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三行書評 第178回

2004.12.13

 五つ星が満点。

巌本善治勝部真長かつべ みたけ校注
『海舟座談』
(岩波文庫ISBN4-00-007161-0)
お薦め度 ★★★★
あらまし 勝海舟の晩年――明治28年7月から亡くなる直前の明治32年1月まで――に、海舟が語った幕末明治の回顧談を巌本善治が筆録したもの。海舟の近接者の談話も附録として収録されている。
コメント 巧みに書き写された江戸弁と内容が相俟って威勢のいいこと。岩倉具視も大久保利通も木戸孝允も小僧扱いである。
読売新聞大阪社会部
『警察官ネコババ事件』
(講談社文庫ISBN4-06-185220-5)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 主婦が届け出た拾得金一五万円を警察官が横領したのみならず、主婦にその罪をなすりつけようとした冤罪事件が一九八八年に大阪府堺市で起こった。慰謝料請求訴訟までの経緯について連載をもとに辿った一冊。
読売新聞大阪社会部
『逆転無罪』
(講談社ISBN4-06-204765-9)
お薦め度 ★★★★
あらまし 大阪府貝塚市で起こった強姦殺人事件の犯人として一審で実刑判決を受けた五人の若者が、冤罪を晴らして無罪を勝ち取るまでの10年を追ったドキュメント。
コメント 権力を持った組織が暴走してしまったときの怖さと、危機に陥ったときの家族の絆が印象的。読売新聞大阪社会部といえば黒田清さん(故人)だ。どちらも黒田さんが社会部長を離れてからの事件だけれども、精神は確かに受け継がれていたようだ。
山口瞳・開高健
『やってみなはれ みとくんなはれ』
(新潮文庫ISBN4-10-111134-0)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 元社員でもある直木賞作家と芥川賞作家が綴ったサントリー70年史(あるいは創業者鳥井信治郎の伝記)。初出は1969年に発行された社史『やってみなはれ サントリーの70年I』。
コメント 笑えたり泣けたりの逸話が満載。ちなみに“サントリー”というのは、赤玉ポートワインの赤玉=太陽=サンと、鳥井=トリーを合わせたものだそうです。
山口瞳ほか
『山口瞳の人生作法』
(新潮文庫ISBN4-10-111135-9)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 山口氏が編集に携わっていた『洋酒天国』の後身『サントリークォータリー』の51号(1996年4月)で企画された「山口瞳追悼特集」をもとにまとめられたのが『この人生に乾杯!』(TBSブリタニカ刊)。さらに原稿を追加して再構成したのが本書。
コメント まる三には、訃報を聞いてショックを受けた――「どうしよう」と呆然としてしまった有名人が3人いる。内海好江師匠(’97年10月没61歳)と古今亭志ん朝師匠(’01年10月没63歳)と山口瞳さん(’95年8月没69歳)である。9年経ってやっと受け入れる気になったのかもしれない。『江分利満氏の優雅なサヨナラ』(新潮文庫1996年刊)を読んだときはまだまだダメだったなぁ。