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「飲食業界の現状と将来」
2008年11月12日 神戸流通科学大学 サービス産業学部でのフードビジネス特別講義より
1. 世界史的な産業構造の大転換
2. サービス産業の現状
3. 最近の飲食市場の動向
4. 飲食業の将来性について
5. 飲食業は成熟産業といわれながら大手寡占率が低い理由

6. 飲食業のこれからのトレンド

 

1. 世界史的な産業構造の大転換
 日本の産業において、サービス業全体に中でフードサービス業というのはどのような位 置を占めるのか、現在フードサービスというのは、どのような状況におかれて、将来どのような課題を背負っているのか、ということについて、概括的にお話をしたいと思います。
皆さんもお聞き及びのように、アメリカの金融不安が起こって、サブプライムローン問題に絡んで、リーマンブラザーズという大きな金融会社が破綻しました。その影響は全世界に波及して日本にも影響が及び、かつてない急激な景気の底割れに見舞われております。 このような現状をどのようにとらえたらよいか。私はいま一度日本のおかれている産業(構造)全体からこの不況をとらえ返してみる視点が必要ではないかと思っております。大きく言って、日本の産業は、第一次産業、第二次産業、第三次産業の3つの産業によって構成されています。

第一次産業というのは、ご存じのように、農業、漁業、林業を主体とするもので、対自然(人と自然)の産業です。人間と自然の関係を媒体とした産業のことです。
それから、第二次産業は、製造業(人と物)です。「日本は物づくりの国である」という言葉を皆さんも一度は聞いたことがあると思います。ソニー、トヨタ、日産、ホンダ、パナソニック等、日本で世界的に名の知れた企業は、皆ここから生まれています。
それ以外は、第三次産業と呼ばれています。これがサービス産業(人と人)です。つまり、産業というのは、人間と自然の関係から始まり、人間と物の関係に置き換えられ、さらに高度化して、人と人の関係になっていく。 これが大体、世界史的な産業の発展史と見合っています。皆さんが学校で習った、エジプトやメソポタミアなど人類文明の発祥は、決して最初から工業化された社会ではありません。広大な農村を背景に、古代の帝国というのは生まれてきたのです。それは人間と自然の関係、農業や漁業に代表される産業を基盤にした社会です。

その次は、第二次産業です。18世紀頃、産業革命によってイギリスに起こった製造業によって、人類は飛躍的な富を得るわけです。いわゆる「工業化社会」といわれる時代です。
しかし、日本やアメリカ、ヨーロッパ(特に英、仏、独、伊)などのいわゆる先進国においては製造業が産業全体を牽引する時代は、すでに終わりを告げ、日本においても少なくとも1970年代以降、脱工業化社会とか高度情報化社会といわれるような従来型の製造業が主導する産業構造を脱皮し、新しい段階に入っています。この新しい段階を主導する産業が第三次産業といわれるサービス産業に他なりません。
サミット等に代表される先進国のほとんどは、この第三次産業、サービス産業によって形成されている社会です。例えば、アメリカ、日本、イギリス、フランス、カナダ、イタリアなど、西ヨーロッパの国々と日本とアメリカは、すでにサービス産業が主体の国です。

では、先進国における製造業はどうなったのか。皆さんが見られているように、そのほとんどが発展途上国に、自らの工場が移転してしまいました。その兆しはすでに1970年にはじまり、1989年の東西冷戦の終結に続く、いわゆるバブル経済の崩壊後はその動きは一気に加速されたのです。したがって、地方で今、経済が疲弊して自治体の経済が成り立たなくなって、就職の場がなかなかないのです。端的に言えば、地方から工場がなくなった、ということです。中国や東南アジアなどに、全部移転してしまったんです。
そうすると、そこに勤めていた人が職を失い、税金が入らないから町はしぼんできて、ゴーストタウンになってしまいます。それまでの地方経済は、戦後すぐ日本が工業立国として発展していくにつれ、潤ってきたわけです。ところが1990年代以降になって、ほとんどの工場は発展途上国に移転され、それにつれて地方経済は空洞化し、自らの存在基盤を失いつつあるのです。日本経済の厳しい現状について考えるとき、その背景には日本国内にとどまらず、世界史的ともいえる産業構造の大転換が大きく影を落としているということを忘れてはなりません。
2.サービス産業の現状
今、日本で、第一次産業、第二次産業、第三次産業の比率はどうなっているのでしょうか。 資料1、2を参照ください。三次産業であるサービス産業は、今や日本の基幹産業ともいうべき位置を占めていることがよく分かります。


