《 孝 佳 紀 行 》 
〜 法然上人の和歌 〜

 宗祖、法然上人様が御活躍された当時は、おりしも平安文化華やかなりし時代であり、宮中では歌会が催され、多くの和歌集が編纂されたりもしていました。自然、当時の文化の重きをなしていた仏教界においても、仏の徳を讃え、経典の意味を平易に伝え、信仰心を策励するなどの意味で多くの和歌が詠まれることとなりました。
 法然様も世の風雅にならい、時々に、その御心の内を、このわずか31文字に託され、和歌をお詠みになられたようであります。
 今日、法然様の和歌は、諸説あるものの、二十数首が伝えられており、ここでは、その和歌をご紹介し、皆様と御一緒に味わさせていただきますと共に、先達のご研究を参考に、私なりに解釈をさせていただいたものを披露いたしたく思います。しかしながら、軽々しく法然様のお歌を云々いたしますことは「例えば短きつるべの、深き井に及ばず、池の蛙のわたつ海を知らざるがごとし。あわれむべし、恥づべし(『空花和歌集』序)」というご指摘もあろうことかと思いますが、この和歌を通じて、浄土宗のみ教えに親しむ助けになりますればと思い、浅学非才をかえりみず、私訳をさせていただきましたこと、どうかご容赦ください。なにとぞこちらまで、ご意見、ご叱正のほどを、よろしくお願い申し上げます。


1 さへられぬ光もあるををしなへて へたてかほなるあさかすみかな解 説
2 われはたゝほとけにいつかあふひくさ こゝろのつまにかけぬ日そなき解 説
3 あみた仏にそむる心のいろにいては あきのこすゑのたくひならまし解 説
4 ゆきのうちに仏のみ名をとなふれは つもれるつみそやかてきえぬる解 説
5 かりそめの色のゆかりのこひにたに あふには身をもをしみやはする解 説
6 しはのとにあけくれかゝるしらくもを いつむらさきの色にみなさむ解 説
7 あみた仏といふよりほかはつのくにの 難にはのこともあしかりぬへし解 説
8 極楽へつとめてはやくいてたゝは 身のおはりにはまいりつきなん解 説
9 あみた仏と心はにしにうつせみの もぬけはてたるこゑそすゝしき解 説
10 月かけのいたらぬさとはなけれとも なかむる人のこゝろにそすむ解 説
11 往生はよにやすけれとみなひとの まことの心なくてこそせね解 説
12 あみた仏と十こゑとなへてまとろまむ なかきねふりになりもこそすれ解 説
13 ちとせふるこまつのもとをすみかにて 無量寿仏のむかへをそまつ解 説
14 おほつかなたれかいひけむこまつとは 雲をさゝふるたかまつの枝解 説
15 いけのみつ人のこゝろににたりけり にこりすむことさためなけれは解 説
16 むまれてはまつおもひ出んふるさとに ちきりしとものふかきまことを解 説
17 阿弥陀仏と申はかりをつとめにて 浄土の荘厳見るそうれしき解 説
18 露の身はこゝかしこにてきえぬとも こゝろはおなし花のうてなそ解 説
19 これを見んおりゝゝことにおもひいてゝ 南無阿弥陀仏とつねにとなへよ解 説
20 ふぜうにて申す念仏のとがあらば めしこめよかし弥陀の浄土へ解 説
21 極楽もかくやあるらむあらたのし とくまいらはや南無阿弥陀仏解 説
22 いかにしてわれ極楽にむまるへき 弥陀のちかひのなき世なりせは解 説
23 いけらは念仏の功つもり、しなは浄土へまいりなん。
     とてもかくてもこの身には、思ひわつらふ事そなき
解 説


《 番外編 》
存応上人 草も木も枯れたるのへにたゝひとり 松のみのこる弥陀の本願
解 説