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三行書評 第138回

2004.2.23

 五つ星が満点。

辺見じゅん
収容所ラーゲリから来た遺書』
(文藝春秋ISBN4-16-343270-1)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 1986年、辺見さんはシベリアで客死した抑留者・山本幡男の遺書に出合う。ソ連当局が、情報漏れを恐れて徹底的な身体検査で紙(書かれたもの)の持ち出しを警戒していた状況下で、遺された抑留者たちはどうやって遺書を持ち出したのか?
コメント 上に書いたような予備知識は一切持たず、講談社ノンフィクション賞受賞作というだけで不見点みずてんで手に取った一冊だったが、いやはや面白かった。山本幡男について言えば、ある種の“知の巨人”かもしれない。
川本亨二
『江戸の数学文化』
(岩波書店ISBN4-00-006570-X)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 《(略)難解な和算には縁遠かった庶民が意外にもみごとな数処理技術をもち、数と遊ぶ余裕すらあった。(略)江戸庶民の数学文化の一端を紹介する。》
コメント 関孝和(教科書で習ったなぁ)に代表される和算と、庶民の「算」の違いが良くわかった。106ページという冊子のような本で、問題の実例は少ない。
中村義作
『どこまで解ける 日本の算法和算で頭のトレーニング
(講談社ブルーバックスISBN4-06-257041-6)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 塵劫記じんこうき』(吉田光由1627年刊)などの往来物(寺子屋の教科書)などから採った日本算法問題集。言い換えれば、江戸時代の数学パズルを75問集めた本である。
コメント 小中高生を読者対象としているそうで(初級中級上級に分かれている)、いきなり連立方程式と立てるのではなく、試行錯誤方式だったりするところがよい。ただし、問題によっては《解答の補足》を付けることで代数学的な本質も明らかにしている。良書。
佐藤健一
『江戸庶民の数学』
(東洋書店ISBN4-88595-149-6)
お薦め度 ★★
あらまし 上記二冊をあわせた(一冊で間に合わせる)本。
コメント 川本さんや中村さんと比べて数式がたくさん出てくる。それで解り易くなっているかと言うとそうでないところが興味深かったりする。
みうらじゅん
『LOVE』
(世界文化社ISBN4-418-03517-6)
お薦め度 ★★★★★
みうらじゅん
『PEACE』
(世界文化社ISBN4-418-03518-4)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 一人で企画会議をし、一人で決め、一人で営業する“一人電通”こと、マイブーマーみうらじゅんのエッセイの落穂拾い――1990年から2002年に発表したもののうち単行本未収録作品を収録した――二冊。
コメント 『見仏記』も『マイブームの魂』も『とんまつりJAPAN』も読みました(そのうえ面白かったです)という“みうらマニア”ならば見過ごせない本ではないでしょうか。一般向けには★★★かな。
三浦しをん
『人生激場』
(新潮社ISBN4-10-454102-8)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 『週刊新潮』2002年5月2・9日合併号から2003年4月24日号まで連載した、私生活暴露エッセイ(まる三命名)を中心にまとめた本。
コメント 2000人――『トリビアの泉』でよく出てくる統計学的に見て有意なサンプル数――を調べたわけではないけれど、「読書好きは文章上手、多彩な文体を操れる」とまる三は思っている。三浦さんは、この仮説を裏付ける一人。