資料1 日本の産業構造(『日本国勢図会』より)
 
GDPに占める産業規模
就業者数
第1次産業(農業、漁業、林業) 6.5兆円(1.3%)
3,151千人(5.2%)
第2次産業(製造業) 140兆円(27.9%)
15,925千人(26.3%)
第3次産業(サービス産業) 354兆円(70.7%)
41,380千人(68.5%)
合計 500.5兆円(100.0%)
60,456千人(100.0%)

資料2 主なサービス産業
・ 電気、ガス、水道業 ・ 情報通信業 ・ 卸売、流通小売業 ・ 金融、保険業 ・ 不動産業 ・ 飲食業、宿泊業 ・ 医療、福祉 ・ 学習支援業 ・ 複合サービス業(郵便サービス、農林水産業協同組合、事業協同組合など) ・ サービス業(対個人サービス業、対法人サービス業)



日本のGDPは約500兆円あります。そのうち、農業・漁業・林業に代表される第一次産業は6.5兆円、GDP全体の1.3%しか占めないのです。トヨタ自動車1社の年間売上は、10兆円を超えています。日本中のお百姓、漁師さんが、1年間身を粉にして働いて、集約した富がたった1社のトヨタ自動車にも及ばないのです。
他の国はどうでしょう。アメリカは大農業国のように見えますが、先進国は皆等しく、第一次産業の比率は大体5%以下です。
就業者数も400万人を下回っており、しかも老齢化が進んで後継者不足に悩まされています。日本には、15歳から60歳までの就業人口が、約6000万人強います。そのうち、農業・漁業・林業従事者は、たった315万人しかいないのです。それほど比重が低いんです。比重が低いから重要ではない、ということではありません。これから、特に飲食業との関わりでは重要な産業になってきます。

第二次産業(製造業)ですが、日本は世界に冠たる製造業の国、物つくりの国といわれております。たしかに日本の製造業は、国境を越えるグローバル産業として、世界のなかでもトップレベルの製品を数多く作り、輸出して多くの外貨を稼いでいる競争力のある産業ではあります。しかし、圧倒的な競争力を有する製造業も国民経済に占める比重は年々低くなってきているのが現実です。 今や、日本の製造業の対GNPに占める割合は、27.9%です。多く見積もっても30%、3割です。年間売上で、国内の製造業の規模は、約140兆円です。

第三次産業というのはどのような業種で構成されているかは資料2を見れば分かります。日本の国内総生産に占めるサービス産業の割合は、73.9%、就業者数では67.7%となっており、日本はいまやサービス産業が圧倒的な比重を占めていることがこの数字でよく分かります。経済のソフト化、サービス化はいまや日本だけではなく、先進国に共通 の趨勢といえます。

私は、この間の金融危機でのマスコミの報道の仕方には大いなる不満があります。円高だ、輸出に陰りが出てきた、トヨタの1兆円あった経常利益がいまや赤字に転落にした、などと大騒ぎをしています。しかし、あれが現在の日本を代表する産業でしょうか? トヨタは10兆円売っているかもしれません。ソニーは5兆円売っているかもしれません。しかし、メーカーの占める地位、ましてや輸出の占める地位は、そんなに大きくはありません。これら外需頼み、輸出主導型の企業の動向が日本経済のすべてを代表しているわけではありません。
それよりも、私たちの生活により密着している第三次産業、サービス産業がどうであるかの方がはるかに重要なのではないでしょうか?!
車は一度新車を買えばその後10年は買うことがありません。しかし食品や外食、医療、福祉、コンビニやスーパーなどは、消費者が毎日でも足を運ぶまさに生活に密着した生活産業です。輸出産業ではなく、国民の生活の為に必要な産業です。つまり、それが主流だということです。
トヨタ等の一輸出型大手のメーカーの売上が前年比10%下がったとか、経常利益が何%減ったかということは、日本経済にとって特に関係がないと思います。その証拠に、トヨタの利益が倍になったからといって、一般 大衆の生活が倍良くなっているでしょうか。そのもたらす結果は、国民生活にとって微々たるものでしかありません。
個人消費が停滞しているのが、現在の不況の主な原因です。決して、円高で輸出産業が振るわなかったから不景気になっているわけではありません。つまり、皆さんが勤めても一向に給料は上がらない、ボーナスも増えないから個人消費が停滞する、したがって経済が駄目になっていく、ということです。

