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三行書評 第87回

2003.2.17

 五つ星が満点。

ダニエル=デフォー
『ロビンソン漂流記』
(吉田健一/新潮文庫ISBN4-10-201701-1)
お薦め度 ★★★
あらまし 難破して無人島に流れ着いたロビンソン=クルーソーの27年間の生活記。
コメント 飲み水と火と塩をどうしたのか、これが明らかにされていないのが大きな不満だ。だいたいが、体調不良を治すために煙草の葉を漬けたラム酒は飲むは、“野蛮人”フライデーが《着物が貰えると解って非常に喜んだ》りと、無茶苦茶ではある(もっとも18世紀初頭という執筆時期を考えれば無理からぬことではあるけれども)。
池永陽
『コンビニ・ララバイ』
(集英社ISBN4-08-774586-4)
お薦め度 ★★★★
あらまし コンビニエンスストア「ミユキマート」の店主堀幹郎を中心に繰り広げられる連作短篇集。『本の雑誌』が選ぶ2002年ベスト10の第1位作品だ。
コメント どう言えばいいんでしょうか……。文章としてよくかけていると思うし、登場人物も魅力的だとは思うけれども、亡き妻子の亡霊を見てしまう点が不満。取ってつけたような印象が残ってしまう。 それだけで★を一つ減じた。
有楽企画
『よその国ではどーやってるの?』
(実業之日本社ISBN4-408-59175-0)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 夫婦別姓・公営ギャンブル・麻薬規制など34項目について各国の実情を紹介。
コメント 非常に勉強になった。「Chapter13国内持ち込み禁止物」「Chapter22放送禁止」なんて面白かった。前提知識――たとえば国籍には血統主義と出生主義がある――を最初に説明してもらったほうが良い箇所や明らかな誤植といった「玉に瑕」も見受けられるけれど。
池波正太郎
『又五郎の春秋』
(中央公論社ISBN4-12-000715-4)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 歌舞伎俳優であるとともに、国立劇場歌舞伎研修所で実技講師も務める中村又五郎(二代目)丈の半生記。1977年刊。
コメント 郡司道子さんと池波正太郎さんを比べるのは酷かもしれないけれど、ルポルタージュ物は、無駄な部分を削って象徴的な事柄を残し本質を伝えるかが大切だよね。“変らなすぎる”ことを危惧していた又五郎さんだけれども、勘九郎の平成中村座や猿之助のスーパー歌舞伎が出てきて、少しはホッとしたかもしれない。

 まる三的又五郎さんの思い出。
一七代中村勘三郎一周忌追善公演だった『梅雨小袖昔八丈つゆこそでむかしはちじょう 髪結新三かみゆいしんざ』(1989年4月歌舞伎座)の大家・長兵衛が印象に残っている。新三(五代目中村勘九郎)が「いらねえいらねえ」と30両の小判を団扇で跳ね上げたら、ゴザの外にまで飛んでいってしまった(補足すると、ゴザの外は家の外というのが芝居の決まり)。どうするのか見ていたら、「あんなところまで飛ばしやがって」と言ってゴザの外まで取りに行き、戻ってきたときに足裏をゴザに擦り付けて汚れを落とす所作まで見せたのが又五郎さんだ。後日もう一度見に行ったら、今度は勘九郎がわざとゴザの外に飛ばしていた。3回目は^_^;たまたま勘三郎死去からちょうど1年目の日で芝居を中断して口上があった。