2001.7.13
五つ星が満点。
足立倫行 『北里大学病院24時』 (新潮社ISBN4-10-374601-7) | |
お薦め度 | ★★★★ |
あらまし | 相模原市にある北里大学病院は1000床を超える総合病院である。そこで働く人たちに取材しているのが本書。もう少し詳しく言えば、呼吸器内科病棟・栄養部・幼児病棟・薬剤部・救命救急病棟・施設課・皮膚科病棟・産科病棟・臨床検査部・病歴センター・腎センター・整形外科病棟などで働く、看護婦・医師・看護補佐・臨床検査技師などが取材対象だ。 |
コメント | 興味深く読んだのは、「カルテの守護者たち」と題された病歴センターの章だ。26名の職員が64万3000人のカルテを管理している。記入漏れがないか、必要書類は揃っているか、矛盾はないかなどを第三者的にチェックしているという。 |
丸谷才一 『挨拶はたいへんだ』 (朝日新聞社ISBN4-02-257627-8) | |
お薦め度 | ★★★ |
あらまし | 丸谷さんは挨拶が上手いというのはいろんなところで目にするが、氏は必ず原稿を書くさうだ。その原稿をもとに、結婚式の祝辞・授賞式での挨拶などを集めて作つたのが本書。弔辞が思いのほか多いのは年のせゐか。 |
コメント | 「日下武史君の藝術選奨文部大臣賞を祝う会」での祝辞が秀逸(「タキシードが似合ふ日本最初の役者」)。劇団四季関係の役者やスタッフの名前を次々と並べ立てることは、永年見守つた人でないとできないだらう。付け焼刃では無理だ。 |
ナンシー関 『テレビ消灯時間』 (文藝春秋ISBN4-16-353210-2) | |
お薦め度 | ★★★★ |
あらまし | 初出は『週刊文春』(96年3月14日号〜97年6月26日号)の連載。テレビ番組および出演者の批評であるが、まず褒めていない。かなりキツイことを書いている。 |
コメント | 悪口に類することを書くのは大変なのだ。「バカ」と一言書いたら「なぜ」を説明するためにえらく紙幅を使う。オブラートに包んで言葉を濁すことも可能だが、読むほうにとってはそれは大して面白くないものだ。 |
津野海太郎・二木麻里編 『「オンライン読書」の挑戦』 (晶文社ISBN4-7949-6450-1) | |
お薦め度 | ★★ |
あらまし | ひとことで言えばリンク集だ。日本文学アーカイブ(書庫)・現代日本文学アーカイブ・海外文学アーカイブ・図書館・美術館を紹介している(情報は2000年7月現在のもの)。 |
コメント | オンラインで文章を読むとき困るのは、行間が詰まっていたり一行の文字数が多いと読みにくいことだ註1。だから、オンラインで長文を読む気にはなれない。ダウンロードすればまだマシだが……。 |
丸谷氏の本は、歴史的仮名づかひ(をかしい・おめでたう)であるところがなんとなく好きだ。ときたま出てくる正字(藏・藝)とか、小さくならない促音(あつさり)・拗音(キヤツキヤツ)とかも。“盡晝畫”と並ぶと、新字でどういふ字なのか少し迷ふが、前後の文脈を読めばなんとかなるだらう(正解は“尽昼画”)。
註1:下に示したのは、日本語と英訳文それぞれによる夏目漱石『坊つちやん』の書き出しである。英小文字は意外と凸凹しているので――大半が小ぢんまりしている中でところどころに上出っ張りのbdfhklや下出っ張りのgjpqyが混ざっているので――自然と余白が生まれる。いっぽう日本語は同じ高さなので余白がぜんぜん生まれない。念のために申し添えておくと、両方ともに行間隔は同じである。
親讓りの無鐵砲で小供の時から損ばかりして居る。小學校に居る時分學校の二階から飛び降りて一週間程腰を拔かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出して居たら、同級生の一人が冗談に、いくら威張つても、そこから飛び降りる事は出來まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさつて歸つて來た時、おやぢが大きな眼をして二階位から飛び降りて腰を拔かす奴があるかと云つたから、此の次は拔かさずに飛んで見せますと答へた。 | Since childhood, the reckless ways I got from my old man have brought me nothing but trouble. In elementary school I jumped from a second story window, after which I couldn't walk for about a week. Some might ask why I'd do such a thing. There Was no deep meaning behind it. I stuck my head out a window on the school's newly built second floor, and as a joke one of my classmates shouted up at me: "You think you're so big! I bet you can't jump down from there! Chicken!" I arrived home on the janitor's back. My old man stared at me wide-eyed and said: "Who gets hurt jumping from only the second floor?" I promised him I'd make a better landing next time. |
『夏目漱石集 一』(講談社 日本現代文學全集 第23巻)より引用 | 『Botchan』(IBCパブリッシング/訳:R.F. Zufelt)より引用 |