ガイア・ギアデータベースサイト

◆関係者発言集

富野由悠季

富野由悠季 「サウンドと遊ぶ」(CD-1ライナー)

「新しい媒体といいたくはないが、このようにカップリングされると、また、思いを新たにするのは、ぼくが、ラジオで育った世代だからだろう。聴いてみて欲しい。サウンドだけという不満な部分があるからこそ、人物も機械も光景も、そして、ストーリーさえも、何となく 自分のイメージというものが喚起されてくる。そういうもので埋めないと不足感につきまとわれるからだ。それは、想像力を刺激することである。なによりも、自分の好みも、自分の好みの欠点もわかったりする。そのことが、次のステップへと踏み出させてくれるものだ。ラジオで好きになった人物が、映画になったときに、自分の好みと違うことで愕然としたり、許せたりすることを体験するということは、重要な訓練だと思う。このCDブックが、聴くあなたにどのように受け入れられようとも、それがあなたの感性を少しでも磨くものになれば、原作者としては幸いであるし製作に携わったスタッフの思いも、そこにしかない。一刻の思索を得られんことを願う。ぼくにとってサウンドは、そうであったから・・・」

富野由悠季&市川陽子 ガイア・ギアトークショー(B-CLUB THE PLASTIC2 1992AUTUMN)

ショーは陽子ちゃんの歌声から始まった。『ガイア・ギア』の主題歌『STAY WITH YOU』だ。白いジャケットに黒のパンツ。スラリと伸びた長い足がまぶしい・・!やがて富野氏が舞台に登場、場内シーンと水を打ったような静けさ!憧れの富野監督の言葉を、ひと言たりとも聞き逃すまいとの姿勢だ。さっそうと舞台に現れた富野氏は、真っ赤なコム・デ・ギャルソンのスーツに身を包み、クリーム色のソフト・ハットというイキな出で立ち。緊張みなぎる会場を和ませるため、さっそくソフト・ハットを取るなり軽いジョークを一発!

富野「ハレーション避けを取らなきゃいけないのが残念です(笑)・・・」

さすが、お見事な演出!席に着いた富野監督と陽子ちゃん・・落ち着く間もなく琴乃ちゃんの質問開始!

琴乃「『ガイア・ギア』というのは、ガンダムから100年後のストーリーだそうですが」

富野「ガンダムの100年後という話はウソです」

のっけからショッキングなセリフで始まった富野監督のお話し・・・流れるような口調で『ガイア・ギア』誕生のいきさつを語る。中にはアニメーションを制作する上でのスタッフの連携プレーや、版権問題話題も折混ぜられ、ファンはまるで浪曲でも聞き入るように、富野節に魅せられてゆく・・・・・・

富野「僕の書いた文章の中には、そういったことは一切書いてありません。ただ、スタッフの人たちが一所懸命作ってくれるので、”そういうふうになってしまった”という部分はあります。アニメーションの世界というのは、みんなで作っているもので、スタッフが作ってくれた“100年後”ってのは、こんなものだろう?・・・・・・というのができたんです。そこに『ガンダムの時にいちばん人気のあったシャア・アズナブル―今ここで名前を言うのも恥ずかしいような名前です(笑)―のクローンを作ってみたい』と個人的に思って(『ガイア・ギア』を)始めたわけなんです。個人的に思ったのはなぜかといいますと、TVとか映画では絶対に作れない話だと思ったからなんです。というのは・・・一人の人格が一つの決められた個性であるという物語りっていうのは、ものすごく嫌だなぁ・・・というのがありまして。『“一人の人間”の“別の可能性”が見えるような物語を書いてみたかった』・・・・・・というのが『ガイア・ギア』の元々の始まりです。と同時に、皆さん、良い参考にしていただきたいことがあります―ガンダムという名前を使ってはいけない―。どうしてかというと、ガンダムの©は全部僕以外のところにありますから、違う名前でやらなければならない。だけども、“ガ”がついたほうがいいだろう、ってことで『ガイア・ギア』とつけたんです。だけど、それに、“機動戦士”なんてつけると横槍が入るから、それはつけないで、我慢してやる。みたいなことをやった結果、ラジオに行くことになったんですが、作品中に“ガンダム”という単語が出てくるから、この権利よこせ、なんてことがありまして、この半年間大変でした。ともかく、小説ではない媒体―ラジオという形―に乗れたってことは、ありがたいと思っていますし、小説版とは当然ちょっとちがった形で(ラジオの)現場のスタッフたちが、彼らなりのガンダムというものを、考えて作ってくれています。その上で僕が、ラストの方を連載とは違った形に書き換えてしまったんですけれど、それなりのコンセプトを付け加えられたと思っていますので、そのあたりを聞いて頂ければ、とてもあり難いと思います」

