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三行書評 第51回

2002.5.27

 五つ星が満点。

後藤健生
『ワールドカップの世紀リアリズムとしてのサッカー
(文藝春秋ISBN4-16-351560-7)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 《野望、希望、欲望、失敗、失望、執念、トリック、販促、悪意、中小、熱意、努力、暴力、諦め、皮肉……。(中略)それが、ワールドカップのリアリズムなのである。これは、けっして奇麗事の世界ではない》というワールドカップを、地域予選・第1ラウンド・FIFAの世界戦略・PK戦・三位決定戦・決勝といった章立てで論じていく。
コメント 観客の目が肥えているイタリア大会では第1ラウンドの試合は満員にならないとか、1994年アメリカ大会三位決定戦はスウェーデン対ブルガリアの試合前、《ブルガリア人の老記者が、ブルガリア正教会式に複雑な十字を切って神に勝利を祈っていた真剣な表情が忘れられない。ブルガリア人にとって、古代トラキア人がローマ帝国の支配に抵抗して以来の、あるいは中性にバルカン半島で一台王国を築いて以来の大事件だったのだろう》とか、ワールドカップのすごさ満載。
後藤健生
『日本サッカーの未来世紀』
(文藝春秋ISBN4-16-352660-9)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 1996年7月21日マイアミ、1980年12月26日香港、1984年4月15日シンガポール、1985年10月26日東京、1987年10月4日広州、1991年7月27日長崎、1992年11月3日広島、1993年10月18日ドーハ、1994年10月11日広島、1996年5月29日福岡、1996年7月25日オーランド、1996年12月15日アルアイン、2005年10月26日テヘランを通して見た、サッカー日本代表に関する考察。
コメント 1997年の刊行なので、最後の章は未来の話ということになる。
サッカーに限らずスポーツルポルタージュを読むと、「これだけ深く洞察できたら楽しくてしかたないだろうな」と思う。本書もそのひとつ。
後藤健生
『世界サッカー紀行2002』
(文藝春秋ISBN4-16-358240-1)
お薦め度 ★★★★
あらまし サッカーW杯フランス大会アジア最終予選が始まる頃に出版された旧版『世界サッカー紀行』を書き直したもの。四二の国と地域について大陸別に記述している。
コメント サッカーボールは五角形12枚+六角形20枚を縫い合わせて作られているけれども、その1枚1枚が国旗モチーフになっているボールが、表紙および裏表紙に映っている(CG増田寛さん)。このボールが実際にあったら欲しいな。ちょうど出場32か国で1個作れるんだよね。内容とまったく関係ない話でごめんなさい。
高安秀樹・高安美佐子
『フラクタルって何だろう』
(ダイヤモンド社ISBN4-478-83004-5)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 素粒子の世界には場の理論、原子の世界には量子力学、分子の世界には統計力学、太陽系には古典力学、宇宙には一般相対性理論がそれぞれ適用できるが、意外なことに、人間スケールの世界に適用できる理論が無い。1975年、マンデルブロによって提唱された“フラクタル”という概念は、人間スケールの世界を記述できる理論かもしれない。というわけで、“フラクタル”の《おもしろさ、そして、奥の深さを、科学を専門としない一般の読者の方にも知っていただこうという目的で書》かれた本。
コメント 2.25次元といった小数で「複雑さ」を表現するのだと言う。素粒子理論のための群論、量子力学のための行列理論、古典力学のための微分積分、一般相対性理論のためのテンソル解析といった、新しい数学概念の登場が待たれる。