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三行書評 第84回

2003.1.27

 五つ星が満点。

山下武
『大正テレビ寄席の芸人たち』
(東京堂出版ISBN4-490-20430-2)
お薦め度 ★★★★
あらまし 著者は、『大正テレビ寄席』(1963年〜1978年/NET(現テレビ朝日))開始当初のディレクター(かつ柳家金語楼の子息)である。
コメント 伊東四郎(正しくは四朗)とかセレクター(正しくはセクレタリ(秘書))といった細かな間違い(誤植?)もあるけれど、戦後のお笑い芸人を網羅したなかなかの労作。賞めるところは賞めるけれども辛辣な部分もある。巻末に人名索引がついているのは素晴らしい。
本多勝一
『五〇歳から再開した山歩き』
(朝日文庫ISBN4-02-261297-5)
お薦め度 ★★★
あらまし いくつかの雑誌に掲載した“登山紀行文”をまとめたもの。「山歩き」とは言うものの、大学時代にはヒマラヤにも行ったことのある著者だから、ハイキングなんていうもんじゃない。
コメント 『スキージャーナル』に掲載したものはスキー用具について詳しく、『婦人と暮し』に掲載したものはやわらかめ、と書き分けているような気がする。
小林信彦
『テレビの黄金時代』
(文藝春秋ISBN4-16-359020-X)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 『夢であいましょう』『シャボン玉ホリデー』『九ちゃん!』『ゲバゲバ90分』など、著者が関わった番組を中心に、テレビの黄金時代――著者の考えでは1962年からの10年間――を描く。
コメント 小林さんは1932年生れだから、テレビの黄金時代と30代がぴったり重なる。青春(というのは合わないかもしれないけれど)群像記。
李小牧リ シャム
『歌舞伎町案内人』
(根本直樹/角川書店ISBN4-04-791427-4)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 中国にいたときはバレエダンサー、1988年に28歳で私費留学生として来日したのち、ティッシュ配布人などを経て「案内人ガイドいわゆる“キャッチ”だけれども優良店にこだわるので、こう自称する)」となり、今は永住権を取得した一人の中国人の物語。現在に至るまでの様々な体験を記した著作。
コメント プロローグだけを読むと、“自意識過剰なエエかっこしぃの自叙伝”にしか思えないのだけれど、そこを我慢して^_^;読み進むと俄然面白くなってくる。
丸谷才一
『軽いつづら』
(新潮社ISBN4-10-320606-3)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 『夕刊フジ』1992年10月6日から1993年3月6日まで連載したものから92篇をまとめたもの。『夕刊フジ』には一人の著者が100日(回)連続で執筆するコラムがあり、たぶん、その連載だと思う。
コメント 相変わらず面白い。たとえば、都市対抗野球で優勝して胴上げされた経験が3度もある東芝の青井舒一会長(執筆当時)が回を経るごとに胴上げ“されっぷり”が上手くなったという顛末を書いた後、バレーボール選手たちに胴上げされると《バレーの呼吸で高くあげるから、目がまはるさうです》とオチをつけるのだ。
椎名誠
『ぶっかけめしの午後』
(文藝春秋ISBN4-16-359000-5)
お薦め度 ★★★★
あらまし 『週刊文春』連載中の「新宿赤マント」シリーズ第14弾。2001年3月8日号から2001年12月27日号に連載。
コメント 子ども二人がアメリカに住んでいて、うち一人は世界貿易センターから5kmくらいのアパートだったので、9.11テロのときは心配したそうだ(「不安の周辺」)。その回の沢野ひとしさんの挿絵に《ケネディ暗殺のニュースより数十年たつが、子どもたちはまだ家にいた。そっちの方が心配だ。》と書いてあるのに大笑いしてしまった。
アンブローズ=ビアス
筒井版悪魔の辞典《完全補注》』
(筒井康隆/講談社ISBN4-06-211550-6)
お薦め度 ★★★★
あらまし たとえば、brute【野獣】を引くと《→husband【夫】の項を見よ。》と書いてあり、ではとhusband【夫】を引くと《食事が終わると、皿のあと片づけを命じられる人。》なんて書いてある“辞典”である。
コメント 『悪魔の辞典』を初めて教えてくれたのは、『11PM』の大橋巨泉さんだった。番組の冒頭、その日のテーマを『悪魔の辞典』ではどう書いているのかを紹介していたのだ。通読するような本ではないという意味で★をひとつ減らした。