ショック!なんと富野監督の言葉は、ラジオ版の結末が違うことを示唆しているに他ならない!ショックに次ぐショックのファンを後目に、話題は急に主人公、アフランシ・シャアと恋人エヴァリーの話に・・・・・・

琴乃「この二人は劇中で離れ離れになってしまいますが、どうですか?」

市川「私は、いやです」

琴乃「絶対、一緒にいたいですか?」

市川「でも、本当に好きだったら、耐えちゃいますね(笑)」

富野「そういうふうに、耐えてちゃいけないんですよ・・・・・・というのが『ガイア・ギア』の最後の方の話になっています(笑)。ぜひ、その辺を読んでいただきたい、聞いていただきたいと思います」

琴乃「ハッピーエンドなのですか?」

富野「ハッピーエンドです。でも不幸なハッピーエンドです。そのへん逆に言いますと、男の願望がありまして・・・・・・『好きな人とは離れもしたいけど、いっしょにいたい』っていう、ものすごくわがままなところがあるんです。それが、エヴァリーはとてもやさしく、最後まで男のわがままを見てくれている・・・・・・中年というより、もう老年に入りかけている男が、いちばん望んでいることなんです。それを物語にしましたので、自分ではとてもせつないなあというのがあります。本音を書いてしまったので・・・・・・。」

すかさず琴乃ちゃんのスルドイ質問・・・・・・

琴乃「ということは・・・・・・エヴァリーさんは、富野さんの理想的な女性ということですか?」

富野「女は絶対こうあって欲しい、というお願いが書いてあります(笑)」

やおら立ち上がった富野監督、会場のファンを一望していわく・・・・・・

富野「みんな、がんばろうね!!それにしても今日来てるのは、ほとんど男ばかりだなぁ(笑)」

実はこの会場には、多勢の男性に混じって女性のお客さんが3人いた・・・・・・話は変わって琴乃ちゃんの新しい質問・・・・・・

琴乃「富野さんの作品の人物には、生活感のある人が多いなぁと思うんですが、動物哲学(傍点)みたいなものがあるんですか?」

富野「動物哲学?」

突然意味不明の単語が琴乃ちゃんの口から飛び出し、いぶかる富野監督・・・

琴乃「書いてあるんですよ・・・・・・」

そして台本を差し出してしまう琴乃ちゃん・・・一気に場内大爆笑!よくよく台本を見つめる富野監督・・・笑顔で会場に向かって一言。

富野「動物じゃなくって“行動哲学(傍点)”って書いてありました」

さらに場内大爆笑

富野「それはもう・・・・・・、当然あります。今日もここへ来て皆さんの顔を拝見して、思うことがあるんですけど・・・・・・自分自身が小学校から中学高校にかけて、今の言葉で言う“マニアックな人間”だったんですよ。それで自分自身がそれを突破するのに、どうしたらいいんだろうって・・・・・・。『やっぱり自分が嫌いなものも、好きになることが必要なんじゃないか』って考えたりなんかしました。つまり、人間というのは、自分が信じている以上にいろんなことに興味をもてるし、いろんなことを理解できるなってことを(僕は)自分自身で―この歳になっても―試しているんです。僕はロボットものというのが基本的に好きじゃありません。巨大ロボっていう、とんでもなくパワーのあるものが出て来ちゃうと、実は何もしないでも絵ができちゃうんです。ですから、巨大ロボットものは嫌いです・・・・・・ドラマをつくる上では邪魔ですから・・・・・・。だけれども『そう思っている僕が逆にロボットものをつくったらどうなるのかな』と試しながら仕事させてもらったら、これは悪いことじゃないなって思っています。人間の行動哲学って言うのは、こういうことです。はじめは一人ひとつのモチーフしかないんだけれど、それはかなり幅が持てるものじゃないのかな。で、そういうものを物語の中で描くことができたらいいなって。そのことがまさに僕にとってロボットものを作るための行動哲学になってます。ですから、もうじき15年になりますが、飽きずにガンダム1本でやって、まあ、死ぬまでやってもいいな、と思えるようになっているのも今言った部分にあります。でも、まあそろそろ疲れてきましたので、これ以降は皆さん方に作っていただきたいと思っています。・・よろしくお願いします」

最後はおふた方の今後の予定をチラリ・・・・・・

富野「『ガンダム』の新作をやるかもしれません・・・・・・でもそれは皆さんが考えている『ガンダム』ではないかもしれません・・・・・・」

意味深な言葉を残す富野監督

市川「アルバムを企画中です、来年には発売の予定です・・・・・・よろしくお願いします」

満面の笑みの陽子ちゃん・・・・・・浪々とした富野節に酔った貴重なトークショー・・・・・・本日はこれまで

富野由悠季全著作リスト~作品別コメント「ガイア・ギア」(ザ・スニーカー00年6月号)