なぜ個人消費なのでしょうか。日本は、サービス産業が圧倒的だからです。全部、国内生活産業と言って良いでしょう。言い換えれば、サービス産業に従事している方が4000万人いるんです。これはそのまま消費人口です。ですから、サービス業に就いている人の懐が豊かにならない限り、決して不況から逃れられないのです。この重大な意味を、はき違えているのではないでしょうか。何でも、世界的競争力がある、グローバリズムがあればいいと、有名企業ばかりテレビに登場させて、経済の行く末を占う人もいますが、本当はそうではありません。本当はサービス産業がどうなるかが、一番大きな問題なのです。 それは、4000万人もが働いて、給料を貰っているからです。
話は移りますが、まず日本の産業構造の中で、サービス産業の位置というのが、皆さんにも分かったと思います。つまり、日本の基幹産業は何かと言えば、サービス産業なんです。それをまずしっかりと踏まえていただきたい。日本はこれから、サービス産業で食べていくしか道はないんです。
3.最近の飲食市場の動向
それでは外食産業は、サービス産業規模が大体354兆円あるうち、どのぐらいの地位を占めているでしょうか。狭義の飲食業(一般飲食)では、約25〜26兆円です。これは、惣菜、弁当などいわゆる中食市場を除いた数字です。人々の食のスタイルというのは、大きく分けて内食、中食、外食に分けられます。
内食というのは家庭での食事です。材料を買ってきて家で作って家族内でサービスして、完結する。外食は、外に出て行って、その場で食べてお金を払います。
その中間にあるのがいわゆる、総菜、弁当、デパ地下やコンビニにあるデリカテッセンです。これは外に買いに行って、家または職場に持って帰って食べるというな中食です。
おおざっぱに言うと、狭義での外食は、レストランビジネス、給食、列車食堂、ホテル・旅館の食事も入ります。これはお金をその場で払って、料理が出てきて、その場で消費する、というものです。この中間に入るのが中食です。
広義の外食という場合は中食、外食の2つを含みます。

資料3 最近の飲食市場規模
  2006年 2007年 2006年対比
狭義の飲食市場 26兆4,619億円 26兆4,833億円 100.1
中食市場 6兆9,364億円 6兆9,782億円 100.6
広義の飲食市場 33兆3,983億円 33兆4,615億円 100.2

先程の、狭義の飲食業というのは約26兆円、中食は6兆9000億、合わせて約33兆円、それが外食産業の占める地位 です。これぐらいの規模があります。したがって、飲食業界は、サービス産業全体の354兆円の1割、10%を占めていることになります。GDPの500兆円に対しては0.6%です。これは、決して小さい産業ではありません。

昔は、家族揃って朝食を食べて、昼は弁当を持って、夜はみんな帰ってきてご飯を食べていました。しかし核家族化が進展するにつれて、個人のライフスタイルがバラバラで、家族揃って食事をするというチャンスが、なかなかないんです。それを外食と中食のサービスが請け負っているわけです。外食と中食産業は、サービス産業における勤労者の食事時間を、24時間支えているといっても過言ではありません。それが30兆の中身です。
ファーストフードで、うどん1杯、ハンバーガー1個で済ませる人もいれば、記念日にフレンチレストランに行って贅沢をする人もいるし、居酒屋に行ってウサを晴らす人もいます。でもこの中食、外食の30兆円は、サービス産業に従事している4千数百万人の食事を、24時間受け持っている産業なのです。
コンビニの売上高の約25%は、弁当などに代表される中食部門です。弁当がなければコンビニは成り立ちません。「コンビニ=弁当、惣菜」と言っても過言ではないほど、占める位置は大きく、それだけのニーズがあるということです。

