぜになってしまう。ありきたりの言葉だが、“事実は小説よりも奇なり”。
ミッキー=フランシス・ピーター=ウォルシュ
『フーリガン最悪の自叙伝』
(小林章夫/飛鳥新社ISBN4-87031-474-6)
お薦め度 ★★★
あらまし マンチェスター=シティを応援(?)する元(サッカー場への入場を10年間禁ずる判決を受けている)フーリガンの自叙伝。
コメント 個人的な記憶が頼りだから、生々しいものの局所的断片的である点が残念。「老婆や子供連れは襲わない」という言葉は嘘ではないだろうが、負け試合からの帰りに寄ったガソリンスタンドで、試合結果を訊いた店員をいきなり殴りつけたりしている。なかにはスタジアムに4年通ってもオフサイドを知らなかったヤツなんてのもいる。クワバラクワバラ。
ビル=ビュフォード
『フーリガン戦記』
(北代美和子/白水社ISBN4-560-04036-2)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 「訳者あとがき」によると、著者は1954年産まれのアメリカ人で、ロンドンで文芸雑誌の編集長をしている。偶然「フーリガン列車」を見かけたことから興味を持ち、同行するようになったそうだ。1982年から1990年まで取材を敢行。
コメント W杯試合会場の警備責任者必読の書。「二百人の人間が、ホームへとおりるエスカレーター上の乱闘に巻き込まれた。(中略)だれかが停止ボタンを押したので、全員が転げ落ちた。数人が意識を失い、数多くの骨が折れた(中略)みんなが立ち上がったあと、一番下に死んだ男がいた」(209頁)。クワバラクワバラ。忙しい方は、1990年W杯イタリア大会を取り上げた最終章「サルデーニャ」だけでも是非。