「これはもう、僕ってヘタだなプロじゃないなー、という自分を発見した、振り返りたくもない作品です。『閃光のハサウェイ』で小説の作法を少しは覚えたかな?と思ってたんですけど、おごりのなれの果てですね」

富野由悠季に聞く!小説ガンダム全解説 ガンダムからの乳離れを目指した『ガイア・ギア』(ザ・スニーカー03年6月号)

「『ガイア・ギア』ねぇ・・・・・・。あれはヘンだよ(笑)。全然覚えてないもの。(いまもっとも再販が待たれている本である件に関して)待たれてないよ!(笑)。だってやっぱりさ、『ハイ・ストリーマー』と『ガイア・ギア』はちょっと狂ってるよね(笑)。でも本当に覚えてないんだよなぁ・・・・・・。たしか『ニュータイプ』って雑誌(『ガイア・ギア』は『ニュータイプ』に連載された)の形をもう少し綺麗にしていきたいんだよねぇって思って始めた気はする。担当は良悦さん(佐藤良悦/『ニュータイプ』初代編集長。現トイズプレス代表)だったんだっけ?そうか、良悦は『ガイア・ギア』を立ち上げてすぐに角川辞めたんだ。それで角川は大丈夫なのか?って心配した記憶がある。自分の中で、サンライズから離れて、角川映画に接近したいっていうスケベ根性がすごく重かった時期であるのも確か。ただなんにせようまくいかなかったわけだからね・・・・・・。え、文庫5冊分もあるの!あらやだ(笑)。嘘でしょう?なに書いてるの?なんだろうね、それ。もういま言ったことくらいしか思い出せません。ガンダムって作品の権利から離れたい、サンライズ離れしたいって意識で書いているのは『ガイア・ギア』ってタイトルからもわかるし、同時に『ガイア』っていう当時使われていた言葉のアナログ的なニュアンスをロボットに取り入れていきたいって思ったのも事実。でもそれも頭で考えている部分しかなくて、作品っていうのはそうやって頭や理念だけでは決して作れないから、『ガイア・ギア』はすごく敗北感が強かった記憶はかすかにあります。結局、ガンダム的な世界を使っている作品だから、ガンダム離れ、サンライズ離れができなかったし、乳離れができきれないっていう感触しか手に入れられなかったんですよ。」

対談-富野由悠季×上野俊哉(機動戦士ガンダムZZ メモリアルBOX タイプ2 ライナー)

上野 「(略)最後に、富野さんの作品には、子どもを育てるというか、子どもを作ることに解決がいくときがあるじゃないですか。僕はやっぱりアフランシが子どもを作るところにいくのとか、子どものことを想いながら流星群の中にいくという感じは、ちょっとやって欲しくないことでもあるんですよ。それは僕が子どもを作るか作らないかの選択以前に、子どもというところに、いままで言ってきた教育の話とか歴史の話とかが落ち着くのかなというのがあって」

富野 「あのね、気分は分かります。気分は分かるけれども究極的な解決策というのは、やっぱり子どもに託すしかない。やはり生物がこれだけ生き続けてこられたというのは子どもを作るというシステムを獲得したからだ。そうすると100~500年くらいで蓄えた知識、知恵が編み出した業よりは生物が編み出した業にやっぱり延命策であろうがなかろうが託すしかないんじゃないのかな。やはりいま僕の言葉でいえば『子どもへ』という言い方しかできない」

上野 「本能でもないわけですよね。もっと動物を支えている本能とか遺伝子とかじゃなくて、何か託すという、産むことであると同時に、何かを伝えていく」

富野 「そうですね。だから言っちゃえば『系』の一類にいるならば、そこには当然細胞的なつながりがあったときに、受け渡していくという。やっぱりそこにいかざるを得ない」

上野 「僕はその『系』が、必ずしも血のつながりでなくてもいいところが、洞察力とかカンの一種であるニュータイプなんじゃないかと思っていたから。だからアフランシが、実際には恐らくシャアは全く子どもを作らなかったにも関わらず、血がつながってて、その彼が子どもを作るというのが、僕には『ウワッ』と思ったんですよ。一瞬。そこでパッと本を落としたわけです(笑)」

毎日新聞1992年3月29日夕刊ラジオ面富野コメント部分

  • 「『ガイア・ギア』はスポンサーやメディアにとんちゃくせず、極めて個人的に書いた作品。小説以外の形にする気はなかった」
  • 「AMの時代が変わる境目に、自分の作品を発表できるのはうれしい」
  • 「どうせならメカニックな効果音はもちろん、大自然の音にも凝ってほしい」

トミノの流儀、トミノの思考(富野由悠季と宇宙世紀)

-『閃光のハサウェイ』を上梓される前、「月刊ニュータイプ」にて『ガイア・ギア』の連載をされていた時期もありました。『アベニールをさがして』もそうですが、宇宙世紀の世界観を持つ作品を、当時どのような意図で書かれたのでしょうか?