4.飲食業の将来性について

以上で飲食業のポジションというものが、大体お分かりになったと思います。では飲食業の特質というのはどのような特徴があるでしょうか。資料4を見てください。

資料4  飲食業大手企業上位100社の市場占有率
上位大手100社の売上規模 4兆6,400億円(2006年)  市場占有率17.5%
ナンバー1企業、日本マクドナルド社 3,559億円  市場占有率 1.3%  

市場占有率について書いてあります。なぜこのような話をするかというと、ここに外食産業の特徴がよく表れているからです。
外食産業のNO.1企業と言うのは、日本マクドナルドで、店舗数は約4000店舗です。 売上高は3559億円です。外食産業の上位100社取ると、総売上は、4兆6400億円です。33兆円の飲食業の総規模に対して、上位 100社の占める市場占有率が、わずか17%強です。これは何を意味するでしょう。他の業界に比べて、よく特徴が出ています。(資料4)
たとえばコンビニの市場規模は約7兆円あります。そのうち、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート、サークルKサンクス、の上位 4社で、80%のシェアです。飲食業は、先程、70年代に1兆円から10兆円になって、80年代に20兆円になったという話をしましたね。では上位 100社の占有率というのは、それに伴って拡大したかというと、ほとんど変わっていません。つまり、飲食業というのは、大きな企業が大きな顔をできないマーケットなんです。大手企業と言えども、市場で圧倒的な力を持つことができない業界なんです。実はここに、フードサービスの面 白さがあります。上位100社の占有率が、たった17%前後だということは、後の圧倒的多数は、中小零細の経営規模だということです。大手が中小を駆逐して、圧倒的なシェアを握ることができない構造を持っています。ひと昔前は、中小零細の非近代的な業界だと言われたかも知れませんが、違います。そこに大きな可能性があるのです。
5.飲食業は成熟産業といわれながら大手寡占率が低い理由
@業種・業態の多様性
まず、飲食業の特徴というのは、レジュメの通り、業種・業態の多様性にあります。業種と業態のクロスポイントで、飲食業は成り立っています。
ハンバーガーを例に取ってみましょう。ハンバーガー1個の値段を考えてみてください。
今一番安いのはどこでしょう。多分マクドナルドでしょう。1個80円です。モスバーガーは270円で、3倍強の値段です。マクドナルドはすぐに出てきますが、モスバーガーは、オーダーインストアメイクといって、オーダーしてからスタンバイしますね。時間がかかりますが、使っているソースやトッピング、バンズやパティのフレッシュさ、品質は明らかに違います。もっと高い、1個1000円くらいする佐世保バーガーというのもあります。同じハンバーガーでも、1個80円と270円とでは違うんです。ましてや300円では違います。帝国ホテルでも、1200円のハンバーガーを売っています。それでもハンバーガーです。ハンバーガーという業種は変わらないけれど、業態が違うのです。

業種=what(どんな種類を) 業態=how(どのように売るのか)

これは、あらゆることについて言えます。例えば蕎麦です。最もシンプルで伝統的な料理でしょう。駅の立ち食い蕎麦だったら、1杯250円から300円、手打ちのおやじ蕎麦になると、900円から1200円位 します。同じ蕎麦屋でも、全然違うでしょう。イタリアンでもそうです。五右衛門のパスタと、オーナーシェフがいるような店のパスタでは、値段が3倍位 違います。
つまりそこには、どんな種類の料理かという事と同時に、どのようなスタイルで、どうのような値段で売るのか(howというのは客単価)、その業種と業態の交点に、そのお店の競争力、存在理由があるわけです。つまりこれは、ほとんど無限です。実にたくさんの組み合わせが考えられます。
私が、世界各国のレストランに行って感じることですが、日本は世界一豊かな食文化を持っています。世界中の料理が日本に入ってきていますから、日本にないものはない、と言っていいほどです。どうして日本はこのような多様な文化を受け入れる下地があるのか、文化論だけでも面白いですね。

