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長い名前四題

2004.12.2

 10月25日に放送された『英語でしゃべらナイト』(NHK総合/月23:15〜23:45)の再放送が11月30日深夜に放送された。

 この日のメインゲストはジャズピアニスト国府弘子さん。老ピアニスト・バリー=ハリスに向かって「御自宅に帰って眠る時間はあるんですか?」と訊こうとして“Do you have time to come home to sleep?”と訊いたとか、「星座は何?」と訊かれて乙女座の国府さんは“I'm a virgin.”と答えたとか、「今朝は船酔いで大変だったけれども今はサイコー」と言おうとして“I've got morning sickness today.”と言ったら観客がスタンディングオベーションをしたとか、愉快な失敗談を披露した上で“In speaking English, also playing jazz, even if you made hundred mistakes, you won't die. I'm still alive”と締めた。

なぜ失敗談なのかは以下(ドラッグすれば読めます)。

#1誘惑
“〜to come home〜”だと、「私のウチに来て寝る時間ある?」という意味になってしまう。ちなみに、ハリスさんは“I like you, Hiroko. But I can't”と言ったそうです。正解は“〜to go home〜”。
#2乙女座の女
乙女座は“Virgo”ですね。
#3予期せぬ祝福
前掲の英文を訳すと「今日、私はつわり(=morning sickness)だった」となってしまう。正解は“I've got seasickness this morning”(たぶん)。
メッセージ
最後のメッセージは「英語もジャズも間違いで死ぬことはない。あたしだって生きている!」と訳されていました。

 ここからやっと本題^_^;。

 番組の中で、アメリカの幼稚園でポピュラーな長い人名の話が出てきた。パックン(パトリック=ハーラン)によると――

Tikki Tikki Tembo No Sarimbo Hari Kari Bushkie Perry Pem Do Hai Kai Pom Pom Nikki No Meeno Dom Barako

 という名前だそうだ(聞いたままをカタカナにすると「ティキ ティキ テンボ ノッ サリンボ ハリ カリ ブシュケ ペリ ペン ド ハイ カイ ポン ポン ニキ ノ ミンノ ドン バラコ」って感じ)。お話としては、ティキティキテンボ君が井戸に落ちてしまってそれを助けようとするのだけれど名前が長すぎるので行ってみたら手遅れだったというブラックな話だそうだ。

 日本の長い名前代表といえば――

寿限無じゅげむ寿限無五劫ごこうの擦り切れ海砂利水魚かいじゃりすいぎょ水行末雲来末風来末すいぎょうまつうんらいまつふうらいまつ食う寝るところに住む所藪ら柑子のぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助

 であるが、次はこの由来の話。
初めてパパになった長屋の熊さんが和尚さんのところに名付け親になってもらいに行く。「目出度くて長生きしそうな名前」を所望された和尚さんは、鶴吉とか亀吉なんていう無難なところを提案したのだけれどことごとく断られ、だんだんとキレていった結果、こんなことを言い出す。

提案 推薦の弁
寿限無 寿限りなし。こんな目出度いことはない。
3000年に1回天女が降りてきて、地上にある大きな岩を羽衣で一撫でする。「水滴石をも穿つ」の論理で岩が磨り減ってなくなるまでの時間が“劫”。長い時間だな。
海砂利
水魚
海の砂利も水中の魚も、採っても採っても採り尽すということがない。
水行末
雲来末
風来末
水の行く末、雲が来る末、風の来る末。どれも果てしがない。
食う寝るところ
住むところ
どれが欠けても困るけれども、逆に言えばこれが揃っていればとりあえず困らない。
藪柑子 藪柑子という木は、春は若葉、夏は花、秋は実をつけたうえに冬には紅葉して人を楽しませてくれる目出度い木だ。
パイポ
シューリンガン
グーリンダイ
ポンポコピー
ポンポコナー
パイポ国のシューリンガン王とグーリンダイ女王のあいだに生まれたポンポコピー王子とポンポコナー王女。いずれもたいへん長生きした。
長久命 長く久しい命。文句のつけようがない。
長助 いろいろ言ったけれども名前にするんならやっぱりこれだろ。

まる三が寿限無を憶えたのは高校生のときでしたが、大学で落研に入ったところ、何かのはずみで1年生全員(6名)で寿限無の合唱になりました。「憶えているのは僕だけじゃない」ということがわかって「エライところに来てしまったなぁ」と酔った頭で考えていたことを思い出しました。

 さらにもうひとつ、世界一長い駅名。

Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch駅(58文字)だそうだ。「スランヴァイアポスグエンゲスゴレッホウィンドォロポススランタセィリオゴーゴーゴッホ」駅と読む(ウェールズ語)。英語に訳すとSt. Mary Church in the hollow of the white hazel near the fierce whirlpool by the red cave of St. Tysilio Church。さらに日本語に訳せば「聖ティシリオ教会の、赤土の洞穴のそばを流れる急流に程近い、白きハシバミの窪地に建つ聖メリー教会」駅だそうだ。出典は『世界乗り物いろいろ事典』(櫻井寛/新潮社)。ハイフンを含まない最も長いドメイン名としても認定されている。

 実在の人物で長い名前を持っていたのが画家ピカソ。

Pablo Diego José Francisco de Paula Juan Nepomuceno María de los Remedios Crispiano de la Santísima Trinidad Ruiz y Picasso

http://www.tamu.edu/mocl/picasso/biog/childh.html によれば――

原語 読み 由来
Pablo パブロ 大聖堂参事会員だった伯父(もしくは叔父)の名前
Diego ディエゴ 父方の祖父の名前
José ホセ 父親の名前
Francisco de Paula フランシスコ 母方の祖父の名前
Juan Nepomuceno フアン
ネポムセーノ
教父(信仰上の父親:Juan Nepomuceno Blasco Barroso)の名前から
María de los Remedios マリア デ ロス
レメディオス
教父の妻(Maria de los Remedios Alarcon Herrera)の名前から
Crispiano クリスピアーノ ピカソの誕生日が聖クリスピヌス(St. Crispin)の祝日だったから
de la Santísima Trinidad デ ラ サンティシマ トリニダー “三位一体”のこと。
Ruiz ルイズ 父親の姓
y 母親の姓の前につける前置詞
Picasso ピカソ 母親の姓

 通称がPablo Ruiz Picasso(それ以外は洗礼名)。スペイン風のルイズよりもイタリア風のピカソが好きだったので母親の姓を多用したそうです。