『閃光のハサウェイ』さえ覚えていないのに、『ガイア・ギア』なんてもっと覚えているわけないじゃないですか。ただ職業感で言うのなら、あのころはパラレルワールド、サイドストーリーという流行りがあったので、そういう部分で1冊でも売れるものを書けたと思ったんでしょう。だけど、やってみたら無理だったということなんです。そんなに大きな世界を作れるはずがない。安易な考えで手を出してはいけないということを教えられました。『ガイア・ギア』にはそういう記憶があります。

スタッフ・キャスト

遠藤明範(CD-2ライナー)

 「ガイア・ギアは、いわゆるロボットものである。それを音だけのドラマでやる。うまくやれるのだろうか?もっとも不安だったのは、戦闘シーンだった。マンマシーン同士のドンパチを、音だけで表現する。これは至難の技だ、とおもっていた。案の定、苦労の連続だった。アニメのシナリオでは、勝手気ままに書ける戦闘シーンが、映像という手段を奪われると、とたんに行き詰まってしまう。音で映像を表現することのむずかしさを、いやというほど認識させられた。でも、やりがいのある仕事だった。苦労も多かったが、自分にとって最大の収穫は、この作品に登場する多くのキャラクターたちとの出会いである。アフランシ、エヴァリー、ウル、マドラス船長・・・・・。幸せなことに、このCDを聴けば、いつでも彼らと再会できる。このCDを聴く人たちが、それぞれのアフランシ、エヴァリー、ウルと出会うことを祈っている。きっと、それは素晴らしい体験になるだろう。」

遠藤明範 「STORY」(サントラ1ライナー)

「オーディオ・ドラマ『ガイア・ギア』は、人類が宇宙に居住するようになって2世紀を過ぎて時代の物語です。ロボット・アニメとして一世を風靡した『機動戦士ガンダム』の基本設定をベースにしていますが、ガンダムの歴史的流れとは交わらず、いわゆるパラレルに展開する作品となっています。
 ガンダムでお馴染みの『ニュータイプ』と、ちょっと聞き慣れない『メモリークローン』。この二つの言葉が、ドラマのキーワードです。ニュータイプ―<宇宙に上がった人類の革新>。メモリー・クローン―<永遠に引き継がれる個人の記憶>。この二つを背負った主人公は、自分に課せられた役割から目をそらさず、真実の自己を求めて、激烈な戦いの中に身を投じていきます。
 このドラマの中でくりひろげられる戦い―それは、究極的には『地球を守る戦い』です。地球と人との関わり合い方が、いまほどクローズアップされている時代はありません。その意味では、この作品はたいへんに時宜を得ていると思います。ドラマの中で語られる『地球と人』との関係は、いまの我々には単なるフィクション以上の切実な問題なのです。ガイア・ギア―ガイア(地球という大地)・ギア(つなげるもの)。このネーミングの象徴することを、だれもが考えなければならない時代なのでしょう。
 さて、この作品のもう一つの切り口は―このドラマが<音>のみで構成されている、ということです。映像作品のように与えられたイメージを享受するのではなく、自由に想像力をふくらませ、聴く人が自分だけの『ガイア・ギア』を頭の中で描きながら楽しんで欲しい、と思っています。
 この素晴らしいBGMが、ドラマの感動を盛り上げ、聴き手の豊かなイメージを喚起させる重要な要素であることは、いうまでもありません。」

高梨由美子 「シリーズ完結によせて」(CD-5ライナー)

「人間のもつ素晴らしい能力の一つに想像力があると思います。一つの核を中心にイメージの中で、それこそ宇宙をも創造してしまうことの出来る想像力の素晴らしさ。そして五官の中で聴覚ほど想像力をふくらますことのできるものがあるでしようか?
 ―アフランシは、自分の体内のどこかから何かがカチカチと音をたてている感覚を完治していた。・・・彼の記憶巣の最も奥にある膨大なセル・チップが共振し、目覚める音だ。―
 『ガイア・ギア』の冒頭部分のこの文章が、スケールの大きいラジオドラマにしたいと思ったきっかけ、核となるものでした。この文章を核に、アフランシ・シャアという青年の自我の覚醒と、自我に目覚めた青年が自らのアイデンティティーを求めて宇宙に旅立ち、宇宙から地球を見ることによって、エコロジーを真剣に考えるというテーマを設定しました。このメッセージ、皆様の心にきっと届いたと信じています。
 このドラマを核にして、イメージの世界をもっともっとふくらませて、皆様だけの“マイ・ドラマ”をつくってみてはいかがでしょうか。」