先日、ミシュランが来ましたね。ミシュランの編集長がはっきり、東京というところは、世界で最大の食都だと言っています。これは2つの意味があります。種類が多様なこと、もう1つは味のレベルが高いことです。日本は今や、世界一の食文化の国だと言ってもいいくらいです。
例えばフレンチでは、日本のフレンチレストランだけではなく、フランスに行ってレストランを出し、ミシュランの星印を取る人まで現れています。相当すごいんだなと、改めて私も思います。
日本の場合は、魚から肉、野菜まで、外食でもバランスを取ろうと思えば、それほど偏った生活をしないでも済みます。日本料理がなぜこんなに世界で騒がれているのか、それは、単にエキセントリックな異国情緒の文化を求めているのではありません。伝統的な日本料理の素材や料理法が、彼らにとっていかにヘルシーか、いかにバランスが取れているか、ということです。確かにそうです。日本人は肉も魚も野菜も食べますから。向こうの家庭では、あり得ません。日本人は、日本料理だけ食べているわけではありませんから、ある日はトマトのパスタ、ある日はカレーライス、ある日は煮魚、とまさに千変万化です。
私たちは意識していませんが、日本の食文化はこんなに多様で、弁当一つとっても素晴らしいです。幕の内、ハンバーグ弁当、パスタの弁当、おにぎり、と、使っている食材の種類から多様な種類は、外国では考えられないことです。それだけ我々は豊かな食文化を享受している民族、国民だということです。私が脅威に思うのは、そんなに多様な文化を受け入れながら、実は、みんな日本流にアレンジしてしまうことです。たらこスパゲティなんて、イタリアにはありません。そのように見事にアレンジして、各国の文化を自分のものにしてしまうんです。それはすごいと思います。10年や20年で作られたものではないですね。民族の文化受け入れのDNAとでもいうものです。

A業種としての特性
有力企業が寡占率を高めることが出来ない、もう1つの理由は、飲食業がもっている特性、「製造・流通 ・サービスが一体化された自己完結型の産業である」ということです。
飲食業である限り、必ず食材を買ってきて、厨房で料理をして付加価値をつけて、壁一つ隔ててお客様にホスピタリティを持ってサービスをする。
どこから物を買ってくるのか、次はそれをどのように組み立ててメニューに落とし込むのか、それを壁一つ隔ててお客様にすぐ食べていただく、つまり、どのようにサービスするのか、これをすべて内に含んでいなければ、外食とは言わないのです。

フードサービスというのは、食材を集め、それをアセンブルして料理のメニュー開発をして、そこに落とし込む、それを壁一つ隔てて人様にサービスする、つまり、「流通 、製造、サービスが三位一体になった商売」だということです。これは他の業界にはありません。小売業は、自家製と、他から仕入れて売るというのはありますが、商品はすでに出来上がった物を売るだけでしょう。ゼロから製造するというのは、小売業では考えにくいです。
サービス産業の中で、飲食業は、サービスの最も高度なレベルが要求されるのです。飲食業、レストランのサービスがこなせる人材は、すべてのサービス業がこなせます。
製造、流通、サービスまで、全部一体化されて、1つの人格に乗りかかってきているのですから、そのサービスがこなせるということは、何のサービスでもこなせます。
6.飲食業のこれからのトレンド
@外食比率はこれからも高まっていく
飲食業は、1986年位に20兆円に達してから、伸びていないんです。産業としては成熟産業になりました。しかし、外部の飲食業のサービスを受けない生活を、皆さんは考えられますか。どんなに不景気になっても、食べないわけにはいきませんから。しかも昔と違って、内食の比率はどんどん下がっています。女性も昔のように料理をしなくなりました。おふくろの味の知恵も、どんどんなくなってきます。それを代行しているんです。
これからの日本人のライフサイクルを考えた場合に、外部への食の依存が高まりこそすれ、減ることはあり得ません。したがって、外食は、産業としては成熟産業になりましたが、例えば利益が半分になったからいきなり下請けを切るとか、明日から仕事がないということはありません。食の外部依存率が高まっていけばいくほど、外食に対するニーズも高まってきます。これは、トレンドとしてなくなることはありません。

