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三行書評 第58回

2002.7.22

 五つ星が満点。

『ともに彷徨いてあり』は前回から引っ越してきました。同じ著者はまとめようかと思いまして……。

吉川潮
『本牧亭の鳶』
(新潮社ISBN4-10-411803-6)
お薦め度 ★★★
あらまし 芸人を題材にした短篇集。「梟の男」のように登場人物全員が実在(かつ実名)なんていう作品もある。
コメント 書き下ろしの表題作で、講釈師が、通産官僚の娘との結婚やら独演会の案内やらを、代議士サマに頼むのだ。仲介する下足番の爺さんの人柄や凄さを示すためのエピソードではあるし、芸人にとって後ろ盾は大切なんだろうけれど――個人的には――代議士サマが絡んでくると清々しさが消えてしまう。というわけで、思い切って★を2つ減らしました。
野田知祐
『ともに彷徨いてありカヌー犬・ガクの生涯
(文藝春秋ISBN4-16-358470-6)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 《カナダ、アラスカに八回、メキシコに一回行き、先住民と一緒に暮らし、クマと闘い、日本中の川を下り、泳ぎ、キャンプをした》カヌー犬ガクの飼い主であった野田さんが、テーマをガクに絞って書き通した最初で最後の本。
コメント 僕は(ガクを6年ほど預かっていたことがある)椎名誠さんの本をよく読むので、カヌー犬ガクについては少々知っていたが、これほど魅力的な犬だとは思わなかった。日本でも、放し飼いできればいいのにな。
野田知祐
『カヌー式生活』
(文藝春秋ISBN4-16-355550-1)
お薦め度 ★★★★★
あらまし カヌーイストでエッセイストでもある野田さんのエッセイ集。《出版局の和賀正樹さんがあちこち駆け回り、ぼくがこれまで色々な媒体に書いたものをかき集め、一冊の本にしてくれた。》
コメント 《誰かナイル川を下ってみないか。/多分、君は死ぬだろうが、それは青年にとって悪い死に方ではない、とぼくは考える。》と結んでいる(「若者よ辺境を目指せ」)。こういうことをサラッと言えるところがちょっと凄い。
著者プロフィールをよく読んだら、野田さんは刊行時(1999年)で満61歳。まだまだお元気なようだ。
野田知祐
『北極海へあめんぼ号マッケンジーを下る
(文藝春秋ISBN4-16-341480-0)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 1984年、フォート=プロビデンスからタクトヤクタックまでのマッケンジー川(約1700km)を、71日間かけてカヌー“ストロングアメンボ号”(椎名誠さん命名)で下った記録。
コメント 「あとがき」で《僕の川下りは遊びの延長に過ぎない。(略)/なるべく、安楽に、のんびりと、だらしなく、面白おかしくやる、というのが、僕の川旅の主義である》とあるとおり、住んでいる人たち(きわめて少ないけれど)と接触しながら旅している。