高梨由美子 「ガイア・ギアに寄せて」(サントラ2ライナー)

 「―アフランシは、自分の体内のどこかで何かがカチカチと音をたてている感覚を感知していた。彼の記憶巣の最も奥にある膨大なセルチップが共振し、目覚める音だ―
 これは「ガイアギア」の冒頭部分の抜粋ですが、初めて読んだとき、ゾクッとしたのを今でも覚えています。そして「ガイアギア」をスケールの大きいラジオドラマにしたいと思ったのもこれがきっかけでした。
 原作者の富野由悠季さんは「ガンダム」という作品を十年以上造り続けていらしたわけですが、いつも我々に何か新しいもの、ゾクッとするようなかつてない切り口を提示し続けてくださったような気がします。それでなければ、「ガンダム」が、このように長きに渡って人気を持ち続けることは出来なかったはずですから。
 ガンダム世界から百年後の世界が「ガイア・ギア」では描かれるわけですが、ラジオドラマでは、この作品のテーマを、このカチカチという心奥からきこえてくる音が、セルチップを共振させ目覚めさせるという表現を軸にして設定する事にしました。すなわち、アフランシ・シャアという青年が自我に覚醒し、自らのアイデンティティーを求めて宇宙に旅立つ、そして宇宙から地球を見ることによって、エコロジーを真剣に考えるようになるというものです。
 企画当時、ヒトゲノムの解読が進められているというニュースがあったり、遺伝に対する興味が高まっていたこともあり、脚本家の遠藤明範さんと話し合って、いわゆるDNAではなく、記憶を遺伝させるということにしました。シャア・アズナブルの記憶をセルチップにしてアフランシの頭の中に埋め込む。カチカチという音は、セルチップの封印がとける音なのだということに。この音を、ドラマの核にして、更に大きなイメージ世界を広げようと思いました。これにもっともふさわしいメディアは、音声、すなわちラジオがベストだったわけです。
 遠藤さんとは、ほんとうによく話し合いました。例えば、敵側のキャラクター、ダーゴル大佐は非常に魅力的に描いて欲しい、強い敵でなければたおしてもつまらない等々、登場キャラクターの性格付けからストーリー展開に至るまで、深夜、ファクシミリと電話で何回もやりとりし、私のかなり厳しい要望と期待に遠藤さんは見事に応えてくださって、いい作品が出来たと思います。
 そして、ストーリーと同じくらい大切な音楽と音響、これについても作曲家の川崎真弘さんは、あまり私がたくさんの要望を出すので、はじめは頭をかかえていらっしゃいましたが、期待通りのすばらしい音楽が出来上がりました。音響監督の浅梨なおこさんも、昼も夜も頑張って、ステレオを生かした効果を充分あげてくださいました。
 作品を制作していつも思うことですが、たくさんの人の力があわさってはじめて、すばらしい作品が生まれるのです。そして、音楽をドラマを聞いてくださった人たちが又作品を育ててくださるのだと思います。
 制作にかかわってくださったたくさんの方、聞いてくださったたくさんの方に感謝を込めて・・・。」

川崎真弘 「音楽製作によせて」(サントラ1ライナー)