A少子高齢化社会の到来
2005年に、50歳以上のシニア世代が50%に達しました。今まで日本の消費文化、それに飲食業の文化を常に主導してきたのは団塊の世代です。
しかし、その団塊の世代も、今や定年真近なシニアです。人口ボリュームから言って、皆さんのような若い人の人口は逆三角形になって、これ以上増えることはありません。
お母さんが子供を3人以上産む社会が来るという保証はどこにもないのです。ますます減っていきます。相対的には、若い人の消費力が減退していく社会です。
今、日本の個人の貯蓄率は現金、証券、株式を全部入れて、1500兆円あると言われています。その70%以上を、50歳以上のシニアが握っています。これからは、若い人の相対的、社会的なパワーが、どうしても落ちてきます。その代わり、シニアのパワーがどんどん大きくなって、頭でっかちになります。消費傾向としては、量 より質です。これからの消費は、ここが大きなターゲットになってきます。飲食業にとっては。非常に重要な事です。

例えば、今、郊外に行くと、イオンやイトーヨーカドー等、大規模なショッピングセンターが出来ています。その中にある飲食業を見て、私はちょっと不満に思います。あれは、全部ニューファミリーを対象にしていて、シニアの消費に耐えられる専門店がほとんどありません。ですが、実際700万人とも言われている団塊の世代が職場を去って、郊外にいる家族の元に帰ってくるわけです。当然、生活圏は全部郊外に移ってきます。皆車を運転できますから、イオン等のショッピングセンターに行きます。アウトレットモールにも行きます。しかし、そこに入っているショッピングセンターでは、シニアは満足できません。その背景をもう少し考えなければいけませんね。

これからは、51歳以上のシニアのライフスタイル、ニューフィフティーと言いますが、日本はそのトップを切っています。世界一、高齢化が進んでいる社会です。福祉と合わせて、飲食業もこのマーケットをどう作っていくのかが、今後の大きな問題です。シニアは、多少単価は高くても、健康にいい、質の高いものを望みます。

B食の安全と健康指向

これは言うまでもありません。しかし、日本の難しいところは、食料自給率が40%を切っています。100%自給できるのは米だけです。ほとんどの食糧を、外国からの輸入に頼らざるを得ません。これは一朝一夕に解決できません。農業の問題をあわせて、今、外食業界でも大変な問題になっています。給食、外食、食品メーカー、色々取りざたされています。確かにそのようなことは重要ではありますが、だからと言って、国産物だけ食べれば済むかというと、実際にはできません。
問題の1つは、日本の農業をこれからどうするのか、本当に真剣に考えなければならない時代になってきたこと、もう1つは、すぐに自給自足できるわけではないのだから、依然として外国から食糧を入れざるを得ない、この問題は将来どうなるのだろう、ということです。これは皆さん世代の課題になりますね。

C地産地消
これは、地方活性化の最大の武器です。鹿児島の黒豚や大分の関サバを出すまでもなく、日本人の伝統的なノスタルジーの中に、取れたて、伝統食材に対するブランド意識が非常に高いです。今後色々な意味で注目されるでしょう。それぞれの地域の特色ある食材を使った食文化を追求していく、そうすることで各地域の活性化につなげていく、その意味で地産地消はこれからの飲食業にとって極めて大きな可能性を秘めた課題といえます。

D外国人観光客の動向
日本はやってくる外国人観光客は年間800万人といわれていますが、この数字は少なすぎます。驚くべきことにマレーシアやシンガポール以下なんです!フランスは年間7000万人も観光客が来ます。今後の日本の飲食業を考えるとき、外国人観光客の問題は絶対に外すことができない課題です。少なくとも2000万人から3000万人の外国人観光客が来てもおかしくないのです。落としていくお金の30%は食に落としていきます。フランスは自国の人口よりも観光客が多いのではないでしょうか。それで生活しているといっても過言ではない国です。
日本はこれだけ食が豊かで、安全で交通アクセスが良くて、こんな国に800万人というのはおかしいです。しかしこれには色々な壁があるんです。これは民間だけでなく、地方自治体や国をも巻き込んだ官民一体の取り組みが必要となってきます。国土交通 省の観光庁の資産では2,300千万人の外国人観光客がやってれば、その市場規模は少なくとも20兆円近くの可能性があるといっています。


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