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三行書評 第12回

2001.8.21

 五つ星が満点。

松下竜一
とりでる』
(講談社文庫ISBN4-06-134175-8)
お薦め度 ★★★
あらまし 1960年6月20日――日米安保条約が自然成立した翌日――熊本と大分の県境を流れる、九州筑後川の支流大山川の松原・下筌しもうけダム建設予定地で、ダム反対運動が山場を迎えようとしていた。“蜂ノ巣城”と通称された反対運動の砦に強制代執行が行われようとしていたのだ。それから亡くなるまでの10年、都合晩年の13年をダム反対運動に捧げた山林地主・室原知幸の軌跡である。もっとも指導者というよりも専制君主というべき活動だったらしい。結局ダムは完成するが最後まで国家に対して「個人の権利」を主張した13年だった。
コメント 個人の生活と公共性。僕の住まいはちょうどいい具合の住宅地なので、ダムも来なければごみ処分場が来そうな気配も無い。だから少々真剣味に欠けるが考えさせられるよ。
北矢行男・木村雷太
『だれがプロ野球を殺すのか』
(アスキーISBN4-7561-3817-9)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 閉鎖的な日本野球機構、権限を持たないコミッショナー、逆指名とFAの混在、観客不在の運営などなど。今プロ野球が抱えている問題点はだいたい網羅されているようだ。著者は、多摩大学の教授とノンフィクションライターという異色の取り合わせ。
コメント プロ野球中継をここ20年近く見たことがないほど無関心な僕だが、「雀百まで踊り忘れず」のことわざ通り、面白くなってくれれば見たいなぁとは思っている。本書の改革案に賛成はできなくても、問題点の把握という目的には最適の書。
椎名誠
『日焼け読書の旅かばん』
(本の雑誌社ISBN4-86011-001-3)
お薦め度 ★★★
あらまし 『本の雑誌』連載の「今月のお話」をまとめたもの。「お話」の中に出てくる本の索引が巻末についている。これはとても便利。
コメント  
浅野健一
『マスコミ報道の犯罪』
(講談社文庫ISBN4-06-263137-7)
お薦め度 ★★★★
あらまし 日本のマスコミは調査報道が少なくて、大部分が発表報道である。日本のマスコミは一市民には厳しいが、大企業や身内や警察や官庁には及び腰である。日本のマスコミは司法権があると思い込んでいるらしい。日本のマスコミはセンセーショナルに煽る。などなど。事例多数。(筑摩書房刊『客観報道』を改題して文庫化)
コメント センセーショナリズムの例をひとつ(これは本書にはない)。「ロス疑惑」でマスコミが騒いだ三浦和義氏は、服役中にマスコミ相手に名誉毀損の民事訴訟を300件近く起こして約8割に勝訴したという。当時の報道いい加減だった証拠である。