 「『ガンダムの時代から100年後と思って下さい・・・』『アフランシは、シャア・アズナブルのメモリークローンで、ICチップが・・・』『宇宙へ飛ぶのはですね、香港から・・・』
 そんな会話からこの物語の音楽打ち合わせが始まった。知らない人が聞いたら訳の解らない、途方もない話しを、あたかも既成の事実の様に語り合う制作スタッフ達の、この物語に対する愛情と入れ込みに心を動かされながら『ニュータイプ』という雑誌に描かれたガイア・ギアのイメージイラストをながめていると、鉄腕アトムで描かれた未来の都市がほとんど現実化した様に、いつかこんなものが空や宇宙を飛び交う日が来るのだろうか?などと頭の仲を、そんな思いが過ぎて行った。
 そもそも、こう云ったSF的な題材を皆で話し合って作業を進めると云うことは、それぞれの人達の中に共通したものと、そうではない個人だけのイメージが、大きくふくらまなければ、主人公達が生きて来ない。ただの想像物であり、絵に描かれたロウ人形の様になってしまう。でもひとたび皆のイメージがふくらんで、共通した世界がそこに創られると、彼らは血が通い、笑い、怒り、涙を流し、どんな巨大建造物でも雄大に空を駆け巡るのでしょう。そう云ったパワーを私達はイメージによって創り出せるのです。
 だから、同じ物語を見、聴いていても、それぞれのイメージによって『私のアフランシ』であり、又あなたの『ウル・ウリアン』と云うものが、ひとりひとりのイメージの中に生きているのではないでしようか。
 今、あなたが描いているガイア・ギアの物語は、今日見上げた空や、今住んでいるこの地球にあるのではなく、あなた自身の中で展開されているのです。そして、私がこの物語に描いた音楽も又、私自身の中にあるのです。それは、あなたのイメージした音楽とは少し違うかも知れませんね。でも今聴いている音楽が『あなたのガイア・ギア』の世界の中にジワジワと進攻して行くのが、作曲者としての楽しみでもあるのです。
 そして、それが少しでも多くの人々の共通した世界の一部になって行く事を、秘かに目論んでいるのです。『あなたのアフランシ』『あなたのエヴァリー』と共に音楽も私の手から離れて、あなたの世界の中で育つのだと思います。
 さて、この音楽の録音には約48名のミュージシャン達が一つのスタジオに入って録音しました。コンサートホールのオーケストラならば決して多くはないのですが、何しろ都内のスタジオです。ヴァイオリンの弓は隣の席の人までつっつきそうな程だし、大きな音の出る楽器は、小さな音しか出せない楽器から遠ざける等、基本的な条件があるので、スタジオの中は可成り騒然とします。
 自分の出番のない曲の時に、すぐスタジオから出ていってしまって、出番の時にはなかなか戻って来ない人がいたり、譜面がないと大騒ぎした後、よく見たらもう終わった曲の譜面と一緒にしてしまっていた人、昨日の録音が朝までかかって眠いと言って、ピアノの下で寝てしまった人(彼はピアノから始まる曲なのにどこにもいない、と皆で探し廻っているのに気付かずに眠り込んでいた)とまぁ、様々な事態に遭遇しつつも、さすがに、指揮者の棒が振られると、たちどころに私の書いたスコアに命が与えられるのです。打ち合わせをして、作曲に取りかかってから録音の日までは、ほとんど徹夜の毎日で書き上げた譜面が、初めて音楽として表現される時でもあり、私の方も可成り緊張し、無事録音が終わると、安堵と開放感と共に異常な脱力感がやって来ます。そしてのこのことBARに出かけて行って、飲みつぶれながら、その日録音された音楽が物語の中でどう生きて行くのか、と思い馳せると、何だか、長い間お腹を痛めて、やっと生んだ子供をすぐに里子に出す様な、不思議な感覚にとらわれながら(男の私がこう云う表現も変ですが)自分の描いた音楽が聴く人達の心の中に少しでも残り、育って行ってくれるのを心から祈るのです」

市川陽子(サントラ1ライナー)

 「ガイア・ギアの壮大なテーマを表現するのがけっこう難しかったですが、自分なりにガイア・ギアの世界をイメージして唄いました。私の歌声、聴いて頂けましたか。なにはともあれ、皆さんもこのアルバムを聴いて、ガイア・ギアの壮大な世界を楽しんで下さいね。
 (ガイア・ギアによせて・・・)文化放送40周年記念の番組としてガイア・ギアのテーマを唄えたことをとても嬉しく思っています。これからも、ガイア・ギアに負けない様なスケールの大きなアーティストとして頑張っていきたいです。」

伊東守 アート・ワークス(CD-3ライナー)

 「元々が小説の挿絵ですから、マンマシーンは、アニメでは動かせないような複雑な形のものにしてやろうと思いました(笑)マハとメタトロンの差別化については、まぁ、敵は悪役っぽくという基本を押さえて。苦労したのはモビルスーツの百年後、その頃のテクノロジーのニュアンスを出す部分ですね。超伝導モーターを使用・・・とか、設定の部分ではいろいろあったんですが。富野さんのチェックは・・・・富野さんが暇なときは割と沢山修正が送られてたりして(笑)。でもかなり自由にやらせて頂きましたね。
 今流行っているデザインにしなきゃいけないのかな、と考えもしましたが、自分で暴走した面も(笑)少々ありました。具体的にはブロン・テクスターとかゾーリン・ソールですね。脇のマンマシーンで気に入っているのはまあ、ガウッサでしょうか。割とシンプルに仕上がって、線としては好きなんです。もしかしたらあのあたりがガンダムから100年後のモビルスーツかな、と。
 割とガンダム系統とは違う形にはできた、と思うんですよ。ヒーローロボットみたいな感じにはしたくなかったという部分を含めて。基本的には飛行機とか車の要素を入れました。構造的にも内部フレームじゃなくて車のモノコックに近い構造。兵士のシルエットと言うよりは、工業製品ぽいイメージが出ているかと思います。
 僕は戦艦なんかが割と好きなんです。マザー・メタトロンで参考にしたのは、見ればすぐ分かると思いますが、「スタートレック」なんですね。形としては面白いのを狙ったんだけど・・・・ちょっと狙いすぎたかな?とも思います(笑)。注意したのは一目見て戦艦だと分かる形に、ただ、「宇宙戦艦ヤマト」のような砲塔はやめようと。ビーム砲なのに、砲身があるというのはちょっと違うんじゃないかな?と思っていたものですから。
 一番の難産はアルパでしたね。とりあえず変形する部分も考えなければいけなかったので。割と楽に出来たのはギッズ・ギースやゾーリンソール、ブロン・テクスターです。
 1点の制作時間は2週間くらいで、始めと後ろの部分だけの作業で、後は考えてる。頭の中で寝かせるというか。ヒントが浮かぶのは他の作業をしているときですね(笑)。
 今は劇場版パトレイバーのメカデザインをやっていますが・・・・将来的にやってみたいものですか?以前、海洋物がやりたくて、企画とか進めたりもしたんですが。映画のブームが去ってしまって、ちょっと難しくなってしまいましたね。」

