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三行書評 第88回

2003.2.24

 五つ星が満点。

松村賢治
『旧暦と暮らす』
(ビジネス社ISBN4-8284-1013-9)
お薦め度
あらまし 天保暦の流れを汲む太陰太陽暦がいかに優れているかを述べた本。
コメント 旧暦を使えば「釣果が期待できるかどうか予測できる」なんてあたりまでは良かったが、《二十世紀は(中略)「温暖の世紀」であることを旧暦が予測しているのです》(38頁)が出てくるに及んで“トンデモ本”の兆候が見え、六曜星・十干・十二支・七曜星が《吉凶を占う、意味のある暦注なのです》(62頁〜72頁)なんていう話が出てくるに及んでかなり濃厚になった。
太陰太陽暦が“文化”であることは明らかだが、それを自然科学的にアプローチしてしまった本書はどこか的外れだ。
内田正男
『暦と日本人』
(雄山閣ISBN4-639-00080-4)
お薦め度 ★★★★
あらまし 東京天文台職員だった著者が、《暦にまつわる迷信の根拠のなさを説くことに主眼を置いた》本(「新装版にあたって」から)。
コメント 内田さんには『日本暦日原典』(雄山閣)という労作がある。日本で太陽太陰暦が使用されていた允恭いんぎょう天皇の34(445)年から明治5(1872)年までの日付が西暦で何月何日になるかがわかる本だ(ユリウス暦(〜1582)かグレゴリオ暦かも考慮されている)。これを使うと元禄15年12月14日が1703年1月30日だなんてわかる
丸谷才一
『男もの女もの』
(文藝春秋ISBN4-16-353960-2)
お薦め度 ★★★★
あらまし 月刊誌『オール讀物』1996年1月号〜1997年11月号に連載したエッセイをまとめたもの。
コメント 野村克也さんと広岡達朗さんを脇に従へて週に5試合ほどプロ野球観戦をしたけれど面白くなかつた友人がゐたさうです。どちらかのチームのファンならば凡試合でも愚試合でも面白かつたんじゃないかといふ意見に賛成。それまではアメフト好きを自認してゐて贔屓チームを持たなかつた僕が、バッカニアーズファンになつた理由の一つが確かにこれです。
瀬木慎一
『名画修復』
(講談社ブルーバックスISBN4-06-257068-8)
お薦め度 ★★★
あらまし 油絵を中心とした絵画の修復に関する概論。
コメント そもそも顔料・溶剤・展色接着剤などの画材に関する知識がないと、せっかく描いた絵も長持ちしないそうだ。そういうことも含めて《絵画は芸術であり(中略)それと両立して科学でなければならない》そうだ。なるほど。初耳。
片桐頼継
『復活『最後の晩餐』』
(小学館ISBN4-09-606021-6)
お薦め度 ★★★★★
片桐頼継・アメリア=アレナス
『よみがえる最後の晩餐』
(日本放送出版協会ISBN4-14-080494-7)
お薦め度 ★★★★★
あらまし 1977年から1999年までの20年をかけて修復家ピニン=ブランビッラさんを中心に行われたレオナルド=ダ=ヴィンチ作「最後の晩餐」の大修復。その概略を追った2冊。
コメント 『復活〜』はほとんどがカラー図版(写真)である。いっぽうの『よみがえる〜』は過去の修復にも触れたりして、「最後の晩餐」小史といった趣である。また、『よみがえる〜』のほうは、CG(コンピュータグラフィック)で再現した「最後の晩餐」に関して10代の若者が行った議論のダイジェストも付いている。