横堀悦夫&岡村明美インタヴュー(ガイア・ギアon the Radio vol.2)
―大抜擢の理由をどう分析する?
横堀:「物語の最初の設定に合わせて、アカ抜ける前の役者がよかったんじゃないでしょうか(笑)」
岡村:「私の場合も素朴で感情をストレートに出す役ですから、私自身、まだちゃんと芝居ができていないことが逆によかった部分もある気がします」

―初対面の印象は?
岡村:「私はもう家を出るときからアフランシへの思いが乗り移ったようにエヴァリーに入り込んでいたので、『私のアフランシはどういう人なんだろう』と思って早くから来てて。声を聞いて、『あ、この人だ』ってすぐわかりました」
横堀:「そういう意味では僕もわかりましたよ。だって、あの、若い女性が少なかったから(笑)」
岡村:「そのときから彼はもう私のアフランシですから(笑)。弥生さん(クリシュナ役)と話しているのを見てヤキモチ焼いちゃってます(笑)」

―収録後の感想としては?
岡村:「絵がない分、自分の空想で世界が広がっていくのでやりがいがあります。演じてるとだんだん音(SE)が聞こえてくるような気がしますね」
横堀:「僕も自然に音が聞こえるまではいかないですが、頭の中にスクリーンがあって、『ここで息づかいがないとおかしい』とか思えるんですね。そういう演技ができたらいいと思う。」

アフレコ終了後コメント(ガイア・ギアon the Radio vol.7)
横堀悦夫「とにかく今はほっとしています。アフランシは人の上に立つ人なので難しかったですね。特にパリッシュやダーゴルとの会話では、いかに相手を納得させるか苦労しました。あとはいかに相手を愛せるか。結局、本当に悪い人はいなかったと思いますよ」
岡村明美「とっても早い5ヶ月でした。エヴァリーの成長に自分自身がついていけなかったのではと心配だったのですが、本当に気の抜けない役でした。女のコとしてはアフランシが帰ってきたのか見たい!続きがあれば、ぜひ会わせてあげたいし、いっしょに暮らさせてあげたいです」
森川智之「精神面で偏った2面性のある役なので、演じ分けるのが難しかった。でも悪い奴で終わらなくてホントによかった。ぜひ別の機会にまたやってみたい。ウルも本当に死んだかどうかわからないしね」
弥生みつき「感情の起伏が激しい役で、特にラストは印象的でした。ウルは本当の自分を出すと情けない男になっちゃうけど、だからこそお互いにピュアな気持ちでふれあえたんだと思います」
高山みなみ「私はあそこまで気性は激しくないけれど、今までにない役で面白かったです。男っぽくなりがちなセリフを女にとどめておくのが難しかったですね」
中田譲治「いいところも悪いところも人間らしい振れ幅のある人物で魅力的な役でした」

ガイア・ギア放送時の番組ディレクター岡田渥美氏インタヴュー(アニラジグランプリ4号)

Q.「なぜ富野由悠季原作の『ガイア・ギア』がドラマ化されたのか?」

A.「ステレオ化云々ということよりも、その年は文化放送が開局40周年記念だったんですよ。だからステレオ化のためというより、40周年という意味のほうが重い番組でした。“40周年のときにはドラマをやりたいな”と、その2年くらい前から思ってたんですよ。そのためにリサーチをしたり、勉強したり、ドラマについていろんなことを考えていて、最初はトレンディドラマっぽいものにしようかと思いました。しかし、そのストーリーではリスナーに受け入れられないと思いやめました。とにかく強い原作が欲しかったので、いろいろ考えました。」で紆余曲折の末アニメの根強い人気に着目しガイア・ギアを選ばれたそうです。

Q.「制作に当たっての苦労は?」

A.「まずは音!音で苦労しました。内容が近未来の話なので“現在にない音”じゃないですか?そう言う表現は難しかったですね。」そこで宮崎駿氏の当時の作品の音響担当者をスタッフに迎え非常にクオリティの高い作品に仕上げた。

Q.「メカニカルな表現・マシンなどのビジュアル面との折り合いは?」

A.「やはり音だけで表現するのは難しかったので、当時、原作が連載されていた雑誌と連動するような形でビジュアル部分はカバーしました。メディア・ミックスについては当初から番組が川上だとしたら、リスナーが待っている川下に着く間にアニメ、CD、ビデオと、いろいろなモノを生みたかったんです。当時はアニメドラマのCDってほとんど無かったんですよ。せいぜい、イメージアルバムがあるくらいで・・・。そういうモノを生み出すことによって、とにかく常に川上でありたい、そう思っていました。」

Q.「キャストについては?」

A.「“本当の”ドラマを作りたかったから、演技が出来る人が必要でした。だから声優だけでなく、横堀悦夫さんという、青年座にという劇団に所属していた俳優や、大竹まことさんのようなタレントも起用したんですよ。アフレコ現場の思いではチームワークは良かったですね。だけど、当然、苦労の連続でしたね。やっぱり声優はアニメのように映像に合わせ、演技することに慣れているから、音だけのラジオという媒体で、キャラクターの表情を声だけで表現することに、最初は戸惑っていたようでした。でも皆さんが頑張ってくれて、“声だけのキャラクター”を各々で、見事に成長させてくれて、とてもうれしかったのを覚えていますよ。最後のシーンを録り終えた後、スタジオでささやかながらパーティーをやったんですよ。あの時は楽しかったなぁ。」

Q.「反省点は?」

A.「この番組は現在のアニラジ番組のドラマ&トークというスタイルと違って“ドラマだけの30分”だったので、番組中にハガキをよんだりすることが出来ないため、リスナーの人とあまりコミュニケーションが取れなかったんですよ。それが少し心残りですね。こういった状況でもリスナーがついてきてくれたのは、小説やラジオって、文字や音だけのジャンルだけど、そこにはイマジネーションをふくらませたり、『アフランシって、こんな顔かな?』 とか『マンマシーンって、こんなメカかな?』といったキャラクター像などを想像したりする、受け手が入り込む余地があったんだと思うんです。」

Q.「逆に嬉しかったことは?」

A.「うれしかったのは番組終了後に富野先生からお礼の手紙をいただいたこと。そして、皆さんがラジオの可能性に気づいてくれたこと。そうすることにより、現在、アニラジ番組が大きく成長してくれたことは、とても嬉しいことですね。やはり『ガイア・ギア』が今の状況にいろんな風を吹かせた起点としての自負がありますからね」

関係者証言1 文化放送ディレクター白石仁司氏(アニラジグランプリ4号)

「僕が文化放送に入社して、初めて担当した番組が『ガイア・ギア』でした。といっても入社したてで、ほとんど何もできませんでしたね。岡田さんに頼りっぱなしで、そこにいるだけという感じでした(笑)。
 でも、この番組で多くのことを学んだのは確かですし、今、アニラジ番組を制作するうえで、大いに役立っているので、『ガイア・ギア』は僕の原点といえるでしょう」

関係者証言2 ジョー・スレン役古本新之輔氏(アニラジグランプリ4号)

「初めて台本を読んだときの印象としてストーリーが『機動戦士ガンダム』とからんでいたので、ガンダムをあまり見ていなかった僕には内容が少しつかみきれなかった。でも、監督から「確かにガンダムとはからんでいるけど、まったく新しいストーリーなので古本君なりに演じてください」って言われて気持ちが楽になったのを覚えています。ただ演じたジョー・スレンと僕の性格って逆なんですよ。向こうはインテリで(笑)。だから、なんで僕が選ばれたのか不思議ですね、今、考えると・・・。
 当時、僕は声優の仕事をあまりやってなかったんで、顔見知りが山寺さんしかいなかったんですけど、山寺さんがパイプ役になってくれて、難波さん、森川さんと知り合って人脈が広がったのが一番の思い出ですね。」

※このページは以下の資料を参考にしております
サウンドシアター「ガイア・ギア」CD-1,2,3,5
サウンドシアター「ガイア・ギア」サウンドトラック1,2
月刊ニュータイプ1992年5月号、11月号「Chase the G.G.」
アニラジグランプリ第4号
B-CLUB THE PLASTIC2 1992AUTUMN
ザ・スニーカー
機動戦士ガンダムZZLDボックスライナー
毎日新聞

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